343.食料難
大急ぎで、カトラビ街の近くにある村に向う。
鎧は最軽量状態に設定し、更に 空流鎧 を使用した自分の出来る最速で走りまくる。
それでもローシャには追いつかれてしまったが、ローシャ隊全員を連れてくる程の時間はなかったようだ。
つまり今回、自分が賊潰し係、ローシャは結果報告係で手分けをする事にした。
かなりローシャには注意を受けたものの、今の自分を止めることはできない。
行く手には小隊~部隊近い数の賊が待ち受けているのだ。
そう、ここで戦えなかったら最後自分のフラストレーションは爆発し、単独【古都】に突撃しかねない。
決して国を混乱させたいとか、戦争被害を出したいとかそう言う訳じゃない、だが!戦う相手を用意してくれるって話はどうなった?
そして、現地に到着。
そこで聞き取り調査や村復旧に精を出す【兵士】達から話を聞く。
「それで賊は?」
「えっと、将軍ですよね?何でお一人で?」
「いや、ローシャと二人だけど?それで賊はどこに何人いる?部隊程度と聞いたけど、実は中隊くらいの大人数が、どこかを根城にしてるんじゃないですか?それとも強力な傭兵の一人や二人用心棒に雇っていたりとか?」
「賊の根城は、この先【旧都】所属地域と【古都】所属地域の境目にある村を占拠して、そこを中心に荒らしまわっているようです」
「そうか、大体分った!じゃあ潰してくる。皆殺しにするから応援は不要です!逮捕人員は後から自分の直属中隊が来るから!」
「え?え?いや!賊は部隊程度の人数ですが……キンリ……」
まだ【兵士】が何か言っていたが、まあ彼には被害を受けた村のケアに力を注いでもらおう。
【兵士】から聞いた場所は、森の中の小さな村だ。
【古都】周辺にはよくある不便な村そのものだが、数人のヒトが視界に入る。
燃料用の薪割りか何かかな?
それだと村人なのか、賊なのか分らない。賊は賊らしく金貨の枚数でも数えててくれないものかな?
酒をかっくらって大声で、今日の成果を叫ぶように自慢話でもしていてくれればいのに、何か慎ましく薪を割ってて、
カツーン!カツーン!
と妙に甲高い音が響き渡る。
【帝国】では何かと音が雪に吸い込まれて静かになりがちだが、雑音が少ない分、逆に鮮明に聞こえる木を割る音に、ざわめく気持ちが落ち着き始めた。
「奇襲をかけようと思ったんだけど、どこかに人質とか閉じ込められてたりするかな?それだと先にそっち助けないとね?」
一緒に来てくれたローシャに相談を持ちかけると、
「やっと落ち着いてくれましたか、いくら小さな村とは言え一人で全てをこなすのは無理ですよ」
「伝令だけ任せるつもりでしたけど、すみません。自分が陽動になります。もし変な動きをする賊がいたらお願いします!」
ローシャの言葉に覚悟を決めた。
逃げられる前に素早くケリをつけなくちゃいけない状況には変わりない。
自分に出来る事は攻撃を一身に受けて大暴れすることだけ、面倒で判断を要する対処を任せる事は申し訳なく思うが、今はそれが最善だろう。
仮に逆のポジションの場合、慎重に賊の様子を探りながら動きに柔軟に対応するなんて言うのは、多分無理。
自分に出来るのは常に剛直に真っ直ぐ、重量と筋力任せに押し切ることのみ!いざ!
申し訳程度の柵の切れ目、正面から村の内部に入りこみ、薪割りをする人物に話しかける。
「仕事に精が出ますね」
「(グー)」
お腹の音で返事をされてしまった。
「お腹すいてるんですか?」
聞いてみると、コクッと一つ頷く。よく見ればかなり若そうだが、かなりやつれて覇気がない。
「もしかして、賊の被害者ですか?」
首を横に振って否定されてしまった。
もしかして、間違えて違う村に来ちゃったのかな?
とりあえず、日持ちするカチカチパンを出して若者に差し出すと、火で炙りもせずにかぶりつく。
普通は焼くか、スープにつけてふやかして食べるものなのに、本当にお腹が空いていたんだろう。
「この辺はそんなに食べてくのに大変な土地ですか?」
首を傾げる若者が、大急ぎでパンを詰め込み、話し始めた。
「何か、今年は豊作だったって」
「豊作なのにお腹が空いてるのはなぜ?」
「豊作で食料の値段が下がるかと思ったんだけど【商人】さん達が、いつもよりちょっと高めに買ってくれて余裕があったんだって」
「じゃあ、お腹空かないよね?」
「全部売っちゃったから食べる物が無くなっちゃったの。食べ物を買おうと思ったけど、物凄く高くなってて買えなくなっちゃって……」
「そうですか?それじゃ他のヒト達は?」
「何か他の村から食料貰ってくるって、それが嫌なヒトは皆軍に行った」
「君は?」
「留守番、何もない村だけど、他の村から食料を盗りに来るヒトがいるかもしれないから、何もないよって言えって」
「一人で待ってたら危なくない?」
「誰もいないと、腹立ち紛れに家とか何されるか分らないからって、誰かいればさっさと次に行くからって」
「そんなに皆、餓えてるの?」
「この辺から東はどこも食べるモノがないって聞いてる。だから西に貰いに行くって」
「そう……。もし食料置いていったら持ってかれちゃうかもしれないし、村のヒトが帰ってきたら【旧都】に来るように伝えな。普通の値段で食べる物買えるから」
また一つコクンと頷くと薪を割り始める若者、お腹すかしたまま作業してて大丈夫だろうか?




