78.逃避行
その後一応先方の言い分を聞いた上で、まずルクレイツァって言うヒトを探すと言って今回の所は帰らせてもらった。
そして、宿営地ではすでに隊長がご飯を作り終え、お酒を飲んでるヒトもいる始末。
隊長は一通り片付けも終わったので、今からご飯兼晩酌だそうな。
それにしても、ちょっと早い時間にご飯にしたんだなと思いつつも、食事を始めると、
「ソタローは偉いな。あんな面倒な連中の言い分を聞いてきたんだろ?」
「ええ、まあ。なんか大事らしいですよ……」
そのまま隊長に聞いてきた事を全て報告。別に隠すようにも言われてないからいいだろう。
「なるほどね。それでルクレイツァってのには心当たりあるの?」
「ええ、向こうには言いませんでしたけど、師匠のホアンさんの妹だったかと思います」
「いきなり答え持ってるとは、いい引きしてるな。こりゃソタローのクエストだったのかもね。手伝うから好きにしなよ」
「ええ……でも自分が依頼されたわけじゃないですから、何ともしようがないですよ。それより隊長は誰かに呼ばれて【王国】に来たんですよね?そっちの用事はどうなったんですか?」
「ああ、なんかPKが暴れてるとかで忙しいらしいんだよね先方がさ。だから一旦ここは逃げちゃおうかなと」
「え?なんか話し飛びましたね」
「いや、今の話で出てきた騎士団が自分を呼び出した相手なんだけど、このままだと例の連中にまた絡まれるじゃん?だからさっさと逃げちゃおうと思って」
「なんで?そういう判断になるんですか!騎士団に呼ばれたって事は十中八九今回の件に関わってるじゃないですか!ここはちゃんと話し合って魔将の件何とかしましょうよ!」
「いや、自分はまだのんびり休暇したいから嫌だ。ついこの前も護国の将軍と戦ったばかりだって言うのに、自分に負担かけすぎこのゲーム」
「ええぇぇぇ……まあ嫌なら仕方ないですけど。逃げるのは無理があるんじゃ?」
「うん、なのでソタローには選んでもらう。ここに残っても良し、都だと【教国】が近いからそっからポータルで帰ってきてもいい。後は一緒に逃避行ルートだね」
「選択肢があるって事は、逃走に関してはかなり面倒ってことですかね?」
「いや、どうなるか分からないって事。あと極力プレイヤーが動かない現実時間の早朝を狙って一気に立ち去るつもり」
「分かりました。明日は休みだから変則な時間でも大丈夫ですよ。早朝出発で【帝国】まで駆け抜けるわけですか」
「そういう事。すでに携帯食なんかは用意させてるから、走りながら食べる事になるよ」
「それはきつそうですね。じゃあ仮眠してきます」
「うん、じゃあ後で」
そう言って、自分と隊長はログアウト。
すぐに仮眠を取るが起きたら逃避行かと思うと、中々どきどきして眠れない。
それでも目を瞑り、つい考えてしまうのは今回の事件の事。
クエストを受けているのは騎士団。
協力要請されているのが隊長。
出し抜こうとしているクランがある。密告者は元騎士団
ルクレイツァは聖女の末裔の【帝国】人……、あれ……。
なんか思いついたところで睡魔に引き込まれ、目覚ましの音で覚醒。
一瞬休みの日に何で目覚まし掛けたのかと不審に思ったが、これから逃避行だ!
顔を洗い、しゃきっとした所で、再ログイン。
宿営地は完全に片付けられ、全員整列済み。
すぐに【重装隊長】として重装兵の一番先頭に並ぶと、隊長から訓示。
「本来は【王国】で買い付けして【帝国】に帰りたかったが、厄介ごとに巻き込まれた事は皆も知るとおり。他人の土地で好き放題暴れるのは趣味じゃないし、頭ごなしに面倒な事言ってくる奴も相手にしたくない。ここは一旦【帝国】まで退いて、上に相談しようと思う。その上で戦争していいよってなったら、皆で【王国】を蹂躙するとしよう。と言うわけで、ルーク頼んだ」
訓示が終わるなり、ルークが近くにいた野生馬を射る。
当然怒った野生馬が走って向かってくるのに合わせて、
「よし来た!『行くぞ!』『撤退だ!』」
走り出す隊長に、全く自分の意思とは関係なく引っ張られるように駆け出す。
「これ、どうなってるんですか?」
「ああ、自分の移動速度を高めて、更に隊のメンバーを自分と同じ移動速度にして一緒に走るだけの<戦陣術>攻撃も何も出来ないから、ひたすら走って逃げるよ」
「ええぇぇぇぇ!」
そんな事言っている間にも、ぐんぐん進む。どんどん景色を置いていく。
今までの自分では絶対見ることのなかった世界。
隊長はいつもこの状態で過ごしているのかと思うと、気持ち悪くなってくる。
一瞬油断すればどんな事故が起こるともわからないスピードで集団を引っ張るルート選択。
確かに普段からこのスピードに慣れていたら、自分との【訓練】の攻防などスローモーションだろう。
「はい!皆!きついだろうけど、携帯食食べながら走ってね!まだまだ『行くぞ!』」
少しづつ減っていた筈の士気を回復したと思ったら、一斉に走るのをやめてしまう。
「隊長!馬が疲れて倒れました!」
「じゃあ、他に足の速そうな魔物見繕って撃とうか」
今度は、いつだか狩ったサイを怒らせてまた逃げ始める。
魔物の方が体力切れで倒れる異様な逃避行、到底自分の足で走っているとは思えないスピードに徐々に慣れていくのが、ちょっと怖い。




