333.巨大湖からカトラビ街
【黒の防壁】占拠を諦めた以上、それより規模の大きな【旧都】はもっと落とせないだろうし、ここは一旦退散。
もし雪原の街を狙われたら、数日耐えてもらって【帝都】から救援隊を派遣するしかなかろう。
そうなると次の目的地は巨大湖だが、ここは湖周辺に町や村が点在してる地域なので、一々全て廻っていたら時間がいくらあっても足りない。
つまり今回は様子見だけにして、あとは【帝都】からの派遣とかで占拠できたりするのかな?
どうしても自分が直接行くと白竜の後ろ盾のお陰で、降伏してくれるヒトが本当に多い。
宰相派からの誘いなら全て白竜派という事で、従って貰えるとありがたいのだが……。
取り合えず北西に向って出発!
あまり通った事ない道を行く事になるが、大まかな話として北に行けばチーリィ川がある。
南部の大河、北部のチーリィ川。
【帝国】のあらゆる生命を育む2大水源は、北か南どちらかに進めば必ずぶつかる。
今回は北なので、チーリィ川にぶつかってそのまま下流に向えば、巨大湖に辿り着くと言う寸法なので、遠回りはあっても、迷子だけはないという安心感に足取りが軽い。
何か内乱始まってから、ずっと足取りが軽い気がするが、クラーヴンさんに作ってもらった鎧のお陰だろうか?
本当に軽くて行軍が凄く楽!しかもいざ足場のしっかりした所で戦う時は重くする事も出来るので、正に自分が求めていた鎧と言っていいだろう。
そのまま勢いで、何となく北西方面に向っていたら、突然視界が開けた。
目の前にはかつてペンギンと戦った巨大湖。
相変わらず湖面は凍りつき、雪が降り積もっているが、厄介な巨大魔物がいなくなった事で生活はいくらか変わったのだろうか?
以前訪ねたログハウスに向かい、ちょっと情報収集といこう。
「お久しぶりです。以前は巨大湖の魔物の情報をありがとうございました。アレから生活は変わりましたか?」
「ふん……そりゃな、大層ヒトが観光や療養に来て賑わったさ。だが、あっという間にこの有様、理由は分ってるだろう?」
「内乱ですか?」
「ああ……一年中冬のこの辺にも閑古鳥が鳴いているようだ……」
「それは折角、賑わっていた所をすみません」
「いや、いい。白竜様復活の報が優先だし、今後の【帝国】の行く末を巡って皇帝と宰相が争う事も、いい事じゃないが、仕方のない事だ。寧ろ自分達の私腹を肥やす為ではなく、国の為を思って意見が割れたのだから、一般市民だから何もしなくてもいいのではなく。己の意見をぶつける時が来たと言う事さ」
「あなたにも、この国の行く末について意見が?」
「ああ、大それた事じゃないが一つ。折角療養に来た他国の者達が言うのだ。始めは雪景色が珍しかったが、慣れるとひたすら寒いとな……」
「まあでも土地柄ですからね。もしかしたらそれこそ、その寒さが病毒を寄せ付けないのかもしれませんし」
「そうさ。だが寒いのは寒いし、誰だって辛い!だから、この湖の周りの村や町に、サウナを設置したらいいんじゃないか?」
「……宰相に打診だけはしておきます。それじゃまた……」
どうやら他所から来たヒト達は避難してしまった様だが、現地民は相変わらずマイペースみたいだし、今の所変わりないのだろう。
休憩の終わった自分の隊を連れて、チーリィ川沿いを川上へと向う。
その先にあるのは【帝国】背骨に当たる東西の中心北側、カトラビ街。
もしココを押さえられれば【古都】を山側から攻める事の出来る需要な地である。
正直【古都】を山側から攻めるのは、悪路が多く容易ではない。
しかし、自分は北辺の怪物と呼ばれていた赤竜の化身を倒しに行った事で、この難所を大軍をもって行軍できるのだ。
仮に元皇帝が【古都】を拠点とした場合、自分を敵に回した事に後悔するレベルのアドバンテージを取れる。
ひたすら川を溯上する様に進んでいくと見慣れた絶壁が、徐々に近づいてくる。
そして、ヒトを拒絶するかのように狭いトンネルが川沿いに開けられて、相変わらず衛兵が【警備】していた。
「ふむ、こちら側という事は宰相派の軍勢か?」
「はい、宰相派将軍のソタローです。この街の旗色を伺いのですが?」
「それについては、既に住民の意見は一致し、従えないものはそれぞれの派閥へと向かった所だ。我々は中立を保つ」
「理由を聞いても?」
「個々人の意見はそれぞれだが、街としての意見に俺の意見を混ぜて話させてもらうなら、白竜様に従うのはこの国の者なら当然だろう。そして白竜様を復活させてくれたソタローに対する敬意もある。だが、それと内乱は別だ。民を導く方向性を決める為意見が割れる。それだけ真剣に国の事を考えてくれる為政者に対しても、ありがたい事だとは思うが、それで国内で戦をされたのでは迷惑だろう。悪いが喧嘩なら本人達がするべきであって、国民を巻き込むのはいかがなものか?どちらが勝つとか有利不利関係なく、内乱なんていう迷惑から自分達は街全体で力を合わせて身を守る事にさせてもらう」
「なるほど、内乱は迷惑ですか。言われればそうでしょうね。衛兵の仕事は街を守る事、民には民の生活がある。それで?内部には【兵舎】もありますよね?兵長は何といってますか?」
「街を守る者と皇帝につくものと宰相につくものとそれぞれ【兵士】達に意見を募り3つに分けて送り出しました。兵長も今は不在です」
「それだとこの街の【兵士】達の監督や管理は?」
「街長を初めとする街政の者達の管理下にあります。元々この街出身の者ばかりで見知った顔ばかりですから、トラブルもありません」
「そうですか……分りました。今回は様子見です。一旦引き上げさせてもらいます」
それだけ言って、カトラビ街を後にする。




