352.宰相必勝の策
「三方不敗しかあるまい」
「噂のアレですね?失敗したばかりなのにまた行きますか?」
「ソタローも物言いに遠慮がなくなってきたな。いい傾向だ」
ある日、宰相が【旧都】に現れたと思ったら、東部への反攻作戦会議のためだった。
しかしその案が噂の三方不敗で、どう断るか必死に頭を回転させている。
「多分次は命運を決める一戦になりますよね?あえて負けた戦術を引っ張り出してきたのは何でですか?」
「今回は規模が違う。敵の戦力が限られているのはソタローも良く知るところだろう」
「こちらの戦力も大激減してます。しかも食料に関しては向こうが有利です」
「それでも内乱序盤のソタローの働きのお陰で、今もこちらが数的有利を保っている。その有利を最大限利用する為、三方不敗なのだ」
「確かに【帝国】の特に東部は大軍を通せるルートがかなり限定されますし、いくつかのルートを同時に使用して、一箇所に戦力を集めて一気呵成に攻めるのが合理的なのは分りますけど、どう考えてもその険しいルートを塞いで邪魔してきますよね?」
「それが狙いだよ。もしこちらの邪魔をする為に戦力を分散させれば【古都】の守りが弱くなる。【古都】に戦力を残して防衛に専念すれば、取られた地域を取り返す。いずれにしてもこちらに有利に転ぶと思わなかいかね?」
「仮に【古都】防衛に専念した場合、更に時間を稼がれて食糧問題を抱えるこっちが不利じゃないですか?」
「それについては既に腹案があるので安心したまえ」
「念の為その腹案を聞いておいてもいいですか?」
「ふむ、現状通常の商人を介した輸入を封鎖されている。なれば商人以外に食料を持って来させればいいと思わないかね?」
「理屈ではそうでしょうが、誰が好き好んで内乱中の国に食料を持ってきてくれるって言うんですか?」
「戦場が稼ぎになる者もいるだろう?当然商人と取引するよりかなり割高にはなるが、当座の食料を集めつつ、戦力も増強できる」
「……他の国の【兵士】?」
「いや【傭兵】だよ。幸い資金だけはある。割高だろうがなんだろうが必要なものを集めて、攻めきるのみだ。それに向こうが幾ら余剰の食料を持っていようと限界はある。いくらかこちらより有利と言える位だろう」
「何でそうと、分るんですか?」
「分かるんだよ私には、代わりに向こうにも筒抜けなのだろう」
あ~腹黒同士が共鳴してるのか~。
何か聞いてみてもいい気がしてきたな……。
「それで具体的には?」
「乗り気になってきたようだな。説明しよう!西部から東部に乗り込む場合、ルート及び難所といえば?」
「【旧都】【黒の防壁】カトラビ街の三箇所でしょうね。【帝国】の中芯に当る三つの内二つは取られてしまいましたけど」
「そうだ。つまり敵からすると、こちらは【旧都】から進発して、大河沿いを【古都】へ向うと見るだろう」
「まあ実際それしか今の所ルートはないですからね」
「そこで、同時に【黒の防壁】及びカトラビ街にも攻勢をかけるのだ。三点同時攻撃で敵に防御する場所を選ばせる。そして抜けた者達で【古都】及び周辺地域を取る」
「【黒の防壁】は元々中立でしたし、こちらの【兵士】を詰めればそれは堅固になると思いますが、カトラビ街はまた取り返されるだけでは?」
「それについても腹案があるが、流石に簡単に話す事のできぬ秘策中の秘策、だからソタローにはカトラビ街攻めに加わってもらいたい」
「……てっきり最も大規模な攻勢は大河沿いからだと思いましたが?」
「では、人員の割り振りだが、まず大河沿いはソタローの協力者であるニュータークラン『嵐の岬』『Kingdom Knights』に任せたい。船を使える【海国】の猛者と精強な平原の騎士達と聞いている」
「なるほど、皆さんも戦う場を欲してましたし、いいんじゃないでしょうか?でも【古都】を落とすには少し戦力が足りないかもしれないですね」
「大河沿いのあの通りを守ろうとしたら、敵もかなりの軍勢を割かざるを得まい。他のルートの為に陽動として動いてもらいたい」
「囮ですか……素直にそう言えば、寧ろ【古都】を落とすと息巻きそうな人達ではありますね」
「それは頼もしい。次に【黒の防壁】だがそちらは【旧都】防衛を任せている退官した【将官】に任せたい」
「何で防衛隊を?」
「ソタローに変わって大軍を指揮できる者が少ない事と、砦攻めは無難でも被害を最小限に抑えられる者を起用したいからだ」
「つまり【黒の防壁】も敵戦力を釘付けにする囮という事ですか?」
「うむ、つまり残るカトラビ攻めが主攻という事だ。私、ソタローで向い【古都】裏から一気に攻め寄せる。そもそもソタローの案では【古都】は北から攻めるべきだという事だしな」
「カトラビ街は地形的に非常に強固ですが、それでもやれる策があると?」
「その通りだ。戦力としては私の手勢を使おう。【帝都】はほぼ防衛不可能になるが、逆に守るモノがなくなるのだし、いっそ空けてしまおう。その方が敵の混乱を誘えるかもしれないしな」
「守るモノがないって、白竜様は……?」
ニヤリと不気味に笑う宰相、内乱は今や腹黒同士の陰険なやり取りの場となった。
自分は黙って筋肉解放の時を待つばかり。




