47.20人クエスト
「そう言えば紹介状貰うの忘れてました」
新装備を頼んだ翌日の事、再ログインして兵長の顔を見た瞬間に思い出してしまった。
「ん?なんだ買い物でもしたのか?」
「はい、昨日ゴドレンの店で装備の相談をしたばかりなんですけど、紹介状貰ってからいけばよかったと」
「そういう事か。あの店とは懇意にしてるし、内容に応じて軍の方からいくらか負担してやるから大丈夫だ。まあ勝手放題やら無い様に初めの内はちゃんと紹介状持たせるんだが、ソタローはもういいだろう」
「ありがとうございます」
「それでだな。そろそろ20人率いて任務受けてみないか?ダンジョンが発生してちとばたばたしたからな」
「20人ですか中々緊張感がありますね」
「まあ最初からそう難しい事は要求しないから安心しろ。<行軍>で隊列変更の練習や兵種ごとの特徴を覚えたり、適切な休憩と食事の準備を実践的に学習して来いって程度の話だ」
「あっ……駄目です。大事なこと忘れてました」
「何かあったか?」
「すみません……調理出来る様にレシピ貰ったり調味料貰ったりはしたんですが、肝心の包丁とかフライパンとか購入してません」
日頃の準備が足りない所為で折角の新しい任務を棒に振ってしまうなんて……。
「いや、そんな物は支給品の[簡易調理セット]で十分に慣れてから買えよ」
「え?そんな物まで借りれるんですか?」
「おう、まずは初心者でも使いやすい軍の支給品で慣れてそれから自分に使いやすい物を作ってもらうのが、全ての基本だぞ」
「全ての基本だったんですね」
「だから料理長の依頼を受ける時も一言こっちに声掛けてから出かければ、カンジキくらいすぐ出してやったのに、雪深い場所の行軍はまだやってないんだからよ」
「そうだったんですか。確かにまだ何処で何が必要なのか全然把握してませんでした」
「まあ慣れたら何でも自分の好きにやればいいがよ。焦るなっつう事だ。まあ中には強制的にやらせんと、ひたすら同じ事繰り返す奴もいるし、自立心があるってのはいいことだがな」
「同じことを繰り返すって言うのは、それだけ慎重ってことですか?」
「いや、能力はあるのに上昇志向が無いって感じだな。ただ自分自身の事を高める気はあるみたいなんで、強制的に出世させるんだ」
「何とも面倒なヒトもいたものですね」
「ヒトなんて大概は面倒なもんだ。そんな事厭うってたら、こんな立場やってられんよ」
「偉くなるって大変なんですね」
「何が偉いもんか。ただの受付のオヤジだぞ?まあいい。最初は20人を率いて歩くだけの簡単な任務。基本中の基本【輸送】からやってもらおうか」
「ついに自分も荷物を東から西へ西から東へ移動する事になる訳ですか」
「【重装兵】のお前さんにそんな酷な仕事させるかよ……。させる奴もいたな……。まあアレだ周辺地域の町村の不足している物資を届ける程度の物だ。カピヨンと【往診】やってれば、この辺りの事は分かるだろう?」
「はい、それなら分かります【衛生兵】が出歩ける程度の敵しか出ないし、自分で対応できると思います」
「おう、じゃあ適当に部隊を見繕ってやるから、行ってこい」
集合場所は【古都】北門。
南側は大河沿いで大きな道もあり、物資の移動は比較的安定しているらしい。
北側は丘や森や山があれば渓谷もあり、地形的にどうしても人が行き来しにくい上、大人数が一緒に生活するのに向いてない場所が多く。
更には大通りと違って魔物が多い危険地域、どうしても【輸送】にも戦闘力が必要になってくる事から軍が請け負う仕事らしい。
しかし自分としては木々が茂っている場所の方が雪が浅い仕様なので、非常に助かる。
念の為カンジキも借りたので、雪が柔らかい場所は装着して進む予定。
そして集合場所には懐かしい顔ぶれが、
「おっソタロー部隊長!来たな!」
「来たな!じゃないよチャーニン!部隊指揮するんだから一応上司だよ」
「チャーニン!スルージャ!久しぶり!他にも北砦で見た顔ぶればっかりだね」
「まあ、能力がばらつかない様に世代を合わせてくれたんだろ?本当に熟練してる【兵士】の元でいくらか任務こなしてきたけど、やっぱり違うなって感じたもんな」
「そうだね。全ての能力が違いすぎて、足手まといにしかならなかったよ」
「自分もカピヨンさんに【訓練】つけてもらってたけど、実力が遥か彼方だったな。まあいいヒトだし、楯突く気もないんだけど」
「へ~ソタローはカピヨンだったのか!あのヒトって【衛生兵】だろ?何でまた」
「うんうん、自分はルースィだった。チャーニンはスペーヒでしょ?兵種が合う先輩の所に配属されるんだと思ってたけど」
「自分は重装備だから筋肉鍛えろって言われてさ。重装備にもかかわらずハタキ飛ばされてた」
「全身金属の塊ハタキ飛ばすって……見た目通りの強者だなカピヨン。いや~憧れるわ~」
「確かに~、自分とか軽量ですばしっこいから【偵察兵】勧められたけど、やっぱり【帝国】の【兵士】と言えば、筋力だよね」
「え?そういうもん?」
「こらー!お前達アホな事ばっかり言ってないで整列だよ!」
「あれ?ルークさん?」
「さんは、いらないって言ったよ!今回は自分が御目付け役です!後ね皆に言っておくけど、上のヒトは痩せ型のヒトが多いよ」
「え~……それでどうやって民間人を守るのさ」
「まあ、上のヒトだから弱いって事は無いんだろうけど、頼りない気がするかも」
「は~分かってないな~。本当に強いヒト達ってのは目に見えないスピードで移動するの!もうね普通に矢を射っただけじゃ当たらないんだからね!」
「いや、まさかそんな事無いですよね。中にはそういう矢を斬り払う特技を持ってるヒトがいるとか、そういう話ですよね?」
「100人率いるようになれば、それ位要求されるし、上のヒトは矢を斬り払うスピードの相手を翻弄するほど早いの!」
「「「え~~~~……」」」




