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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
358/363

357.ある日いい時決戦日和

 借りてる宿舎で休んでいると、ふと違和感を感じて窓から外を見やる。


 珍しく雪が降り止んだ【帝都】はシンと静まりかえって、気持ちが悪いほど音というものを感じない。


 異様な程分厚い雲天は、このまま世界の全てを押し潰しそうな圧迫感を与えてくるが、


 そこに妙な怒りとざわめきと、熱気と寒気の交じり合った危険な空気が満ちる。


 まるで雷電暴れる雲に投げ込まれたような感覚に、全身がカッと熱くなるのを止める術が見つからない。


 「準備は済んでます。速やかに出撃してください」


 空気に当てられ、いつになく乱暴に扉を開けて入ってきた【兵士】にそれだけ伝え、あとは黙って【帝都】横の雪原に向かう。


 まるで双方大将の気がぶつかり合うように荒れ狂う風が、雪原の雪を巻き上げ視界を白く塗り潰していく。


 正に決戦日和、余りにも暴力的な空気に武者震いが止まらない。


 神か白竜か、いずれにせよこのゲーム世界に大きな影響を及ぼす何かが与えてくれた千載一遇のチャンス。


 きっと今の自分の全てをぶつけてもいい相手が、目の前にいる。


 この戦いで、先鋒を誰かに譲る気は毛頭ない。


 何も言わず最前線に立ち、意見を言いたそうな者の口をただ背中で封殺する。


 ふと、どこか遠くで聞いた事のある鳥の叫びが聞こえ、


八陣術 鉾矢陣


 術を発動しながら自分を先頭とした楔陣形で、真っ直ぐ圧し進む。


 相手側も士気を高く保ち動き始めるが、どうやら正面は最低限の押さえに留め、左右や廻り込んで後ろから攻めてくる算段らしい。


 なんとも隊長らしい、ひらりひらりとかわして、急所に一突きのつもりだろうか?


 それこそ自分は先頭にいると言うのに?


 まずは正面の壁を突き破ってやろうと、つっかかる。


 ひたすら守りに徹して面倒な敵【重装兵】の盾を蹴り飛ばし、体制の崩れた所を重剣でぶん殴り、武技で突き飛ばすが、中々しつこく粘ってくる。


 一見奇策に走り、効率を求め、ヒトがやっちゃいけないと思う事を平然とやる隊長の芯部分にある嫌らしい粘り強さを見ている様だ。


 そして、振り返ればこちらの軍勢が横から敵に侵食されて、それこそ自分の脇の甘さを指摘されている様で、耐えられない。


八陣術 方円陣


 隊形を防御型にシフトする事で、こちらの神経に割り込んできてイライラさせてくる敵を排除。


 「ローシャ!」


 それだけ言うと【騎兵】隊が動き、同時に隊長もこちらの前線に【騎兵】をぶつけてきた。


 そしてその最前線にいるのは自分、向かってくる【騎兵】の最前線はカヴァリーさん。


 これは流石に本気中の本気でかからねばと、


<白竜気>


 奥の手を発動して待ち構える。


 分厚い雲に溶け込むように高く飛んだカヴァリーさんに、一瞬高鳴るような心臓の鼓動を感じて盾を掲げると、6発ほど衝撃を感じた。


 ダメージの貫通量から術だろうと、当りはつけたが今の自分の耐性ならどうと言う事はない。


 そして背後に雪を巻き上げながら着地するカヴァリーさんに、振り向きざまの斬り払いを見舞うものの、サーベルでいなされ、


 同時に視界に映るのは【重装兵】の一人がナイフのついたライフルのようなもので突き殺される姿。


殴盾術 獅子打


 そのまま盾で殴りかかると、シェーベルの跳躍力で逃げられた。


 正に人馬一体だなと感心しつつも、カヴァリーさんの仲間と見られる【騎兵】を一体一馬切捨てる。


 <分析>を使い戦場全体を確認すると、方円陣は食い破られ内側にかなりの数の敵が潜入していた。


 まぁ、それならと、


八陣術 鶴翼陣


 挟み撃ちの陣形に切り替えていく。


 まずは二列縦隊に隊列を整えて、そこから左右に扇状に開いていく。


 挟み潰すのではなく、囲み殺す殲滅陣形。


 敵勢は戦力の消費を気にせず、相打ち覚悟でただただ数を減らす戦術に対して、こちらは陣形を保ち少しでも数的有利を作り出す戦術。


 戦況は互角だが、数としてはこちらの方が有利、しかしどうせ何か考えん事があってだろうと、潰せる内に一体でも多くの敵を倒していく。


 強いて言うならこちらは小隊級の指揮官をひたすら狙われて機能不全気味だが、はっきり言ってそれ以上の上位者がいればいきなり戦線崩壊はない。


 いつの間にかカヴァリーさんも乱戦に向かい、敵兵力のフォローに向う。


 逆に自分は敵中核を見失い、手近な敵を切り倒しまくる事しか出来ない。


 消耗は激しくとも、中核を潰されなければ継戦は可能と見たのだろうか?


 逆に最前線の自分が倒されればこちらは負けなのだが、最前線過ぎて隊長は自分を見逃したのだろうか?


 そんな逡巡の間に、空から闇が降ってきた。


 東から西ではなく、まるで上から下へと夜が来たような感覚に、何かやられたとだけ感じるものの、一体これが何だ?とも思えたのも束の間の事。


 次から次へと自軍か削られていく。


 自分の目には棒立ちのヒト影を別のヒト影が一方的に切り殺すシルエットが見えている。


 状況から察するに、敵にはこちらが見えていて、こちらは敵が見えないのだろうか?


 指示を出すまでもなく、その場に伏せて一旦様子を見る自軍【兵士】もいるが、じりじりと生命力と精神力を削られていく。


 そして、棒立ちの自分に絡んでくる敵兵。


 だがそん所そこらの【歩兵】にやられる訳にも行かない。


壊剣術 天荒


 一太刀に薙ぎ払い、斬り飛ばす。


 更に二人がかりで覆いかぶさってきた所を


殴盾術 獅子打


 力づくで跳ね飛ばし、


武技 踏殺


 踏み潰して、戦闘不能に追い込んだ。


 一瞬の間に治療鞄から、混ざり合わない緑と黄の薬を取り出して、


治療術 自己回復


 とりあえず、体力と生命力を回復した。


 そこにいやに軽い足音が近づいてくる。

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