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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
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75.変人と死者の平原

 大河を渡るだけなので、正直荷物を積み込む時間の方が長い。


 でもまあ、その間にも隊長はさり気なく船着場のヒトから情報収集してるあたり、場慣れしてるのだろう。


 旅をするには必要なスキルかもしれないコミュ力。


 さり気なく話しを聞いてみると、


 「前回は【王都】とか【闘都】だったんで、死者の平原ど真ん中となるとやっぱり慎重に行きたいんですよね~。自分も大人数率いる身だし」


 「なるほどな。いい心がけだが、この大人数がいれば大抵の事は対応できそうだし、そう心配する事でもないんじゃないか?」


 「そうですかね?一応自分は団を率いてるので、セーフゾーンならどこでも野営可能なんですけど、最低限気をつけることとかありますかね?」


 「そうだな~荷運びは対岸で馬を借りるんだろ?そしたら湿原は入らないほうがいいぞ。馬喰いが出る」


 「へ~馬を食べる魔物って事ですかね?そういうの知りたかったんですよ。ところでいける口ですか?」


 「酒か?まあまあだな。渡しをやってるおかげで、この辺りの酒なら色々と飲んだことあるぞ」


 「ほ~じゃあ【砂国】の幻の街の酒なんてどうです?買い付けに行ってないから、個人で飲む程度しか持ってないですけど」


 「いやいやいや、そんなもん捌いたらいくらになると思ってるんだよ」


 「まあまあ、気持ちだと思って」


 なにやら一瓶押しつけているが、話を聞かれてるおじさんの方もまんざらな顔じゃない。賄賂?ではないのか、ちょっとした情報量代わりなのかな?自分も何かそういうの持ってた方がいいのかもしれない。


 お金じゃあからさま過ぎるもんな。ちょっと渡せる程度の物ってなんだろう?


 高すぎず安すぎず、嫌味にならない物?意外と難しいぞ?バイトしか社会人経験がない学生には難題かもしれない。


 そのうち誰かに聞こう。お酒は未成年なので扱えないし。


 その後は口のすべりがよくなったおじさんから、聞ける事を洗いざらい情報収集する隊長の手並み。


 隊長も経験の浅い地の様だが、こりゃ不安になる事なんて無さそうだな。


 その後はサクサクと荷積みして対岸で荷卸、馬車に積み込んで平原を歩く。


 【偵察兵】と隊長で散開して先の状態を確認しながら、進む道を決めているようだが、隊長の動きがおかしい。


 平原とは言え多少起伏もあれば、障害になる岩やら木の密集した地帯もある。


 しかし、そんなものは障害の内にも入らないとばかりに真っ直ぐ踏破する隊長。先を確認してくるだけの作業でも他を圧倒するスピードと距離。


 そして、当たり前のように道なき道を指定して、


 「え?近道だから?」


 の一言で、馬車一台分しか通れない道を抜ける。時折魔物がいるのも確認できるが、針の穴を通すかのような精度で、魔物に絡まれない隙間を縫う。


 一回うっかり踏み込んだ者がいた。そしてそこには岩のようにゴツゴツした肌を持つサイのような生き物。


 つい自分の肩当を思い出し、親近感が湧いたものだが、隊長に一切の容赦はない。


 土の<精霊術>と思われる術を使用させ地面を穴だらけにし、突撃できない状態を作ってから、じっくり仕留める。


 結構な重量感のある魔物だったし緊張もしたのだが、


 「草食獣だから夕飯用にしよう!」


 と言われた時は、もうこの人ご飯のことしか考えてないなとすら思ってしまった。


 その後も何を基準としているか分からないが進み続け、噂で聞いた湿原。


 「ここってあれですよね?」


 「うん、聞いてた?流石にここは迂回しよう。馬を食べられちゃ困るし。ところでここまでの順路は覚えた?」


 「どうでしょう?何となく?」


 「そっか、まあもし自分に何かあったら、隊の者に聞けば帰ることは出来るとは思うから、無理しないでね」


 「なんで自分にそんなこと言うんですか?」


 「団としての指揮はまだ出来ないと思うけど、中隊長の肩書き持ってて100人戦闘は可能なんだから、自分の次はソタローだよ。気負わなくていいけど、そのつもりでね」


 そっか、現状この集団の二番手は自分なのか……、どこが気楽な旅なんだ?


 兵長に騙された!


 まあでも、こんな機会でもなきゃ他所の国に【輸送】の経験なんて積めないし、仕方ないか。


 「ところで、何度か聞く団てなんですか?隊長はもしかして団長なんですか?」


 「なんて言うか、後方支援付きの集団を団って言うらしいよ。セーフゾーンを宿営地にして、村とか町とかにワザワザ逗留しなくてもいいんだよね」


 「それは……動く拠点部隊みたいな感じですか?」


 「そう、そんなところ。だから本当は料理とかできるヒトも一緒なんだけど、外で食べるご飯だし、やっぱり自分も作っておかないとね」


 「その料理に対するこだわりは、何か理由があるんですか?」


 「そりゃ雪の中の行軍って大変でしょ?体力使うし、マメに休憩と食事挟まないと動けないヒト出てくると思うんだけど」


 「そうですね。何より自分が重装なので一番体力使っちゃいますね」


 「そう!だからご飯は最優先!上の仕事は戦争する事よりもまず食べさせる事!料理も作れないでヒトを率いるなんて出来ないって訳」


 どういう理屈だ?


 でもまあ、ご飯については力入れて練習してるし、方向性は間違ってなかったんだな。多分?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ソタローが純粋で可愛い
[一言] まぁ、下の人は体力と体を使ってくれてるんだから、隊長してて体力に余裕のある自分が作れば、周りの人はその間、休めるもんね 好きな物、食べられるし(笑)
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