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歴史探偵アケチ  作者: 橘晴紀
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助手決定④

 小林と京子は向かい合い押し黙っていた。桃香も手は空いているが、カウンターのイスに腰掛けて水槽を眺めている。微妙な空気の中、小林が口を開いた。

「あのぉ、一条先輩。僕に声を掛けてくれた本当の理由を教えてください」

 小林は最初に明智と京子に会ったK大のカフェでふたりが言っていた自分についての事で、京子から好印象を受けているのを期待した。

「実はねぇ…」

 そう言いながら京子は桃香を呼んだ。

「桃ちゃん。小林くん、誰かに似ていない?黒のスーツに蝶ネクタイして、髪の毛青く染めたらよく似合うよ」

 ジっと見つめる桃香に目を反らす小林。

「あ~!隼人?ヒメちゃん、そうだよね?」

「当り!きっと似合うよ。でも…」

「な、何ですか?隼人って」

「アニメのキャラクターなんだけど、それが小林くんにソックリなのよ。だから、その衣装を着ればよく似合うと思ったんだけど…」

 それを聞いて小林は疲れがドッと出た。訳も分からず連れて来られて、悩んだあげく唯一の望みであった京子の言葉が自分の期待したものと全く違った。

 傾きかけた心は嘘ではないが、正直ガッカリしたことでかえって自分の意志が確認できた。目の前のふたりは残念がってはいるものの、何だか楽しそうである。

 今日は自分の全く知らない世界にいる人たちと出会えた。半日ここで過ごしたが、それなりに自分も楽しめた。自分が持っていないものを全て手にしているような憧れの先輩。その人の側に居られるのも満更ではないと小林は思っていた。そんなまだ迷う小林に、京子が背中を押す一言を放った。

「小林くん。桃ちゃんも三階に住んでいるんだよ!」

 京子の言葉に小林へ笑顔を送る桃香。一度、外に出た京子が戻ってきたその手にはアパートの鍵が握られ、それを笑顔で渡す彼女に小林は軽く頭を下げて受け取った。小林はそのまま京子に手を引かれながら、ヒメビルの二階、六歴探へと連れて行かれた。

 扉を開けると中は結構広いが、窓側から部屋半分ぐらいに机やソファーが置かれ、一応事務所らしい感じではあった。部屋のセンター辺りに戸棚やロッカーが置かれ、その後ろにカーテンが天井から垂れさがっている。

 部屋の中に進むと、長いソファーに明智が寝ていた。京子がそっと明智に毛布を掛け、小林を静かに部屋の奥へ案内した。カーテンをゆっくり開けると、そこは所狭しと衣装が並んでいた。まるでそれはブティックのようであった。

「この衣装は?」

「下の店で置けない分の在庫品。二階はヘイちゃんの住居兼事務所。それと作業場兼倉庫っていったところかな」

「じゃあ、ここで先輩は衣装を作っているんですか?大変ですね?」

「そうよ。むさ苦しいところでしょ?でも、みんな楽しみに待ってくれているから頑張れるの」

 そう言いながら京子は衣装を掻きわけた。

「海外からも発注があるんですよね?」

「ええ。まだアニメをバカにする人も多いけど、それは日本だけね。『ジャパン』って昔から漆塗りの事を言ってたらしいけど、今や海外で『ジャパン』と言えばアニメ。だから、海外の需要も多いんだよ」

「何か面白いですね?同じビル内で歴史探偵事務所とコスプレショップ。全然繋がりが見えない」

「それは違うよ、小林くん。私も最初そう思ってたけど、ヘイちゃんの話を聞いていたら一件関係ないものでも繋がって見えてきた」

「そうですかね?」

「その内、小林くんもきっと解るよ。あった~、これだ。はい、小林くん」

 京子は一着のスーツを小林に手渡した。

「こ、これは?」

「さっき話してた隼人の衣装。明日からこれが小林くんの制服ね。合わせてみて」

「え~、これを着るんですか?」

「そうだよ。頑張ってね」

 小林は目の高さまで衣装を上げて困惑の表情でそれを見つめた。

「おめでとう、小林くん。ひとつ忠告しておくが、隣人のミルクはよく鍵を掛け忘れる。くれぐれも間違いを起こさないように」

「起こしませんよ!」

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