いちばんに思い浮かぶのは 1
「ジゼルさんと二人きりで出掛けたなんて知ったら、エルヴィスに怒られてしまいますね」
「そんなことはないかと……」
ふわりと花のように笑うと、ユーインさんは優雅な手つきでティーカップに口をつけた。
何故かわたしは今、王都の街中のオシャレなカフェで彼と二人で向かい合い、お茶を飲んでいる。
そして好きなだけ食べてください、と言った彼が次々と注文したことにより、食べ切れるか不安なくらいの量のスイーツが、テーブルにずらりと並んでいた。
「いえ、絶対に怒ると思いますよ。反応が楽しみです」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、そんなことを言ってのける彼が、一体何を考えているのかわたしにはわからない。けれど、エルはそんなことでは怒らないと思う。
授業が休みである今日、暇だなあと一人自室でダラダラしていると、突然コンコンと窓を叩く音がして。エルならば勝手に入ってくるはずだしと、恐る恐る窓を開けたところ、そこにはなんとユーインさんがいたのだ。
そしてわたしと話がしたいと言う彼の誘いを受け、今に至る。エルは誘わないのかと尋ねると、二人で話をしたいとのことだった。ちなみにユーインさんの魔法で、一瞬で街中まで移動できてビックリした。すごい。
「実はマーゴット様と体育祭の様子も見ていたんですよ。ああ、マーゴット様と言うのは私達の師匠です。それにしてもエルヴィスが、君の為に走った時には本当に驚きました」
「そ、そうなんですか……?」
「はい。それを見たマーゴット様なんて顔を両手で覆ったあと、姿が見えなくなりましたし」
まさかあの光景を見ていたなんて、と驚いてしまう。
「普段エルヴィスが大変お世話になっているので、貴女には何かお礼をしたいと思っているんです」
「そんな、お礼なんていりません。わたしこそ、エルが一緒にいてくれるだけで幸せなので」
「……本当に、エルヴィスは幸せ者ですね。ジゼルさんさえ良ければ、マーゴット様にもいずれ会って頂きたいです」
「はい、わたしで良ければ」
エルやユーインさんの、師匠。エルはクソババアなんて言っていたけれど、一体どんな方なんだろう。
エルは呪いをかけられたと言っていたけれど、ユーインさんの話を聞く限り、マーゴット様という方は彼のことをとても気にかけているようだし、よくわからない。
「食べた後は買い物に行きましょう。何かプレゼントでもして帰らないと、私が怒られてしまいますから」
「では、お言葉に甘えて食べちゃいますね。とっても美味しそうですけど、ユーインさんは食べないんですか?」
「私ですか?」
「はい。一緒に食べた方が絶対に美味しいです」
そう言うと、彼はやっぱり柔らかく目を細めて笑って。一緒に食べましょうか、とフォークを手に取った。
◇◇◇
「本当に、何も欲しい物はないんですか?」
「はい」
「アクセサリーやドレスなど、何でも大丈夫ですよ。こう見えても、お金は持っているので」
お腹がいっぱいになるまでご馳走になりカフェを出た後、ユーインさんはそう言ってくれたけれど。欲しいものなんて本当に何も思いつかない。
最低限のものを買うお金はまだ残っているし、と悩みに悩んだわたしはふと、一つだけ欲しいものを思いついた。
「あの、この先にエルの好きなお菓子屋さんがあるんです。そこでお菓子を買っていただけませんか」
「…………」
「ユーインさん?」
「……すみません、少し驚いてしまって。貴女は本当に、エルヴィスを一番に思ってくれているんですね」
そう言って微笑むと、ユーインさんはわたしに手を差し出してくれた。なんだか少しだけ恥ずかしいけれど、その手を取り二人でお菓子屋さんに向かう。
そこで店員が驚くほどたくさんのお菓子を買ったユーインさんは、それらを魔法でどこかへ仕舞った。便利すぎる。
「ジゼルさん、ここも見て行きませんか?」
「えっ」
彼が指差したのは、その隣にある高級そうなジュエリーショップだった。わたしには縁のなさそうなお店だ。
ここは大丈夫です、と言っても、彼はわたしの手を取り中へと入っていく。そして結局、とても綺麗なヘアアクセサリーを買ってもらってしまった。
「よく似合っていますよ」
「ありがとう、ございます……」
ユーインさんは早速髪に着けてくれたけれど、高価な物に慣れていないわたしは、なんだか落ち着かない。やっぱり返そうかなんて悩んでいると、そろそろ戻りましょうかと声を掛けられた。
「たくさんのお土産を渡す為にも、まずはエルヴィスのところに行かないとですね」
そう言ってユーインさんはわたしの手を取り、人気のない路地に移動した。そして行きと同じように「手を離さないように」と彼が言った数秒後、浮遊感を感じて。
次の瞬間には、目の前の景色は変わっていた。
「は?」
「えっ」
気が付けば目の前には、ぽかんとした表情を浮かべ、ソファに腰掛けているエルの姿があった。なんと直接、エルの部屋の中に移動したらしい。絶対に他に方法はあったと思う。
「こんにちは、エルヴィス。お邪魔します」
初めて入ったエルの部屋は物が少なく整頓されていて、男の子の部屋という感じがする。
不可抗力とは言え、勝手に入って来てしまったことを謝ろうとすると、不意に耳元でユーインさんが「ほら、怒っているでしょう?」と囁いて。
まさかそんなはずは、と再びエルへと視線を向ければ、彼は見るからに不機嫌な表情を浮かべていた。
「お前、そいつとなにしてんの」
…………あれ?
遅くなってしまい、すみません……!ツイッターにて、素敵なFAを公開させて頂いています!感想や誤字脱字報告も、いつも本当にありがとうございます。




