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MONOローグ~夢なき子~  作者: 雨薫 うろち
西帝国動乱編
346/363

345.宰相の策

 「宰相、一つ伺いたい事があって【帝都】に戻ってきました」


 「ふむ、噂通りだ。何も間違ってはいない」


 うん、話が即終わってしまった。


 宰相の不意をつくように切り出して、本音を聞きたかったのだが、自分がわざわざ【帝都】に戻ってきた理由は全てお察しだった模様。


 とはいえ、ちゃんと話を聞かねば納得できない部分もあるし、もうちょっとちゃんと聞いてみたいと思う。


 「自分がなんで戻ってきたか知ってるんですね」


 「そろそろだろうと思っていたし、ソタローが持ち場である【旧都】を離れて私を訪ねてくるなんて、一つしかないだろう。そしてもう少し詳しい説明を聞かねば納得できないと言うのであれば、詳しく話すのもやぶさかではない」


 「じゃ、じゃあ教えていただいても?」


 「うむ、私と元皇帝は幼馴染と言っても過言ではない程、近しい存在だった。本来上に立つものは孤独を抱えるものなのだろうが、我々にそれは当てはまらなかった」


 ん?何か思ってるのと違う?


 「そうですか……」


 「ああ、一見豪放磊落で英雄に憧れ、少年のまま育ってしまった元皇帝は、内実小心で慎重、だからこそ堅実かつ奢侈を好まず、己の鍛錬にも手を抜く事がなかった」


 「はぁ……」


 「一見すれば理想的トップだ。まずやるべきことをやり、無理を言わず、常に現実を見据えて手堅い経営。完璧だろう?だが、本来そんな小さくまとまる器ではない筈なのだ。英雄と言う虚像に憧れを抱くばかりに、己に対しての評価が低く、冒険をしない」


 「でも、そんな元皇帝が嫌いではない?」


 「そうだ。だからこのまま何もせず、何もしなかった無能な皇帝と言う評価をされるくらいなら、私が全ての悪評を受けてでも、改革を為す」


 「では噂の内容は?」


 「ああ、私の意見を取り入れない元皇帝を追って私が独裁政治をしようと言うのだろ?内情は違えど、やる事はやはり私の独裁と変わりないのだから、好きに言わせておけばいい」


 「そうですか、ところで自分の質問に答えていただいてもいいですか?」


 「勿論だ。私はソタローを最も信用している腹心だと思っているし、だからこそ腹の内の全てをさらけ出すのだ」


 「東部を食糧難に陥れたのは宰相ですか?」


 「……そうだが、何故知っている?」


 「いや、それが噂になってるんですよ。商人が豊作にもかかわらず、高値で食料を買占め、内乱が始まった後は高すぎて食料を買い戻せなくなったと」


 「うむ、確かに私が仕掛けた。以前ソタローに言っていた仕掛けだな」


 「内乱後はこの国を治めようというのに、何でそんな悪評が立つような真似を?」


 「目的はいくつかある。一つ目戦力を集める能力では元皇帝に敵わない可能性があった。案の定軍幹部は殆ど向こうについたが、ならば末端の【兵士】をこちらに誘導する仕掛けが必要だった。そして二つ目内乱終息後、農民を工業者にする時の布石にもなっている。そして副次効果として東部の治安が悪化し、元皇帝派の足場固めに遅延が生じている」


 「なるほど、効果的である事は分りました。でも自分の質問は悪評が立つような真似をしたのは何故ですか?と言う事です」


 「確かに、私の評判は悪いだろう。だからこそソタローには知らないままでいて欲しかった。いいか?コレは役割分担だ。ソタローは白竜様を復活させた英雄……つまり好感度の高い国のトップだ。そして私は独裁的に国の利権を握る悪者。何度も言うが悪評は私が全て被る。ソタローは将軍として民に希望を与えてくれればいいのだ」


 「民に被害が出ても?」


 「確かに民は思い通り、今まで通りの生活は出来ないだろう。しかし餓えて死ぬことはない。こちらに来れば幾らでも補償するし、元皇帝だってヒトを取り込むために、放出できるものは全て放出するだろう」


 「放出できるものはって言いますが、追い出したのに何を放出するんです?」


 「そこは、まあ色々だ。ソタローはこの帝城に宝物庫があって、お宝が唸っていると思っているのかい?」


 「まぁ、自分が報酬で貰った剣のレプリカとかもあるくらいだし……」


 「そういった歴史的遺物は残っているが、それは私も元皇帝も手をつけたりはしない。寧ろ信用で引き出せる金なんかに現物は必要ないだろ?」


 「ああ、そういう……。分りました。民が賊徒化してるらしいので、まずい状態だと思ったんですけど、読み通りだった訳ですね」


 「うむ、心苦しいが、大局的に未来を見た時に必要な処置だ。ソタローには存分に人気取りをしてもらいたい。【帝都】に保管している食料は幾らでも持ち出してもらっていい」


 「つまりタダで食料を配って廻ってしまっていい?」


 「勿論!ついでにソタローの隊を膨らませて、決戦に備えてくれ」


 「決戦?まだ殆ど戦っていないのに?」


 「まだ殆ど戦っていないのに、睨み合いだけで【帝国】の半分以上を傘下に収めたソタローの手腕は今や誰もが警戒しつつも羨望の目で見ているぞ?」


 「いや、そんな事言われましても……」


 全ては宰相の手の内だと知り、言われるがまま食料を配り【帝国】東部の大半すら占領した頃、あの人がどこからともなく帰ってきた。

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