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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
357/363

356.じりじり

 「まだ来ませんか?」


 「まだだな~」


 宰相派の勢力がかなり減って、話す事が多くなったカトラビ街の兵長は、相変わらず泰然自若としている。


 対して自分は自覚できる程に焦れている。


 それは何故か、隊長が【旧都】を占領しないからだ。


 確かに元々皇帝派も人員や物資的な面で【旧都】占領は苦しいかもしれないと思っていた。


 それならば逆に、誰もいない【旧都】を無視して【帝都】に攻勢をかければいいのにそれもしない。


 【帝都】周辺は比較的なだらかな地形なので雪崩も起きないし、森はあれども【古都】周辺ほど鬱蒼としてる訳でもないので、伏兵を警戒するまでもないだろう。


 それなのに、隊長はひたすら【偵察兵】を放って様子見ばかり、こちらは全部晒しているのに今更どんな情報が欲しいというのだろうか?


 なんならこちらの軍容すら晒しているのだ。


 まあ、晒すどころか元々限られているので、秘密にするまでもないと言うべきか?【憲兵】のパリツェだけは【帝都】警備に回して、代わりに宰相が雇った傭兵隊が入っているものの、そこまで大きく戦闘能力が変わるものでもない。


 隊長の謎の行動に、どんな罠が仕掛けられているかも分らず、ひたすら警戒を厳にして【偵察兵】達に負担を強いる日々。


 思わしくなかった食糧事情も、傭兵を介在したなりふり構わない購入と、暇なエイリーク隊が海へ漁に出かけた事で、かなり持ち直した。


 そんなある日、やっとの事で隊長の【旧都】入りの報が来た。


 「それで、元皇帝派の【旧都】入りが遅れた理由は分ったんですか?」


 「どうやら、罠を警戒したらしいぞ」


 「罠ですか?あんなに綺麗に何もない状態にしたって言うのに、何をそんな?」


 「いやだから、何もなさ過ぎて警戒したらしい。住民を根こそぎ避難させた事で、都ごと消し飛ばすつもりじゃないかってさ」


 「……隊長じゃないんだからそんな事しませんよ。あの人は日頃自分のやってる悪行で疑心暗鬼になってるんじゃないですか?」


 「まあそれはその通りだろうが、別に悪行ってほどでもないだろ。状況に応じて自軍の被害を減らしつつ、敵戦力を削げるなら、建物を引き換えにするのは悪くない。特にあの隊長なら金だけはあるんだし、立て替えるのも容易いだろうからな」


 「まぁ、それはそうですけど」


 「例の邪天使と戦った時に潰した【王国】平原の大砦は、今や大陸貿易の中心地になって、いっそ都にするべきか検討中らしいぞ?」


 「んな!何か噂では平原に大きな道が出来たとは聞いてますけど……そう言えば各国の宿営所跡に立てるって言う話だった街や商店はどうなったんだろう?」


 「どうなったんだろう?って確かそれはソタローが【商人】どもを脅して、宿営所はそのまま各国【兵士】の駐屯所として付近の警備をしつつ、商業区から上がる利益の一部が警備料金としてそれぞれの国に分配されてるとか、そんな話じゃなかったか?」


 「自分は脅してませんし、ニューターの【商人】に不利を押し付けてきたから、場合によっては【王国】国王に抗議すると言っただけです」


 「いや、筋力で国をひっくり返すって聞いたぞ?」


 「筋力じゃ国はひっくり返りませんよ!それでひっくり返るなら今こうして内乱やってません!」


 「そりゃそうだな。まあ話を戻そう。いずれにせよ向こうは罠を警戒して【旧都】入りが遅れたが、間もなく決戦を挑んでくるだろう。決戦予定地である雪原は今の所罠などが仕掛けられた様子もない」


 「隊長が【旧都】入りしたならほぼ間違いなく【旧都】と【帝都】の中間点で決戦でしょう」


 「大規模な兵員の動きからしてもそうだろうな。向こうは【帝国】東部及び中央部を手にいれて、兵員も拡充したものの、隊長が率いる大隊の他は必要最低限に抑えているようだ。迂回して奇襲をかけてくる事もないだろう」


 「将や軍幹部は向こうの方が多いとは聞いてますけど、複数隊では攻めてこないんですね」


 「ああ、しかも隊長の行軍にあわせて元皇帝自身も出てきてるらしいしな。本当に決戦のつもりなのだろう」


 「勝って【帝都】入り、そのまま皇帝への復権を目指すという訳ですか」


 「だな。戦いで勝った者に『皇帝の剣』は授けられるんだろう?」


 「そうですね。何か異常な光で白竜様を攻撃していましたけど……」


 「らしいな。はじめは驚いたが、結局白竜様が自身で薬草取ってきて顎に貼り付けて『寝れば治る』とか言って帝城に引き篭もっただけで済んだし、気分を害した様子でも無かったらしいじゃないか」


 「もう、なんかアレだけの存在に攻撃を仕掛けるのも意味分からなければ、その攻撃の威力も異常だし、それでいてくらった方も平然としてるって、何がなんだか」


 「まあ良くも悪くも【帝国】の気質は白竜様を崇拝する所から来てるし、殴り合えば怪我をするのも当たり前だからな。力のぶつかり合いに怨恨を残すような事はないだろう。不意打ちで殴った分、殴り返されるかもしれんが」


 「殴り……まあ、いずれにしても自分が通しませんよ」


 「その意気だ!白竜様に願ったんだもんな。戦う相手が欲しいってよ」

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[一言] お願いしちゃったもんね~(゜ー゜)(。_。)ウンウン
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