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歴史探偵アケチ  作者: 橘晴紀
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幻の刀③

 明智はその夜兼男から聞いたことを語った。兼男は妹の朋絵に東京へ戻る日を一日遅く伝え、実際は一日早く京都を出て長野の実家へ向う予定だったという。

 そのように言った理由は朋絵より先に実家へ戻り、隠してあったあるモノを取り出すためだった。それは兼男自らがそうしたことで、その後明智に連絡する手筈だった。万が一、自分にもしもの事があったときは明智に取り出すよう頼んでいた。そして、それは現実となった。明智は朋絵の自宅に行き、兼男との約束通り、彼が埋

めたという桜の樹の下からあるモノを掘り起こした。

 明智は手に持っていた刀の鞘を抜いて、刃を立てて、鞘と共に朋絵に見せた。

「この刀はあなたが蔵から出して持ち歩き、お兄さんから頼まれても決して渡さず、私に預けた中原家の宝刀で間違いないですね?」

「はい。間違いないです」

 明智は刀の柄を朋絵に向け彼女に手渡した。

「刃の根元をよくご覧になってください」

 刀を受け取った朋絵は顔を近づけ、刃の根元を確認した。

「何か彫ってありますね?」

 再度確認した朋絵は彫ってある字を読んだ。

「T…K?…ですか?」

「平安時代につくられたものですよ」

 明智に聞かれ、再び字を読む朋絵。

「そうですよね…でも、やっぱり…T…Kにしか見えません…ね」

 顔を上げた朋絵は何かに閃いた。

「まさか、これは偽物ですか?」

 朋絵は紗佳の顔を見て困った表情をした。

「はい。それこそがお兄さんの製作依頼によってつくられた刀です」

「え~~~!」

 朋絵は驚きを声に出せず、それは明智以外、全員の声であった。

「ちょ、ちょっと待ってください。ということは…兄が…つくった…」

 混乱しているのは朋絵だけではなかった。明智は皆の混乱に乗じ、一服を許され様子をみたあと語りだした。

 兼男は数年前から鳥取で刀製作を依頼していて、それが完成したのを期に売却を含めた刀の展示を企画していた。そんな時に東京でイベント会社を経営している太田雅嗣と知り合い、太田の会社に刀のことを任せるところまで話は進んだ。

 その時、太田の指示によりレプリカ製作をおこなった。それは兼男が京都の骨董店を介して依頼した刀であり、事件の発端にもなったモノである。

 その時点で刀は本物一本、鳥取で製作されたレプリカ一本になった。もちろん、それを知っているのは兼男ひとりであった。本物の刀は中原家の蔵にあり、兼男は鳥取で製作された刀を所持していた。

 そして、兼男は実家に戻り朋絵と話し合ったあと、自身が持っていた鳥取の刀と本物をすり替えた。

 翌日朋絵は刀がすり替わっているのを知らず、それを持って京都まで旅をした。そして、明智を尋ねたあと兼男はもう一本のレプリカを受け取りに骨董店へ行き、それで刀は合計三本になった。話を聞いて朋絵は目を丸くしている。他の皆も同様に声も出ない。

「もう、お気づきでしょう。桜の樹の下に埋められていたのが本物の刀です」

 そう言って明智は懐から刀を取り出し朋絵に手渡した。震えながら刀を受け取った朋絵は何度も方向を変えもう一本の刀と見比べた。

「一緒だ!」

 朋絵の声に紗佳、小林、京子、桃香も近づき確認した。皆口々に同じことを言った。

「これは警察の押収した奥平が兼男さんから奪った京都でつくらせた刀です」

 そう言って明智は写真を見せた。

「全然違う!」

 一同が声を上げた。

「そうです。一目でわかります。しかし、鳥取で製作されたものは忠実に再現されてい

ます。いいえ、そうではなく限りなく本物に近い。それもその筈、オリジナルは兼男さんが依頼した刀鍛冶の遠い先祖がつくったものに間違いないらしい」

 驚く一同に明智は続けた。平安時代、源氏の祖といわれる源満仲は三男の頼信に跡目を譲った。その時、二本の刀を与え、それが源氏の嫡流の証になった。

 後に頼信の血筋は八幡太郎義家、義朝、そして鎌倉幕府を開いた頼朝へと続いた。源氏の祖の次男に生まれながら弟の方が嫡流になった頼光は鬼退治で朝廷でも有名になり、一般にも弟より知名度は高い。

