350.想定外
「もう一度、聞いてもいいですか?」
「はっ!【古都】殲滅軍が壊滅した為、至急【旧都】に戻り防備を固めるよう宰相閣下からの命令です」
「ふぅぅぅぅ……【古都】は自分が攻める予定ですが?」
「宰相派【将官】の率いる三大隊が、三方から包囲、戦術三方不敗を発動したものの壊滅。すぐに動ける大隊はソタロー将軍及び、相談役の二大隊となっております」
相談役と言うのは、巨大湖で仲間になってくれた老【将官】の事だろう。今も【旧都】を守ってくれている筈だ。
そうなると、宰相派【将官】というのは?
「ロデリックはどうなりましたか?」
「残念ながら、雪崩に巻き込まれ戦闘不能です」
「なだれ???あの雪崩に巻き込まれたんですか?」
「はい!【古都】の東西に展開した大隊は雪崩に飲まれ、南側大河から攻め寄せた大隊は【古都】城壁に設置された新兵器で半壊の後、指揮官である【将官】が敵将隊長と一騎打ちの末、果てました」
「隊長と一騎打ち?一騎打ちですか!それで、その内容は!」
「は!報告では一瞬で首の急所を取り、そのままへし折ったとの事です」
どうにもイメージと合わない情報が多い。
ストレスで頭に登る血が、ズキズキと自分を痛めつけてくる。
ゆっくり深呼吸して、頭の血を筋肉に流し込む。
「まず、何故自分に連絡もなく、【古都】占領軍が編成されたんでしょうか?」
「理由は分りませんが、宰相の許可があった事は確かなようです。【古都】でソタロー将軍と合流予定であったと聞いています」
「合流予定であって、共闘予定ではないという事ですか……。次に三方不敗とは何ですか?」
「は!三面同時作戦の事を指します。大規模軍で展開の難しい地へ、三方から寄せてタイミングを合わせて攻撃する事で、戦力を集中させる戦術は過去何度も大きな戦果を上げております」
「では隊長の一騎打ちの件ですが、本来隊長は機動力を生かした高速戦闘を得意とする手数タイプの筈ですが、首をへし折ると言うのは?」
「言葉通りです。現場にいた【兵士】の言葉では、黒い化け物が片手で【将官】を釣り上げ、そのまま首をへし折ったと、それだけです」
「何故それが隊長だと?」
「先方が、最も欲しい首だろうと言っていたことから、隊長本人である可能性が非常に高いとされています」
確かに、これは一度帰還して詳しい話を宰相に聞かねばならないだろう。
大急ぎで帰還し【旧都】防衛の指示を出す。
その上で単独【帝都】に向かい、宰相に面会する。
待たされるようなら、筋力づくで踏み込むつもりだったが、宰相もそこは察したのかすぐに会ってくれた。
「どういう事ですか?」
「報告の通りだ」
「なぜ?」
「前にも話した通り、大抵の者は戦後の地位を意識する段階だった。それ故最も負けない形で攻めた筈だったのだ」
「その『筈』で、戦力の大半を失ったんですよね?」
「その通りだ。結果は惨敗どころか、戦力の大半を雪に生き埋め及び新兵器の実験体として捧げる形となってしまった」
「三方不敗でしたか、何故負けにくいと?」
「陸路及び大河を使った兵力輸送で、戦力を分ける事でリスクを減らしたつもりだった。実際【古都】包囲までは完璧だったのだ」
「でもそれは寧ろ、包囲させられたという事ですかね?全部隊長の手のひらの上」
「信じたくはないが、そういう事なのだろう。巻き返しの為にこの絵図を描いていたと見て間違いなかろう」
「全くあの人は悪魔か何かなんですかね?深慮遠謀とかそんな生易しい言葉じゃ説明つきませんよ?」
「……それでも私はソタローなら勝てると信じているが?」
「なら、最初から任せてくださいよ。正面から戦えば少しは目があるかもと思っていたのに、これで何をしてくるか分らなくなりました。あの人の脳から出てくる悪知恵や嫌がらせに対応する方が難しいですよ」
「そうだな……、全てはこの内乱を始めた張本人にも関わらず、手綱を握れなかった私の責任だ。まずは戦力を整えて待機してくれ」
これ以上問い詰めても今の所は何も答えが出ないだろう。
恨み言は今後も出てしまうだろうが、やる事はやる事ととして、自分の隊及び残存兵力の確認と再編。
宰相派大敗北の報はそこら中に伝達され、騎士団や嵐の岬への説明も忘れちゃいけない。
今まで暇で【訓練】ばかりしていたが、負けた方が忙しい。
何なら【訓練】の相手が雪崩で生き埋めになってしまった。
まぁ、ゲームなので死亡ではなく、病院送りとかそんなものだろうが、それでも内乱中は復帰しないという事だけは、伝えられている。
同時に日に日に【帝国】東部が元皇帝派に落とし返されているという報も入る。
大きな理由は食料。内乱初期に比べると心細くなった食糧事情、逆に元皇帝派は隊長の所為で食料には困らない。
状況が逆転し、それでも白竜を信奉する【帝国】民は多いが、そこに更に嫌な噂が流れる。
白竜復活は嘘、または宰相が独占し好きに操っているなどなど。
おいそれと白竜を人目に触れさせる訳にもいかないらしく、噂の火消しに奔走する日々。
何故かガイヤさんがやってきた。




