334.西部占領から準備
カトラビ街の意思を聞いたあとは特に用のある場所もなかったので【帝都】に帰還した。
正直、中立の【黒の防壁】及びカトラビ街は力づくで落とせるような土地じゃない。
つまり、もしこれから東部へと攻め入るならば、相応の手段が必要となる。
と、なれば自分一人の手には完全に余るので、宰相に報告がてら相談だ!
相変わらず【帝都】の宰相邸で政務を行っている様なので、向かえば、相変わらず殆ど待つこともなく話を聞いてもらえた。
「さて【伝令兵】を通して、逐次報告をくれたことは助かった。お陰で周辺地域への圧がけや占拠がスムーズにいったよ。ほとんど荒事を必要とせず、戦力を保ったまま西部一体を手中に収める事がで来たのはひとえにソタローのお陰だ感謝する」
「いえ、自分はかつて廻った土地に挨拶に行っただけみたいなものですし、別に何とも……」
「不満そうだな?」
「そうですか?久しぶりに行った土地の移り変わりが見れてそれなりに楽しかったですけど?」
「ソタローはもっと違ったものを求めていたのだろう?闘争や戦う相手を」
「そうですね。内乱は迷惑だと言われましたが、自分は戦う相手が欲しいです。いつからか分りません。初めの頃は大河沿いの鼠一匹にもハラハラして、工夫して戦っていたっていうのに、すっかり戦うのにも慣れて……」
「また自分が何をしたいのか、何を目指すべきか分らなくなった?」
「はい。自分は隊長と戦えますか?」
「……」
「行方不明ですもん。分りませんよね」
「それでも私の起こしたこの内乱に乗ってくれたのか?」
「そうですね。もしかしたら宰相なら行き先なり、帰る予定を知ってるのかもしれないとは思いましたけど、そうじゃなくても大規模なヒトとヒトの争いなら、強い相手もいるかもしれないと……」
「そうだな。もしソタローが本気で戦う相手を望むなら、私の伝手を使って炎の巫女と再戦できるように取り計らおうか?あちらはスポンサーのいる事だし、一度負けた相手とのリベンジマッチならソタローも燃えるのではないか?」
「!!!それは!!!」
「あと、集団での戦いとなるとこの国にも【将官】はいる。西部に関しては白竜様の後ろ盾もあり、あまりにもあっさりと事が運んでしまったから、不安を感じさせてしまっただろうが、まだこれから戦うチャンスはいくらでもある。安心してついて来て欲しい」
「分りました。それでは、現状の一番の懸念」
「東部に陣取る元皇帝派をどう攻めるかだな。向こうは軍幹部がかなりついていった事もあって、軍編成だけは素早く完了したそうだ。あとは東部平定だが、逆にこちらは白竜様を敵に回す事に対して、土地の民達の感情を慰撫できず、占領占拠に関してはまだ時間がかかりそうだ」
「それはまた……」
「第三者の立場で聞くと、ぞっとするだろ?ソタローは国民感情に沿ってるから大きな反感を買わずに済んでいるのだ」
「逆にこちらの兵力は限られてますけどね。向こうは時間を掛ければ、盛り返せますよね?」
「それについては既に仕込みが済んでいるから安心したまえ。まずは西部全域を完全にこちらの手中に収める。中心となる街は落ちている以上、あとは町や村ばかり、ソタローの部隊を派遣して、もし反抗する地があったら、直接赴くといい。その間に私は内政官を占領した地に派遣して、戦う為の支援態勢を整えておく」
「ちなみに、次の狙いは?」
「カトラビ街、【黒の防壁】共に中立となったのだ。ならば落とすべきは【旧都】しかあるまい。元々白竜様の霊廟の会った地だ。上手くすればあっさり陥落する」
「そうですか。じゃあ都を落とすのに必要な人員スカウトが当面自分の役目ですね」
「うむ、軍事に関しては私はあまり得意ではないので、一人早速スカウトしたから相談役として近くに置くといい」
そう宰相が言うと、部屋に一人の男性が入ってきた。このタイミングまで廊下で待っていたのだろうか?
「兵長!」
「おっさんでいいって言ったろうが」
入ってきたのは、カトラビ街の兵長だった。不在とは聞いていたがまさか自分についてくれるとは……。
「街の事は良かったんですか?」
「ああ、そりゃちゃんと引継ぎはしたからな。それより本当に白竜様復活を成し遂げた英雄の後輩を手伝ってやろうかと思ってさ。何しろ中央の軍幹部連中は大半が皇帝陛下について行っちまったんだろ?まぁ、あの皇帝陛下なら今後も軍に対して不利になる政策は打たないだろうが、それは目先の利益ってもんだ。現場指揮官達の意見は今頃割れてるはずさ。そこで、現場の連中の取り込みや配置はそういう奴らの扱いに慣れた俺達兵長職の出番って訳よ!」
「あっちには【古都】の兵長がついてますよね?」
「ああ……だがあのヒトは内乱なんか関係ないって顔で【古都】の管理してるんじゃないか?何なら立場上、態度だけはちゃんとしてるだろうが、内面では皇帝がいようが軍幹部がいようがどこ吹く風だろ?」
「逆に【古都】が困るような事になれば、全力で対応してくる?」
「まあその可能性はあるな。でもあのヒトは司令であって、指揮官じゃないからさ?現場で作戦立てる奴に人材がいるかどうかさ!」
「そうですか……」
何となく一抹の不安を感じつつ、まずは自分の隊の陣容を整える為に動き出す。




