326.初めての街攻め
いざ攻める気で街の周囲を観察すると、絶妙にいやらしい傾斜になっていた。
自分を初めとする重装備の者にはちょっときつい上り坂、下は雪と、攻めるには向かない地形と言える。
港のある街なのだから、寧ろ下り坂になるんじゃないの?と思うのだが、多分意図的に街壁を高く作って、そこに盛り土して坂を作ってると見える。
港は海抜数メートル程度の普通の低さなのに、その荷物を出す門は少し高い位置にあるの、な~んでだ?
知りません。攻め込みます。
あえて予想するなら、水が出た時の事を考えて、今の低い地域の土を使って街の主要部に盛り土をしたんじゃないかな?って事くらい。
まぁ、雪掘って土露出させて移動したのなら、相当な重労働だろうけども。だって最低でも自分が腰まで埋るくらいの深さの雪なんだから。
自分が地形に思いを巡らせている内に隊形が整ったようだ。
今回の主役はウチューク隊となる。
何しろ攻城とまではいかないが、それなりの街壁を要する敵地攻め。
平原に布陣しない所を見ると敵は篭城戦をする気だろう。
まあ海を使えば物資の搬送し放題だし当たり前と言えば当たり前の選択。
資金があれば今後傭兵などで戦力拡大も可能だし、海を封鎖したくても【帝国】の海戦エリートがこの街の【兵士】達なのだから、海を頼りに街防衛は普通の考えだ。
その外壁を越える手段は、ウチューク隊による街壁破壊。
一応、門の方が防御力が低く、戦力さえ集められれば他の隊でも破壊出来るそうだが、
それはあえて敵戦力をそこに集中させる事で殲滅しやすくすると言う、敵の利益とも噛み合ってしまう。
という事で今回は隊を三分割して使う。
陽動 パリツェ隊
元々【憲兵】中心のこの隊は軽量で足が早い。本来なら市街地戦を得意とするのだが、今回は門破壊に向ってもらい敵の注意を集めてもらう。勿論深入りはさせない。
主攻 ウチューク隊
壁撃破チーム。元々建築及び破壊が得意らしいが、特徴は鈍足な事だ。その代わり【重装兵】部隊を2隊保有していることから、自分はここに入り最前面で攻撃を受け止める。
支援 プリプラ隊
元々直接戦闘以外の兵も預かって貰ってる隊なので、後方支援に付いてもらう。【衛生兵】部隊や【弓兵】部隊も保有してるので、十分に機能するとは思う。
こちらの戦闘準備が整ったのを見越したように、敵の士気が膨れ上がる。ちなみに街の士気は街から立ち上がるオーラ(のようなエフェクト)で何となく分る。
同時にうちの中隊長達も<戦陣術>激励 を使用し、まずは安定の滑り出し。
八陣術 魚鱗陣
自分が属しているウチューク隊を一つの塊に変えて、進軍開始。
パリツェ隊は移動系の<戦陣術>を使っているのか坂道を物ともせず、どんどん走り上がっていく。
それぞれに街中から矢が飛んでくるが、やはり街壁の位置が高い分飛距離も出るのか、中々に厄介か。
とは言えここまでは予定通り、泣き言も言っていられないので、一歩一歩雪を踏みしめ街壁に近づいていく。
取り敢えずは盾を掲げて、歩き進めるだけ……と思っていた時、パリツェ隊の方から爆発音が聞こえてきた。
何事かと振り向くと、なにやら街中から樽が転がってきている?
「ありゃこの街名物の樽爆弾だな」とウチューク。
「何でそんな物騒な物が名物なんですか?」
「海戦と言えば樽爆弾だろ?デカイ魔物に襲われた時はあれが大活躍するんだぜ?当然海で使うものだから水にも強いし、何なら雪の上を転がす位なんともないだろう」
爆弾なのに水に強いとはどういう事だ?でも潜水艦とかを倒す機雷?とかも水中爆弾だし、ありっちゃありなのか?
今の所樽爆弾で狙われているのは、パリツェ隊のみ。先行してるからと言うのもあるのだろうが、どうやら門の隙間から転がしてるらしい。
確かに街壁の上から落としたらそのまま雪に埋って爆発して、街壁が壊れちゃうか。
パリツェ隊もそれに気がついたのか、少し迂回して門に近づこうと試みている。
分散したお陰で矢の的も散らせて生存率も高まってるようだし、いい方向に転んだなコレは!
足の遅いまま固まってる自分達にはかなり矢が集中しているが、こちらは防御力が高いので、今の所なんて事無い。
なんなら、そろそろ敵の攻撃も苛烈になりそうだし、赤と緑の薬液を取り出し、
治療術 範囲回復
周囲の【重装兵】を回復すれば、何の問題もない。
街壁にもうすぐと言う所で、今度は矢に混じって石が飛んできたが、これもまあ自分からすればどうと言う事はない。
近づけば近づくほど色んな物を投げ込んでくるが、一番困るのは腐った魚だ。
臭いな~と思ったら、毒の状態異常が出る者がいて、すぐさま黄色の薬液を取り出して<治療術>を使用する。
街攻略って地味だな~と思いつつもで、何とか壁に到着。
前衛を入れ替えた時に、最悪の攻撃が降ってきた。
一番シンプルにして雪国では外道としかいえない武器。水だ。
頭上から水をぶっかけられ、一気に多数の【歩兵】に凍傷が発生した。
すぐさま黄と赤の薬液を取り出し、
治療術 範囲回復
凍傷を治したものの、思わぬ反撃に一瞬気を飲まれた。
「おい!大将!こんな時の俺だろ!任せろ!」
ウチュークが叫ぶなり、鉄槌が赤熱する。
そのまま壁際に突っ込み水をかけられるが、鉄槌の熱で蒸発した。
その蒸発の煙に巻かれたまま、
ドゴン!!
と凶悪な音がし、蒸気が晴れると共にそこにぽっかりと大穴があいている。
一気に数名駆け寄りその穴を広げて、街中に突入していく。