 その頼光は一本の刀を伯耆国、今の鳥取の名工に太刀をつくらせた。頼光はそれを後に「鬼斬り」と名付けた。それを製作した刀鍛冶の子孫が兼男の依頼した人物であるという。頼光は太刀と一緒に短刀もつくらせた。なぜなら、実戦や鑑賞用には太刀でいいが、実際移動する際に持ち運び易く、容易に隠して守れる短刀は太刀同様に価値があった。

 その後、頼光は京都の刀鍛冶に「鬼斬り」のレプリカをつくらせた。それを頼光は弟であり、源氏の嫡男となった頼信に贈った。

 現在、源氏の宝刀は源氏の祖、満仲が頼信に与えた「鬚切り」「膝丸」に加え、レプリカの「鬼斬り」であるといわれる。その中の一本は源平の争乱時、平家に奪われた。また、レプリカの「鬼斬り」が「姫斬り」に名を変えたという話もある。

 実際、武家の神器として刀は命にも代えがたいと過去に名だたる武将たちが奪い合った。鞍馬寺に保管されていた征夷大将軍の坂上田村麻呂の宝刀も義経が平家から守ったといい、一度は奪われた源氏の宝刀も平家を追い出した木曾義仲が奪還したともいわれる。

 いずれにしても、武家にとって武士の魂を吹き込む刀鍛冶は大事にされ保護された。話を終えた明智は皆から少し離れて火柱を上げた。

 各々が明智の歴史話を飲み込んだ。

「よく、刀鍛冶を見つけられましたね」

 大きめの声で朋絵が聞いた。

「それが仕事ですから。大変だったのはお兄さんのほうです。歴史は苦手だとおっしゃっていましたから、ここまでに相当骨を折った事と思います。さすがにエンジニアをされていただけはある。実に、丹念に調べ上げて実行されていました。それが厳格な職人の心を打ち、鉄を打たせたのでしょう」

 朋絵は口を真一文字にして瞑想した。紗佳は目を腫らして遠くを見つめている。小林は腕組みをして何度も頷いている。その横で桃香は京子の袖を掴んで揺らした。

「どうしたの?桃ちゃん」

「こんな時に言うことじゃないかもしれないけど、かっこいいなぁ!」

「またぁ~!桃ちゃんはほんとヘイちゃんラブだねぇ!」

「もう!ヒメちゃん。業平様はもちろんだけど、男の人ってロマンを求めるって本当だね。兼男さんもきっと素敵な人だったんだろうなぁ」

「アレ?桃ちゃん、心変わり?」

「何言ってるの!そうじゃなくて、たぶん業平様と兼男さんって、会ったのは少しの間だったと思うんだけど、お互いなんとなく解り合っていた気がする。それが業平様の言うサムライなんだよ」

 桃香は始終明智を見つめながら語った。それを京子は微笑んで見守った。

「明智さん。兄は何故そこまでしたのでしょう?あの兄が…」

「何度もいいますが、お兄さんはあなた同様刀を守りたかった」

 朋絵は小刻みに首を縦に振った。

「刀鍛冶は兼男さんに今から言う話を受けて、刀製作を決めたそうです」

 朋絵は身構えた。他の者も明智に注目した。兼男は数年前、まだ存命だった父から先祖が守ってきた刀の話を聞いた。そして、あることを父から託された。

 それは刀本体を妹である朋絵が守る事になっていたが、兼男は刀のレプリカ製作を父に頼まれた。それは本物と寸分違わぬほどの物でなければならなかったという。なぜなら、過去先祖たちがそうしてきたからだ。特に今のように技術を継承するのが難しくなってきた時代、後世にひとつでも多く遺したいという思いからそう考えたという。それが受け継いだ者の使命であると、父は語ったという。

