330.雪原の筈が?
【帝都】を北上し、やや中央寄り【黒の防壁】に向う途中にある大雪原。
かつてはマンモスを倒し大きな被害を出した土地だが、ここには大きな砦のような荷物集積用の街があった筈だ。
雪原の魔物に対応する為にかなりの堅固なイメージだったが、逆に今の段階で先にとっておけば、中央進出の橋頭堡としても使えるだろう。
しかし、行けども行けども森ばかり、とっくに雪原地帯だと思うのだが、一向に視界も空も開けない。
「おかしいな。道を間違えたかな?」
「どうしたんだソタロー?浮かない顔で不穏なこと言って」とチャーニン。
「いや、もう雪原に入っててもいい頃なのに、森が切れる様子がないからさ。道間違えたのかと思ってさ」
「はぁ?何言ってんだ?」
「ごめん、コレは一回立て直さないと……」
「いやいやそうじゃなくて!皆で『森喰い』を倒したんじゃないか!だから森が復活したんだろ?お陰で草食の魔物が増えて、肉食の魔物がヒトを襲わなくなったんで、交易がしやすくなったって話だぞ?」
「いや、森が復活って!あんな広範囲の大雪原が、いつの間に森になったのさ?」
「いや、いつの間って……掘った鉱石だろうと伐った木だろうと、気がついたら生えてるじゃないか」
そりゃそうだが、それって加工できる資源とかって意味であって、森がいきなり出来るのは地形が変わってるじゃん!
しかし文句を言った所で、NPCがそう言ってるんだから、もうそういう物だと飲み込むしかない。
このゲームは運営がデザインしたものであり、自分が一人、森ができるなんておかしい!って叫んでもそれが通る環境ではない。
何だかんだ道を間違えたわけではない様なので、それは良かったと思って、一路、元雪原の街へ。
途中町や村を占領しつつ、進むと遠くから喧騒が聞こえる。
近づけば近づくほど剣呑というか、ガラの悪い連中が他人の家を囲んでいるかのようなガナリ声がコダマしている?
「オラ!さっさと降伏しねぇか!じゃないとマジで門に火つけるぞ!」
「そうじゃなきゃ、誰でもいいから代表出せや!タイマンで決着つけてやる!」
「いいか?一応はこの辺に住む同士だ今降伏すれば手心は加えてやる!だが他所から来た奴らじゃそうはいかない。誰につくのが得か、分るよなぁ?」
などと、聳え立つ城壁のような街の門に悪態ついてるヒト達は<氷精術>を使い氷の武器を作って戦う村の人達だ。
「何やってるんですか?」
とりあえず遠巻きに見てるヒトに声をかけると……。
「あぁぁん?……げっ正規兵だ!オラ!お前らが渋ってる内に余所者が来ちまったぞ!ああ、もう終わったなお前ら!」
何かあっという間に無視して、やっぱり街に因縁つけるヒト。
コレは一帯どう対応したらいいんだ?
まあ剣呑だし、戦闘準備だけでもしておくか?と旅装を解き始めたところに顔見知りがやってきた。
「鉄壁の不屈……ソタロー将軍か、少し見ない内に一段と立派になったな。すまんなうちの連中が騒がしくて」
「はぁ、雪原の豹は【帝都】勤めだったと思ったんですけど何があったんですか?」
「そりゃこの内乱だからな。俺はうちの村の連中に声を掛けに来たのさ。前にも言ったが俺は……」
「皇帝派でしたっけ?」
「いや、俺も村も白竜様派だ。国を富ませるとか、工業がどうとか農業がどうとかは村の連中もよく分ってない。何しろこの辺で草食の魔物を狩って食うのが生活だからな。『森喰い』を倒してもらった後はご覧の通り資源も復活したし、何も言う事無いんだが、誰かにつかなきゃなんないのが内乱なら白竜様につこうと意見がまとまってな」
「それで独自に街を占領しようと?」
「ああ、俺はやめておけといったんだが、手土産は多い方が帰参した時に有利だろうって話になってな。街を一つ占領した状態で宰相派につけば、そりゃ悪いようにはされないだろう?ただでさえ後ろ盾は商人が多く、単純な戦力のみなら皇帝の方が有利な可能性もあるんだからよ」
「元皇帝は軍に公共的なものをかなりの部分任せてましたからね。確かに軍とのつながりも強いでしょう。逆に街側が出て来ないって言うのは、街側はどちらにつく気なんですかね?」
「さあな?だがこの機にのし上がろうとか、一発当ててやろうなんて奴はきっといるだろうし、他の街でも似た様な光景は見れるかもしれないぜ?だがまあ俺達は一旦ここまでだな。ちょっと待ってな」
そう言うと、街を囲んで相変わらず何やら叫んでる仲間達の元へと向う雪原の豹。
しかし、自分はてっきり内乱なのだから、元皇帝派と宰相派で争うものと思っていたら、ここぞとばかりに街を攻めてる別勢力がいるとは、考えてなかった。
とりあえず、今回は手土産代わりに占領しておこうと言う事だった様だが、もっと別の理由と言うか、欲望のまま侵略行為をする者がいたら?もしくは第三勢力となる為に、急いで支配地域を増やしている者とか?
想像していたら、背中に寒気が走った。
一先ずは目の前の街を占領することに集中しよう。
そして、可及的速やかにこの街の併合しつつ防備を固め、既に落とした海岸の街の事も考えねば!




