62.別れは突然に
出来るだけ【訓練】に時間を割きたいので、任務は必要最低限に留めてもらっていた。
その辺りは何しろ兵長がよく分かってくれて、上手く調整してくれるので助かる。
日に日に盾攻撃に慣れてきた。
剣ほどのダメージは出ないが、相手の動きを一瞬止めたり体勢を崩したりと言う意味ではかなり有効。
<蹴り>と盾で相手を崩すのに慣れてくると、接近戦がどんどん楽しくなってくる。
逆に間合いを取られると足の遅い自分は不利だが、その辺りは今後の課題としておこう。
更には新たな<鋼鎧術>を早速取得してしまった。
両手を上に挙げる。勿論武器は持ったままだが、そして発動!
<鋼鎧術> 彩光鎧
鎧の金属部から謎の光を発して、魔物が一斉に自分に攻撃を仕掛けてくるという酷い術。
もとい、タンク御用達の敵引き付け用のスキルで、対人で使ってもタゲが強制で自分に一回振られるらしい。
要は攻撃しようとしたら、いつの間にか自分の方向いてるみたいな状態?
まあ対人なら、すぐに元の標的に戻せばいいだけらしいので、どれ位使えるのか分からないけど。
それでもコレであの氷片パーティを引き付けられるなら、今度こそいい勝負が出来るだろう。
そして、ガンモからの連絡があり、いつもの竜の彫像の前で待ち合わせ。
「よう!ソタロー!順調か?」
「うん、挑発術も覚えたし、多分前よりは戦えると思うよ」
「そっか……俺達の方は全然駄目だ。一個も課題がクリアできないどころか、強さが何故か頭打ちになってる。生命力も筋力も増えてそうなんだが、攻撃力に反映されないっつうか、なんつうか。何かが噛み合ってないんだよな。それでな……」
「どうかしたの?」
「まあ、実は前々から3人で相談してた事があってな。ソタローを誘うかずっと迷ってたんだ」
「?」
「実は、拠点を移そうかって話をしてたんだわ」
「なんでまた?今までも他の国に行って色々情報集めたり装備更新してたのは知ってるけど【帝国】はやっぱり過疎だから?」
「まあ、それもあるのかな?なんつうか俺達ってかなりソタローから遅れ取ってるじゃん?」
「そう?自分は本当に任務ばっかりだし、装備も鉄製だから、寧ろ自分方が足引っ張ってないかな?っていつも思ってたけど」
「いや、現状で100人指揮出来るプレイヤーって片手で数えられる位しかいないぞ?多分な。そりゃ個人戦はまだまだ後発プレイヤーかもしれないけど、それでも俺達よりは圧倒的に強い」
「???プレイヤーってカヴァリーさん位しか戦ってもらった事無いけど、全然手も足も出ないよ」
「そうか……、理由は正直分からねぇけど、多分【帝国】はソタローに合ってたんだろうなって思うんだ。後発だけど結構な数のプレイヤーごぼう抜きの成長速度だと思うぜ本当。だって【古都】周辺だけとは言え、ユニオンを当たり前に狩るプレイヤーなんてマジで早々いない……筈だ」
「そうなのかな?比べる相手がいないから……」
「おう、まあ、一応俺もソタローと同じ日にこのゲーム始めた訳じゃん?やっぱりソタローに置いて行かれたくない訳よ。だから修行してこようと思ってさ。でもソタローはまだ当分【帝国】で隊長を追うんだろ?だからその間に色々巡って俺に合う場所見つけて、強くなろうかなってよ」
「そっか……、白竜の祭壇はどうする?」
「それはソタローに任せるぜ。先に竜を見つけても恨まないし、寧ろガンガン進めてくれよ。今生の別れって訳じゃないし、何かあればいつでも駆けつけるから、好きにメールもしてくれよ。俺も逐一連絡するからよ」
「分かった。ガンモが今後どういう方向に進むのか分からないけど、応援してる。そしてまた一緒に遊ぼう」
「おう!ソタローが集団を率いる様に、俺は俺の道探してみるわ!」
こうして、ガンモ達は旅立った。
自分からしたら突然の事だけど、多分三人は色々考えたり悩んだんだと思う。
ゲームとは言え、同期に遅れを取るのは自分だって嫌だ。
なんだかんだ色々知っていて、どんどん装備も更新するガンモに追いつきたいとずっと思ってた。
だからこそ隊長の後を追うと言う大義名分の下、ひたすら任務をやったんだと思う。それしか追いつく方法が思いつかなかったから、
もし追いつかなかったとしたら、アンデルセンさんに嘘を教えられたと言い訳が出来たから?
そこまでは考えてなかったと思うが、それでも……、
ガンモがいなくなって、自分がどうしたかったのかよく分かった。
やっと一緒に並んで戦えると思ったが、指揮に振った分戦闘力が少し落ちたかもと焦った。
それなら大型の魔物と戦えるようになるまで頑張ろうと毎日みっちり任務をこなした。
いつの間にか、ガンモ達の方が遅れを取ってるって思うなんて、考えもしなかった。
でもガンモは強くなりたいって思ってる。
何がしたいのかよく分からない自分と違って明確な目標のあるガンモ達はすぐに強くなるだろう。
その時、また後れを取って足手まといにならないように、自分は今出来る事を頑張ろう。
自分には何か特殊な方法なんて思いつかないから、まずは任務を必死にこなそう。
そして……白竜を目覚めさせよう。




