361.この道の先
隊長がゆっくりと手に持った剣を天に掲げる。
【帝国】の重鎮達がどよめき、顔を見合わせ何か話しているが、今の所自分は隊長の頭に釘付けだ。
何でそんなソウル溢れる髪形になってしまったのか?
もしかして白竜の力を受けた結果、自分が<白竜気>を受け取ったように、隊長は白竜の魂でも受け取ってしまったのだろうか?
「じゃあ、これ皇帝の剣だから、後任せた」
場が静かになると同時に発せられた隊長の一言に、
「うん、駄目だろ!」
まるで、隊長の間と呼吸を知り尽くしたかのようなタイミングでつっこむ皇帝が、やはり足を引き摺るように隊長に近づいていく。
なんかもう、この国のトップがボロボロで内乱に決着がつくってのが【帝国】って感じがしてきた。
そのままの状態で隊長と皇帝が少し話し込み、
皇帝から体制は今までのまま、正式に皇帝は皇帝陛下としてまたこの国のトップとなるし、宰相も国務尚書に戻って、これまで通りと通達された。
まあ立場こそこれまで通りでも、責任はどうにか取ることになるのだろう。まあ死刑とか聞かないゲームだし、無給で死ぬほど働かされるとかそういう事かな?
とりあえず、自分個人に何かあるわけではなさそうなので、すぐに隊長を追いかける。
足を引き摺ってフラフラ歩いてる隊長にポータル近くで追いつき、
「すみません、隊長疲れてるところ。ちょっとだけ聞いてもいいですか?」
「どうしたのソタロー深刻な顔して」
「隊長の望みは結局今迄通りの【帝国】である事なんですか?」
「ああ、変わらない事を目的としてたのかって事?別に【帝国】の将来はなる様にしかならないんじゃない?」
「じゃあ、誰も断罪せず何となく終わらせたのは……」
「まあ、ゲームだからね~誰も死なないじゃん基本。後は物質的な損だけど、そこは復興支援と共に頑張ってもらって、他になんか突っ込むところある?」
「そうですけど、もっと【帝国】をこうしたいとか、導きたいとか……」
「ああ、こう言っちゃなんだけど他人は他人だよ。好きにしなって感じ。他人をどうこうしたいとか、そういうの無いもん自分」
「じゃあ、隊長のやりたい事ってなんなんですか?」
「言ってなかったっけ?根の国と天上の国との貿易」
「お金儲けって事ですか?」
「まあ、そうだけど。なんていうかこのゲームって凄い不便じゃん。やたら歩かなきゃならないし、物資はすぐ偏るし、装備も壊れるし、魔物は集団で戦わないと勝てないし」
「そりゃそうですけど、それがこのゲームで言う所のリアリティなんじゃないですか?」
「うん、そうなんだけど、不便な割りに縛りが少ないって言うかさ。なんかいつの間にか街出来ちゃうし、知らないうちにコネクションできちゃうし」
「それは隊長だけなんで、誰にでも当て嵌めるのはちょっと……」
「まあ、いい例が他にないんだけど、結局何が言いたいかって、やろうと思えば便利に出来ると思うんだよね。このゲーム」
「ゲーム内の環境を整えようっていう事ですか?」
「そうそう!だから自分はこのゲームで実業家になるよ。どうせこつこつ戦うのとか向いてないし、それなら【輸送】とかして少しでも過ごしやすいゲームにしようかなと」
「それが、隊長のやりたい事なんですね」
「まあ、そういう事。じゃあ飯食って寝るよ」
「あっ後、髪がチリチリになってますけど、竜の試練ってどういうものだったんですか?」
「え?ああなんかドラゴンブレスをくらって耐えるだけ、後コレはかつらだよ。じゃあ、またね!」
そう言って、歩き去って行く隊長。あの頭カツラだったのか……何でカツラ被って白竜に会おうと思ったのかも知りたかった。
ただ、隊長の後姿は等身大と言うか、あまり大きなものに見えない。
その姿が消えても立ち尽くしていると、急に肩を叩かれたので振り返る。
「ソタロー、我々への裁定も下ったぞ。お咎めなし。私には身を粉にして【帝国】の為に働けとの仰せだ」
「自分には何も無かったんですか?」
「それはそうだろう。幾ら陛下が勝ったとは言え、ソタローは白竜様を復活させた英雄。変に処断でもすれば、それこそ国民感情を悪化させる。まずは手を取り合って一丸となって復興させる事が最重要案件となった」
「そうですか、その復興に自分の力は必要になりますか?」
「どういう事だね?」
「隊長はこれから貿易をして大きな財を生み出そうとしてるみたいです。そしてきっとこの国の為に惜しみなく使うでしょう。でも自分の道はそっちに向いてません」
「……隊長を追うのをやめるのか?」
「はい、自分が隊長を追ったのは、何で強いのか知りたかったから、隊長を追う内に自分が求める物が、戦う強さそのものになったみたいです」
「そうか、それでこれからどうする?」
「自分も旅に出てみようかと、移動はそこまで得意じゃないですけど、誰も行った事のない地で、思う存分力を振るってみたい」
「ふむ、それなら隊長が見つけたという東の地へ向ってみたらどうだ?」
「東ですか?でも大霊峰の先でしたか?常人では到底頂上までつくことすら不可能と言われる」
「そうだ。だが、そもそもこの国の伝承を思い出すといい。初代皇帝陛下は東から来たと言われていて、長らく東とはどの国なのか不明だったのだが、もしかしたら大霊峰の向こうの事かも知れん」
「だとしても、自分の能力で踏破できる場所とも思えませんけど?」
「初代皇帝陛下は竜と縁のあった方だ。白竜様は旅立たれてしまったし、もう一体のソタローと縁のある竜を探すといい」
「……もう一体?」
「本当に忘れたのか?散々苦戦して開放しただろ?赤竜の化身様だ」
「ああ!なるほど!分りました行ってみます!」
「行ってみます!って今からか?」
「はい!それでは皆には自分は自主的に国外に退去して、これまでの余りに余った褒賞は復興の為に全て【帝国】に寄付して去ったと伝えてください」
「いや、おい!」
慌てる宰相を尻目にポータルに触れる瞬間、
「ソタロー!いつでも戻ってきていいのだからな!」
宰相の叫びが聞こえ、そのまま【砂国】へと移動する。赤竜は確か【砂国】の竜の筈だから。