 そして、それは同時にバックアップにもなる。万が一、オリジナルが失われたとしても寸分違わぬ物なら、その精神を受け継いでいる。それは焼失した歴史的建造物などを見ればよく分かる。建物は建て替えればいい。動かせる物はスペアをつくる。

 そのシステムこそが一番大事であると兼男の父は語ったという。そして兼男は長い調査の結果、「鬼斬り」を製作したという刀鍛冶の子孫に辿り着いた。

 話終えた明智は例によって朋絵と紗佳から離れてタバコを取り出したが、中身が空のため袋をクシャクシャに丸めた。明智に近づいた朋絵が言った。

「父が兄にそのような事を託していたなんて全然知りませんでした。どうしてふたりとも私に言ってくれなかったのでしょう?」

「敵を欺くにはまず味方から…じゃないですか?おそらく、おふたりとも以前から不穏な空気を感じ取っていたのでしょう。本丸は朋絵さん、あなたです。それを守るために、周りを固めていったのだと思いますよ」

「それが刀のレプリカ製作だと?」

「余りの出来に完成した刀を見て兼男さんは驚いて、刀鍛冶は刃の根元に字を彫ってほしいと頼まれたそうです。よく見ればレプリカとわかるようにアルファベットで」

 二本の刀を手にした朋絵は涙を流した。改めて現実を知った。自分の全く知らないところで父と兄が刀を守るために動いていたこと。すでにそのふたりはこの世にいない。これから自分が守らなければならない。

「私は何をしていたのだろう。味方であるはずの兄から逃げて…兄の事を何も知らず、それどころか兄を悪者のように思っていた」

 崩れかけた朋絵を紗佳が支えた。

 朋絵は紗佳を見つめた。

「ごめんね、紗佳。私のせいであなたから大切なお兄ちゃんを奪って…」

 首を横に何度も振る紗佳。朋絵は二本の刀の鞘を抜いて紗佳に預けた。そして、二本の刃を見比べたあと一本を紗佳に渡した。次の瞬間。

「痛い!痛いです。明智さん」

「それをどうするつもりだ!」

 明智は朋絵の手首を掴んで刀を取り上げた。

「だって、だって…私、どうしたらいいか分からない!お兄ちゃんもいないし…」

「だからって、そんな事をしたらダメ!私もできるだけ協力するから頑張ろう!朋絵」

「ゴメン!ゴメン!」

 朋絵は紗佳にもたれて号泣した。明智はふたりから離れてライターを掴んだ。しかし、タバコがないのを思い出し歩き出した。すると、いつの間にか不在であった小林が階段を下りて明智のもとに走ってきた。

「どうぞ!先生」

「すまないな!小林くん」

 明智は小林に手渡された新品のタバコの封を切って箱の上部を二本の指で叩いた。

「大丈夫かな?朋絵さん」

 心配そうな京子と桃香のそばに明智が来た。

「大丈夫だ」

 明智は京子と桃香に微笑んだ。

「先生。あれほどシッカリしている朋絵さんでも、あのようになるとは相当ですね?」

「それが伝統を受け継ぐ者の試練だ。特に刀のような物は作り手や持ち主の魂が籠っている。それでも彼女は寸前のところで冷静に判断ができた」

 明智はそう言って小林に朋絵から奪った刀を見せた。刃の根元にはTKの文字があった。

 明智は刀を紗佳に渡して朋絵に言った。

「あなたは三佳人をご存じですか?」

「確か…平安末期から鎌倉時代にかけて、いわれた美女のことですよね?常盤御前、巴御前、静御前ですね」

「三人ともただ美しかっただけではなく、時代に翻弄されながらも逞しく生きた」

 ふたりの会話内容を知らない他の四人が近づいてきた。特に京子と桃香は興味津々さが顔に表れていた。明智は四人を見て語った。源義朝に嫁ぎ義経などを産んだ常盤は、子供たちを守るため敵の平清盛に身を委ねた。

