番外.幕間
成人を向かえた日、両親は余計なことを言わず、普通に祝ってくれた。
子供の頃からやりたいことや欲しい物が見つからなかった自分が、この歳になってゲームにはまり込んでいることに関しても、特に何か言われた事はない。
自由にのびのびと育てられたのに、それを全く生かせなかった自分が大人になって、これからどうなるのか不安が無いわけじゃないけれど、そんな時は大人に会ってみようかと久しぶりに現場に向かう。
アイドル現場、ゲームにはまってからは結構足が遠のいてしまったが、別に認知が切れたわけでもない。
ヲタクと言う人種は不思議だ。
年齢、職業、本名とお互いの事を余りよく知らないまま、対等に付き合える。
自分は明らかに年下なので、敬語を使ったりもしていたが、その辺は自然にふるまえばそれでいいらしい。
久しぶりの現場でも、知ってる顔が近づいてきていつも通りの空間が形成される。
逆にそういうのが苦手な人は、それはそれで別に集団に強引に勧誘するでもなく、何かもう自由そのもの。
だが、今自分はピンチを迎えている。そんな気がする。
「ソタロー!おめでとう!成人したんだな!じゃあ、今日はどこで飲むか?急に現場に来たから予約とかはしてないんだが……」
「いえ、自分はまだそこまで飲んだ事ないので、飲み会とかは……」
「何言ってんだって!これからどんどん誘われるぞ?今日は俺達が奢るから、飲み会の飲み方をさ!」
とまぁ、仲のいい大人のヲタク達からの飲み会の誘いが、アグレッシブすぎて怖い!
どうしようかなと、思っている内にフロアが暗くなったので、皆最前に向かい。
自分は何となく最後方に待機していたら、久しぶりに団長が時間ギリギリに現れた。
これからライブが始まるっていう時に、声をかけたら申し訳ないかと思ったのだが、寧ろ向こうが自分の気配を察したのか、声をかけてきて。
「久しぶり。何かあった?」
なんとも落ち着いた雰囲気に、この人なら相談しても大丈夫かもしれないと言う気がして、そのままコソコソと今の状態を説明する。
「ふーん、そーしさんの誘いは断った方が正解だね」
「そうなんですか?妙に押しが強くてまだはっきりと答えてない内から、行く事が決まった感じで困ってて」
「あの人はあの歳で、大学サークルみたいな飲み方するから、もう少しお酒慣れてからの方がいいよ。なんならお酒なんて飲まなければ、それが一番いいんだし」
「そうなんですか?こういう時ってどうやって断ればいいですかね?」
「ああ~じゃあ、ライブ終わったら自分が逃がしてあげるよ」
それだけ言うと、ライブに集中し始めたので、自分も久しぶりにのんびりライブを眺め、盛り上がるヲタク達を見て、やっぱりライブは偶に来ようと心に思う。
そしてライブ終わりと同時にフロアが明るくなり、興奮したヲタク達がお互い顔を見合い、興奮気味に今日も最高だったと話し合う時間。
「もうちょっと待って、そろそろ運営が物販の机の所に現れるから」
団長から声を掛けられ、静かにフロア最後方で様子を伺ってると、キャリーケースを引き摺る音が聞こえ、反射でそちらを向く。
しかし、団長に肩を叩かれ、そのままその場を去る団長に付いていくと、誰の咎められる事もなく外に出れた。
「ま、こんな感じ。皆が一点に集中する瞬間に抜け出せば、容易いよ」
「こんなんだから、忍者って呼ばれてるんですね」
「ああ~偶にSNSで言われてるわ。推しの子には申し訳ないけど、自分からもそーしさんに言っておくし、次の機会に直接会うんだね」
「すみません。気を使わせてしまって」
「いいって別に、それで?お酒自体は飲むの?」
「まあ、少し飲んでみようとは思ってますけど」
「じゃあ、いい店教えるよ。客が泥酔するの禁止な飲み屋」
「なんですか、何か矛盾してるように思えるんですけど?」
「別に矛盾はしてないんじゃない?程々に飲むのは構わないけど、何かあったらいけないから、程々にしか飲ましてもらえない、変なお節介おやじの飲み屋があるから」
「お節介おやじって……いやな店ですね」
「大丈夫だって、別に普段は静かに飲めるけど、何だかんだ客の事もちゃんと見てくれてるってだけだから」
そう言って連れて行かれたのは、一軒の居酒屋?
何でも近くに学校があるから6時までは定食屋で、ボリュームがある物を安く食べられるとか。
居酒屋のメニューは少ないが、個人の店らしくしょっちゅうお品書きが変わって、飽きることもないらしい。
お酒の種類はありすぎてまだ自分には分らないけど、少しづつ試していくのも楽しいかもしれない。
ゲームの外にも楽しみを見つけ、少しづつ自由が怖くなくなる気がする。
なんでもやっていいと言われ、何にもやりたい事が見つからないから、置いていかれる気がしてた。
でも、自分は自分、別にどこか遠くに向かうだけが、自由じゃない。
まずは、泥酔せずに家にちゃんと帰るところから、一個一個やるべき事をやろうと思う。
まず最初に作者の感想を述べさせていただきますと、
隊長編では書いて表現する楽しさを教えてもらい、このソタロー編では書く辛さを教えてもらったなと思っています。
辛さと言っても、これでやめるとかでは全く無く。
これまで自分が読んできた作品の作者様達の苦しみの一端にでも触れる事ができたのなら、今後はもっと楽しく色んな作品と向き合えるなと勝手に思う次第です。
さて、いきなり最終回みたいな感想を述べてしまいましたが、元々この作品は、
前編「西帝国動乱編」 後編「東帝国統一編」の前後編あわせて600話くらいを目標に書いていました。
ところが、書きたい事が増えに増え、いつの間にかここまで来てしまい、しかもソタロー人気が今一つ奮わない!
全ては作者の技量の所為です。すまんソタロー!
と言う事で、この幕間でもって一旦休止させていただければと思います。
大きな理由は、作者の技量でこれ以上ソタローを人気にできるか?と言う部分が大きいのですが、
同時にこの先の物語が、東大陸と言う前人未到の地になる為、これまでのキャラクターが全くでない状態の新しい物語が展開されると言う事が上げられます。
その為休止と言いつつも、他主人公の西大陸の物語を進めてからの方が、入りやすいんじゃないかな?と思ってたりします。
思っているだけなので、もしかしたら、書いている内にまた気が変わるかもしれません。
そこは長らく作品に御付き合いいただいている読者様には気が付かれてるかも知れませんが、気移りしがちな作者でいつも振り回してご迷惑お掛けしてます。
さて、じゃあ何故他主人公なのか?と言う点についてですが、この『MONOローグ』は同時間軸の複数主人公達の物語がつながっていって、ゲームのエンディングに辿り着く設計です(開発中のため変わる事があります)。
現状隊長編の時間軸が基準ですが、ここからは時計が進んでいきます。
西大陸で何人かの主人公達がやらかしている間、ソタローは東でやらかすと言った具合です。
と言うわけで、次はクラーヴンの話、
https://book1.adouzi.eu.org/n9633ie/
今度の時間軸は邪天使戦後、開かれたのは東へのルートだけじゃなく。
機械文明の遺跡でクラーヴンが謎の喋る金属の塊を拾う所からとなります。
まだ中間地点でのご挨拶になること心苦しくはありますが、これからも御付き合いいただければ幸いです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。




