354.落胆と覚悟
「全滅ですか」
各所に派遣した【偵察兵】の報告を聞いて出た言葉はそれがいっぱいいっぱいだった。
まさか、最強戦術三方不敗の戦果はゼロ。
健闘したのは『嵐の岬』と『騎士団』だが、船と馬を使えない戦地を選ばれ、不利なまま潰されてしまった。
相手になったのはビエーラさんとカヴァリーさん夫妻だったらしい。
完全に地の利を利用されつくし、倒されたというのはある意味順当な結果なのかもしれない。
しかし、あの二人は隊長側についたのかと落胆した所に、普通に夫妻がやってきて、
「ソタロー!他所者に大きな顔させないの!隊長と戦うのは好きにしたらいいし、応援するの!ボコボコにするの」
「いやボコボコって……」
「ソタローならきっと出来るから、じっくり計画を立てて悔いのない様にね。後、もしまた他所の国のプレイヤーを呼び込んでも、即、叩き潰すからそのつもりでね」
うん、完全に説教されてしまった。どうやら内乱に乗じて他人の国を我が物顔で荒らすプレイヤーを嫌っているらしい。
あの2クランはそういう人達ではないと思うけど、もしかしたら自分が管理できない場所で、勝手なことをしたプレイヤーでもいたのかもしれない。
という訳で、他国の助っ人は頑張ったけど駄目だった。これは仕方ない。
問題は老【将官】の率いた隊だが、かなり慎重に【黒の防壁】に乗り込んだものの、砦ごと沈められた。
はじめは何を聞いているのか意味が分からなかったが、砦ごと地中深くに沈められて、今も雪で少しづつ階段を作って脱出経路を作成中だそうな。
そして意地が悪いのか、優しさなのか、食料だけは大量に置いてあるので、当分は地中の牢獄に捕らわれたままとなりそうだ。
まあでも、一番不甲斐ないのは自分だ。
主攻を負かされ白竜様という切り札まで切ったのに、隊長一人にひっくり返されてしまった。
つまり向こうの被害は軽微、こちらはまた戦力が大幅減だ。
強いて言うなら【黒の防壁】を向こうは失ったが、【帝国】のど真ん中に大穴が開き、不干渉地帯が出来ただけの事。
黒の森からの魔物に関しては、この大穴のお陰で一匹二匹は抜けたとしても、大軍が攻めてくることはなくなった。
つまり、チータデリーニさんはこの事を知っていて【黒の防壁】を手放したのかと、一つすっきりした。
すっきりした所で、今後の展開について考えていこう。
現状こちらはやられっぱなしで、攻勢に出られる状態じゃない。ターンエンド、隊長のターンって訳だ。
そして隊長の攻め手としては二つの選択肢がある。
北回りで【帝都】を落とすパターン、【旧都】へ大河沿いを攻めてくるパターン。
どちらかしかないのは分っているが、どっちなのかが分らない。
頭で分らない時は筋肉に聞いてみよう!
【帝都】なら右!【旧都】なら左どっちなんだい!上腕二等筋答えよ!
ピクピクピク!
「な!腹直筋!!!」
「何が腹直筋なんだ?」
いつの間にか部屋にいたカトラビ街の兵長に遊んでいる所を見られてしまった。
いや、遊んでいた訳じゃない。選択に迫られて短絡的になっていた思考を緩めていただけだ。
「すみません兵長、カトラビ街を取り返せなくて」
「いや、寧ろ敵大将が単騎で乗り込んできたのに、倒してこの内乱を終わりに出来なかった若造共を絞ってやらにゃあな。それより何が腹直筋なんだ?」
「そこに拘りますね。敵の狙いが分からなくて、頭が混乱してたので、筋肉に聞いてみたんですよ」
「ほう……それで腹直筋だと何が狙いなんだ?」
「いや、上腕二等筋に聞いたので、腹直筋が反応して思ってたのと違うなって」
「なるほどな。大体分った。つまり二択から選ぼうとするから混乱するんだ。相手に一択しか与えない方法があるんじゃないか?」
「いや、あの……筋肉に聞いたんですけど?」
「あのなヒトってのは筋肉で動いてんだよ。筋肉を信じれないでどうするんだ?頭で分らんって事は理じゃどうにもならんって事さ。そういう時は体の赴くまま決めちまうのも悪くない。頭も体も自分の一部だ。どっちで選択しようとも責任取るのは自分自身だろ?」
相変わらず【帝国】式無茶苦茶理論だが、今の自分には天啓のように感じられた。
「一択しか与えない……あっ!」
「ほらな。やっぱりお前の中に答えはあって、それを筋肉が代弁してたに過ぎないのさそれでどうする?敵だっていつまでも待っちゃくれないぞ」
「そうですね。それではすぐに住民を避難させてください!」
「どこから、どこにだよ?」
「【旧都】から出て行ってくれれば構いません。出来うる限りの家財を持ってどこでもいいので好きな所に逃げてください」
「それで、この【旧都】はどうするんだ?」
「放棄します!どうせ二都に分割して防衛するだけの戦力は残っていません。【帝都】近隣の雪原で決戦にします」
「何故そこで決戦になると分かる?」
「両者今の戦力を保持するのが一杯一杯だからですよ。食料に乏しいこちらを潰したければ、時間を掛ければそれだけで勝てるのに、決戦準備の報は入ってくるという事は、向こうも早めに勝負をつけたい証拠です」
「なるほどな。それで【帝国】の中芯まで与えちまうってのは太っ腹すぎないか?」
「別にそんな事ありませんよ。寧ろ維持しなくちゃいけない都が減る分、負担も減ります。ここは身軽にして決戦に全力を注ぎましょう」