 その後、無事成長した義経は静と出会い、恋に落ち静は彼の子供を宿した。しかし、義経が兄の頼朝に攻め滅ばされた後、子供を頼朝によって殺された。

 巴御前は木曾義仲の命で故郷に帰され、その後の消息ははっきりしないが、義仲との間に何人もの子を儲けたという説もある。明智は朋絵のほうを見て話を続けた。

 巴が常盤、静と違うのは彼女が愛した男と共に戦ったということ。巴は敵の平家や義経軍の武将からも恐れられるほど活躍した。長い黒髪を束ね葦毛の馬を自在に操り、戦場を駆け巡った。太刀や槍を持ち、煌びやかな鎧兜に身を包み、敵を倒していったと記述がある。

 その後、巴御前は義仲と別れ、単身故郷に帰り愛する男を弔った。明智の話が終わって朋絵や他の者たちは、話の意図が見えなかった。

「兼男さんは別れ際にこんな事を言われました。『妹には愛する人とずっと幸せに暮らしてほしい。ただそれだけだ』と。それがお兄さんの一番の願いだったのでしょう」

 朋絵は涙を流し、青空を見上げた。その手には二本の刀が握られていた。朋絵以外の全員は最早、彼女が刀で自分を傷つけることはおろか、それを粗末に扱うことはないだろうと確信した。それから朋絵は遠く平安時代の悲劇かそれとも、自らの周りで起こった出来事を断ち切るかの如く彼女なりの儀式を行った。

 その間、皆は朋絵を見守った。一番近くにいた紗佳は朋絵をジッと見つめ、小林は目を瞑り、京子と桃香は共に手を繋いで朋絵と紗佳を見つめた。一番遠くにいた明智は物思いに耽っていた。朋絵は明智に近寄り深々と頭を下げ感謝の意を述べた。川面近くで話す明智と朋絵を他の四人は静かに見守った。

「いやだ!」

 そう呟いた紗佳に京子が聞いた。

「どうかしました?」

 口元に手を当てていた紗佳が目を丸くしながらゆっくり答えた。

「今ほんの一瞬、ふたりが木曽義仲と巴御前に見えたもので…驚いてしまって…」

 それから四人に言葉はなく、ただ水辺で語らう明智と朋絵を見いっていた。桃香が隣にいる小林の手首を強く握った。小林は何か言いかけたが口を噤んだ。

 すると桃香が呟いた。

「わかってる。大丈夫だよ」

 そのあと朋絵は明智を残して、四人のもとへ来て頭を下げ、感謝を伝えた。

「寒いねぇ!」

 誰からともなくそう言って、女性陣は体を寄せ合った。そんな皆を見て桃香が言った。

「皆さん。店に戻りましょう。ぜんざいを温めますから召しあがってください」

「やったぁ~!ぜんざい、ぜんざい!」

 はしゃぐ京子は朋絵の手を、桃香は紗佳の手を引いて歩きだした。

「業平様。早く!あっ、小林くんも」

「僕はついでですか?」

 拗ねる小林を余所に、明智は桃香に後で行くと伝えてタバコを咥えた。河原に残った明智に小林は近づいた。

「先生。今回も大変でしたね。探偵という職業は厳しい半面、凄く楽しく奥深いと感じました。もっとこの仕事を知りたいです」

「キミは研究者になるんだろう?」

「はい。以前、一条先輩が先生のそばにいると、きっと将来の僕に役立つと言っていました。それがなんとなく分かる気がします」

 目を輝かせて語る小林に明智は言った。

「探偵にとって最も重要なことは?」

「それは…依頼人の秘密は絶対に守るということですよね?」

「そうだ。今回、依頼人の秘密は守られたか?」

「依頼人の兼男さんは亡くなりましたから、今回は…朋絵さんになるのですか?」

「いいや!兼男のままだ」

「でも、亡くなりましたし、朋絵さんは妹ですから、先生は刀の話をしたのでしょう?」

「いくら依頼人本人が死んでもそれは変わらない。それに朋絵に話したことは兼男のした事と彼の想いを伝えただけだ」

 小林はすぐに明智へ質問しようとしたが一旦、自分なりに考えた。

「では、まだ朋絵さんに話していないことがあるのですか?」

 明智は煙で答えた。それを目で追う小林は煙が消えたあと息をのんだ。

「兼男は中原家代々の宝刀を守ることに命を懸けた。それは間違いない。しかし、彼にはもっと守らなければならないものがあった。それは兼男と朋絵が実の兄妹ではないことを彼女に気づかれてはいけないということ」

