335.老将
宰相の指示通り、村や町に部隊を派遣し、占拠を進める。
その過程で、多くはないが多用な兵種も発見し、自分の隊に編成していく。
例えば、雪の中に潜って隠れる事が出来る【雪伏兵】だが特徴はシンプルで、雪深い場所に隠れるとちょっとやそっとのスキルじゃ発見不可能と言う事。
基本は【偵察兵】と同じ扱いだが、フィールド上での完璧な潜伏能力を有するので、何か使い道がないか考え中だ。
他には【突撃兵】なんかは戦闘力が高く使いやすそう。
防具が軽く防御力が低いのだが、生命力に特化してダメージを貰いながら敵陣まで素早く突っ込むという、どちらかと言うと特攻兵って感じなのだが、自爆はしない。
【歩兵】よりも更に先行する斬り込み隊として、頑張って欲しい。
【術兵】の派生で、簡易的な壁を作る【拠点兵】
【衛生兵】の派生だと、戦闘不能の味方を救助するのを専門とする【保護兵】
諸々上げたら切りがないが、活用できる場面を想像するだけで楽しい。
今は想像するだけ、戦闘は何も発生していない。今は準備段階なので仕方ないとは言え、物足りない。
そんな足場固めの日々の中、一報が入った。
「ソタロー将軍!大変申し訳ないのですが、我々では対応不可能な相手が現れましたので、判断をお願いします!」
「分りました。それでは状況を教えていただけますか?」
「は!巨大湖近くの村の一軒で、老齢の退役軍人がいらっしゃったのですが、元【将官】だった事が発覚いたしまして……」
「内乱に何か物言いとか?」
「いえ、ただソタロー将軍に会って話がしたいとの事でして、元といえど身分のある方ですし、急いでに報告に上がった次第です」
「なるほど、自分を直接指名とあれば、確かに自分が判断するしかないですね。分りました!すぐに巨大湖に向うので、その旨【伝令兵】を使って先方に申し入れてください」
順調だった西部の足場固めにやっとトラブルの予感。
相手は元とは言え【将官】なれば、場合によっては一戦という事もあるかもしれない。何しろ【帝国】の将兵は拳で語り合うのが嫌いじゃない。
気を引き締め、十分に装備を整えて巨大湖に向う。
ちなみに今回は単独行だ。行き先を伝えておけば、自分よりずっと足の早い【伝令兵】が大事は伝えてくれるだろうし、大型魔物相手でもないのに、大人数ぞろぞろ連れて行くのは無駄だ。
途中、村や町に寄れば、どこもかしこも占領済みで快く宿を貸してくれるし、食料の補給にも応じてくれる至れり尽くせり!ちなみにちゃんとお金は払ってる。
道中魔物が出てきたところで、道なりに出てくる魔物は大した事無い。鎧袖一触で排除して雪道を進む。
さあトラブルだ!とやや興奮気味に歩いていたら、巨大湖に辿り着く。
現地で仕事中だった自分の隊の【兵士】に例の元【将官】の場所を聞いて訪ねる。
元【将官】が住むには質素な平屋、大きく深呼吸をして扉をノックすると、
「開いている入って来たらいい」
ゆっくりと落ち着いた男性の声が返ってきた。
「お邪魔します」
内開きの扉を押し開けて中に入ると、雪国にはよくある雪落としの玄関と内扉。
靴が並んでいたので、靴を脱いで内扉も開けて中に入ると、外から想像できる通りの無駄な物がない質素な室内が、薪ストーブでちょっと暑いくらいに温められていた。
老齢と聞いたが、椅子から立ち上がった男性は背筋がピシッと伸びて、どちらかと言うと壮年って感じだ。
「ようこそ将軍。まさか一人で退役した老兵を訪ねてきてくれるとは、心意気のいい方のようだ」
「お褒めに預かり光栄です。それで御用というのは?」
「そうだな今は内乱、将軍も忙しいだろうから単刀直入に言おう。私を宰相派で働かせてくれないかね?」
「既に引退されているご様子なのに一体なんでですか?差し支えなければ目的をお伺いしたいんですが?」
「それはそうだ。私は現役時代大した腕ではなかったが、運と周囲の引き立てのお陰で、大きな階級を頂戴して、今ではすっかり楽隠居の身。余生は静かにこの湖で魚でも釣りながら暮らそうかと思ったのだが、昔世話になった事を少し思い出してな」
「えっと……宰相派にお世話になった方がいると?」
「逆だ。皇帝派の軍務尚書通称『死神紳士』を知っているかね?」
「いえ、初めて聞く名前ですが、随分物騒ですね?そんなに悪いヒトなんですか?」
「いや、寧ろ堅物と言っていいくらい融通の効かない相手だ。若い頃はまあ不正をやる者、後ろ暗い者を追い詰めて、気取っていた男さ」
「……何したんですか?」
「くっくっく、私は違うぞ。不正なんぞは一つもしないし、堅実にやってた所為で奴に気に入られてしまってな」
「仲良かったんじゃ?」
「いや、婚期を逃したのさ。だからこんな歳で一人者だ。楽隠居とは言ったものの、ふと時折あの頃を思い出してしまってな」
「それは仕事が忙しくてとかじゃないんでしょうね?多分」
「ああ、相手はいたんだが、その家族にちょっと問題があって、あの堅物が全部ぶっ潰してくれたのさ。お陰で私の無難な前途には堅実な道だけがあって【将官】まで登り詰めてしまった。本当に世話になったよ。だが、この歳になって思うのさ。何であの時、礼をいいながら一発殴らなかったのかって」
「完全に私怨ですね」
「そうさ。だってコレは内乱って言う大喧嘩だ。ぶん殴りたい相手の一人もいないで、何と戦うと言うのだ?将軍にはそういう相手はいないのか?」
「……います」




