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家から逃げ出したい私が、うっかり憧れの大魔法使い様を買ってしまったら  作者: 琴子
第二章

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25/88

いちばんに思い浮かぶのは 1



「ジゼルさんと二人きりで出掛けたなんて知ったら、エルヴィスに怒られてしまいますね」

「そんなことはないかと……」


 ふわりと花のように笑うと、ユーインさんは優雅な手つきでティーカップに口をつけた。


 何故かわたしは今、王都の街中のオシャレなカフェで彼と二人で向かい合い、お茶を飲んでいる。


 そして好きなだけ食べてください、と言った彼が次々と注文したことにより、食べ切れるか不安なくらいの量のスイーツが、テーブルにずらりと並んでいた。


「いえ、絶対に怒ると思いますよ。反応が楽しみです」

 

 人の良さそうな笑顔を浮かべ、そんなことを言ってのける彼が、一体何を考えているのかわたしにはわからない。けれど、エルはそんなことでは怒らないと思う。



 授業が休みである今日、暇だなあと一人自室でダラダラしていると、突然コンコンと窓を叩く音がして。エルならば勝手に入ってくるはずだしと、恐る恐る窓を開けたところ、そこにはなんとユーインさんがいたのだ。


 そしてわたしと話がしたいと言う彼の誘いを受け、今に至る。エルは誘わないのかと尋ねると、二人で話をしたいとのことだった。ちなみにユーインさんの魔法で、一瞬で街中まで移動できてビックリした。すごい。


「実はマーゴット様と体育祭の様子も見ていたんですよ。ああ、マーゴット様と言うのは私達の師匠です。それにしてもエルヴィスが、君の為に走った時には本当に驚きました」

「そ、そうなんですか……?」

「はい。それを見たマーゴット様なんて顔を両手で覆ったあと、姿が見えなくなりましたし」


 まさかあの光景を見ていたなんて、と驚いてしまう。


「普段エルヴィスが大変お世話になっているので、貴女には何かお礼をしたいと思っているんです」

「そんな、お礼なんていりません。わたしこそ、エルが一緒にいてくれるだけで幸せなので」

「……本当に、エルヴィスは幸せ者ですね。ジゼルさんさえ良ければ、マーゴット様にもいずれ会って頂きたいです」

「はい、わたしで良ければ」


 エルやユーインさんの、師匠。エルはクソババアなんて言っていたけれど、一体どんな方なんだろう。


 エルは呪いをかけられたと言っていたけれど、ユーインさんの話を聞く限り、マーゴット様という方は彼のことをとても気にかけているようだし、よくわからない。


「食べた後は買い物に行きましょう。何かプレゼントでもして帰らないと、私が怒られてしまいますから」

「では、お言葉に甘えて食べちゃいますね。とっても美味しそうですけど、ユーインさんは食べないんですか?」

「私ですか?」

「はい。一緒に食べた方が絶対に美味しいです」


 そう言うと、彼はやっぱり柔らかく目を細めて笑って。一緒に食べましょうか、とフォークを手に取った。




◇◇◇




「本当に、何も欲しい物はないんですか?」

「はい」

「アクセサリーやドレスなど、何でも大丈夫ですよ。こう見えても、お金は持っているので」


 お腹がいっぱいになるまでご馳走になりカフェを出た後、ユーインさんはそう言ってくれたけれど。欲しいものなんて本当に何も思いつかない。


 最低限のものを買うお金はまだ残っているし、と悩みに悩んだわたしはふと、一つだけ欲しいものを思いついた。


「あの、この先にエルの好きなお菓子屋さんがあるんです。そこでお菓子を買っていただけませんか」

「…………」

「ユーインさん?」

「……すみません、少し驚いてしまって。貴女は本当に、エルヴィスを一番に思ってくれているんですね」


 そう言って微笑むと、ユーインさんはわたしに手を差し出してくれた。なんだか少しだけ恥ずかしいけれど、その手を取り二人でお菓子屋さんに向かう。


 そこで店員が驚くほどたくさんのお菓子を買ったユーインさんは、それらを魔法でどこかへ仕舞った。便利すぎる。


「ジゼルさん、ここも見て行きませんか?」

「えっ」

 

 彼が指差したのは、その隣にある高級そうなジュエリーショップだった。わたしには縁のなさそうなお店だ。


 ここは大丈夫です、と言っても、彼はわたしの手を取り中へと入っていく。そして結局、とても綺麗なヘアアクセサリーを買ってもらってしまった。


「よく似合っていますよ」

「ありがとう、ございます……」


 ユーインさんは早速髪に着けてくれたけれど、高価な物に慣れていないわたしは、なんだか落ち着かない。やっぱり返そうかなんて悩んでいると、そろそろ戻りましょうかと声を掛けられた。


「たくさんのお土産を渡す為にも、まずはエルヴィスのところに行かないとですね」


 そう言ってユーインさんはわたしの手を取り、人気のない路地に移動した。そして行きと同じように「手を離さないように」と彼が言った数秒後、浮遊感を感じて。


 次の瞬間には、目の前の景色は変わっていた。


「は?」

「えっ」


 気が付けば目の前には、ぽかんとした表情を浮かべ、ソファに腰掛けているエルの姿があった。なんと直接、エルの部屋の中に移動したらしい。絶対に他に方法はあったと思う。


「こんにちは、エルヴィス。お邪魔します」


 初めて入ったエルの部屋は物が少なく整頓されていて、男の子の部屋という感じがする。


 不可抗力とは言え、勝手に入って来てしまったことを謝ろうとすると、不意に耳元でユーインさんが「ほら、怒っているでしょう?」と囁いて。


 まさかそんなはずは、と再びエルへと視線を向ければ、彼は見るからに不機嫌な表情を浮かべていた。


「お前、そいつとなにしてんの」


 …………あれ?



遅くなってしまい、すみません……!ツイッターにて、素敵なFAを公開させて頂いています!感想や誤字脱字報告も、いつも本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユーインさんはすさまじく大好きなんだけど エルが嫌がるとわかっていながらやる そういう性格の相手が長年の相棒なら エルの性格が歪んでしまうのも仕方ないんじゃなかろーか……と、ふと、そう感じ…
[一言] エル、ジゼルの愛は当たり前じゃないんだぞ!自分の気持ちに早く気付いて~!(笑) ん~、でもジゼルが他の男の人と仲良くしてるのをみて、モヤモヤするエルを存分にみたい気もする…
[良い点] お礼とか言って勝手に連れ出してヘアアクセを送り、怒るとわかっているのにエルの部屋に直接行く辺りの確信犯ぷりの性格の悪さが良いですね [気になる点] おしゃれなカフェで机いっぱいにケーキを広…
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