「え~!そうだったのですか?」

「兼男は生まれてすぐに中原家に引き取られたらしい。それは両親と兼男だけの秘密であった」

「数百年続く家宝を守るよりも大事だったのですね?僕にも妹がいますけど、血が繋がっていないと分かるとそれはショックですね。だけど、そこまで思うかなぁ」

 小林はしばらく考えて言った。

「それが分かったところで何も変わらないですけど、ヘンな気を使うかもしれません」

「今は少なくなったが、戦前までの日本は世界に類をみない養子制度を取り入れた国だった。それはこの国が長らく行ってきた『家』の存続こそが大事だとしてきたからだ」

「朋絵さんは旧家の人ですから、もし兄と血の繋がりがないと分かっても、そのようなことは承知の上ではないのでしょうか?」

「そうだ。それでも兼男は本当の兄妹でないことを朋絵に絶対知られてはいけなかった。何故だと思う?」

 澄み渡る青空のもと、河原にいる男ふたりが話すのを、橋を渡る人が不思議そうな顔で見ている。

 雪が積もるほどの季節に軽装の長身で涼しい顔の男と、顔の細さの割に膨らんだ服を着る若い男。

 まるで接点が見当たらない二人を道行く人が不思議に思っても当然である。

 小林は考えたあげく明智の質問に答えた。

「中原家の財産が入らなくなるから?」

「戸籍が入っていれば問題ない!」

「じゃあ、籍が入っていなかったのでは?」

「それはないだろう。朋絵が戸籍謄本を見ればすぐ分かるから、兼男は実子として載っているはずだ。もし養子ならいずれ朋絵も知るからそこまで隠す必要がないし、財産問題も気にしなくていい」

「そうですよね…」

 壁に当たった小林だったが何か閃いた。

「まさか!ふたりは禁断の関係だったのではないでしょうか?」

 自信いっぱいに小林は答えた。

 明智はそれを煙で否定した。

「もしそうなら、血が繋がっていない方が好都合じゃないか!キミはひとつ忘れている」

「あっ!兼男さんは紗佳さんを愛していた」

「そうだ。文字通り死ぬまで」

「それでは…朋絵さんが兼男さんを?…」

「おそらくな!兼男は以前から朋絵の自分への気持ちに気づいていたのだろう。もちろん血が繋がっていないとはいえ、自分は朋絵を妹としてしか見ていない。けれど、妹は自分を男として見ている。朋絵は本当の兄妹と思っているから自制が効いている。ひとたび真実を知れば、たががはずれる。兼男はそれを恐れたのだろう」

 明智は東山を眺め、考え込んだ。いつもと違う様子に小林は尋ねたが明智は答えない。そう言う時の明智は決まって何か問題を解いている。小林は寒さで手が悴んでいるのを摩って明智を観察した。今の明智に普通の質問をしても無駄なので、小林は頭を絞った。

「先生。兼男さんは自分が狙われていたのを知っていたのでしょうか?」

「どうして、そう思う?」

「兼男さんは父親から聞いて、刀の価値を知った。それが命を狙われるほどのものだと分かっていた。朋絵さんを守るため、あえて自らが囮になったのではないでしょうか?」

明智は小林をジッと見たあと東山を眺めながら言った。

「兼男は何かの仕組みを知っていた」

「どういうことですか?」

「朋絵と実の兄妹でない事を隠すために、自分には左程重要ではないように見せかけて一旦バレた時、それがさも重要事項だと思わせて隠れ蓑にして目的を果す。そんなやり方を一般の人間はしない。ひょっとしたら、兄妹の件もカモフラージュかもしれん。あの男は何者だったのか?何か隠していた」

「心当たりでもあるのですか?」

「いいや!ただ、警察の話だと兼男の体に桔梗紋の刺青があったそうだ」

「それって…確か…太田雅嗣にもあったやつじゃないですか?」

「そうだ」

 逸れ切り明智は黙ってしまった。

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