360.竜の試練
皇帝とのえげつない語らい(物理)で全身動く場所もなかった宰相だが、そこはゲーム。
時間と共に喋れる位にはなったので、今後の話をする。
何しろ隊長一人帝城内に入り、皇帝をはじめとした【帝国】の重鎮が黙って待機する中、勝手に帰る訳にも行かず、さりとて息が詰まるのも確か。
それならば、周りの興味を引いてしまうかもしれないが、敗軍の将として身の振り方の一つも考えねばなるまい。
個人的には国外追放かな?とも思うのだが、それとも賠償金支払い?
出来れば渋滞している自分の褒賞で一部賄ってもらえると助かるが、まさか人生初めての重債務をゲームで味わうことになるとは……。
まあこのゲームを買う時に両親からお金を借りているし、地道にやれば何とかなると言うのは既に理解している。
それよりも、この国をどうするのか、自分が率いてきたヒト達がどうなるのか、そっちの方が重要だ。
「宰相……落ち着いたようですが、これからどうしますか?」
「そこは隊長と陛下の裁定次第だろう。それに……」
「なんですか?」
「いや、白竜様はこの戦で勝った方に皇帝の剣を授けると仰っていたが、同時にソタローが心ゆくまで戦わせるとも約束している。そもそも白竜様復活の時ソタローがそれを望んだのだからな」
「確かに間違いないですが、そこはもう共通認識として、自分が戦いたかった相手と戦えたわけですから」
「うむ、竜の引き寄せる戦いの運命と言う物かも知れぬが、しかし決着がついたと判断するかは白竜様次第」
「そうなるとまだ内乱が続く?」
「いや、内乱こそ終息するだろうが、白竜様が納得するには、もしかするともう一段階踏まねばならないかも知れんという事だ」
「もう一段階?」
「ああ、ソタローと同等の功績、つまり竜の試練を隊長が受けて、もし立っていれば、今度こそ終息」
「もし倒れれば?」
「分らんな。何しろ隊長は白竜様に一撃入れてしまっているしな」
「ああ、怒ってましたか。自分には平然としているように見えましたが」
「いかな白竜様とて、アレだけの攻撃を喰らったのだ。ただでは済まん。大喜びで一撃食らわしてやろうと言っていたよ」
「ああ、そっちの【帝国】的発想ですね。やられた分喜んで一撃返すアレですか。でも白竜様のアレとなると」
「何しろ大喜びのアレだから加減を平気で間違えるだろう」
その時帝城から盛大に何かが割れ落ちる音が響き渡り、全員の顔に緊張感が走る。
「始まったようだね」
「まさか、あの音は帝城の奥の間の天井が割れた音では!」
急に重鎮の一人が焦り気味に叫ぶが、
「よい!奥の間は元々我が祖先がいつか白竜様を迎え入れた時に恥ずかしくない場所として、ただひたすら巨大な空間を作っただけで、大事なものは何もない。強いて言うなら天井のガラス絵だけは、相当な総工費がかかっていると伝承にあるが……」
皇帝がかなり無理をした表情で、強がっているものの、相当お高い物が破壊されたようだ。
「白竜様のために用意されたものを白竜様が破壊したのだ何の問題もないですね」
宰相が他の重鎮達に圧を掛ける。
ただ自分が一番心配なのは、
「隊長が破壊したとしたら?」
一斉に固唾を呑む重鎮達。
果たして隊長に責任を取らせていい物なのだろうか?
何しろ、白竜を殴りに行くのを止めずに容認したのはこのヒト達だし、白竜様をその奥の間に連れて行ったのは自分達だ。
隊長ならその気になれば返せてしまう弁償代かも知れないけど、歴史的価値と言う意味ではまずいかもしれない。
皆が帝城を見やると、ちょうど地面から曇天を貫く光の柱が延びた瞬間だった。
きっとコレが竜の試練なのだろうと、わざわざ確認するまでもないエネルギーの奔流。
カトラビ街近くで見た白竜の収束エネルギーが解放された。
妙に優しさを感じる光は、隊長死んだなと確信するには十分だ。
白竜が納得するのにもう一戦必要だとして、いったい何を要求されるのか?
内乱で負けた自分としては、国外追放くらいは覚悟していたのだけど、それは白竜様が納得するまい。
きっとこの状況を生み出している当人達、隊長と白竜はなんとも思っていないのだろう。
この場にいる【帝国】重鎮達の苦悩。
基本的に落ち着いたヒトが多いこの国で、しかも寒い屋外で、脂汗が止まらないヒトもいれば、顔面が平静を装いきれなくなってるヒトもいる。
なんとも胃がキリキリと締め付けられる思いで、帝城の扉を見つめる。
何なら自分が様子を見てこようかと、進言しようとした所で、扉が開き足を引き摺る様にして隊長がのっそりと現れた。
手には剣を持っているが、それよりも気になるのは、何故かアフロ?に、なっている事だ。
いや、なんでだよ!もう頭しか見えない!




