324.宰相と作戦会議
勢いのまま【帝都】南口から出ると、一歩目で腰まで埋る。
街道沿いで森が少ない所為か予想より雪が降り積もっているのだが、問題はこの装備埋るの?って事。
【兵士】達が数人がかりで大きな蕪の様に自分を引っこ抜いて、そのまま【帝都】内まで引き摺っていってくれる。
大変申し訳ない。折角のテンションが台無しだ。
一旦隊を解散して自分は宰相のいる帝城に向う。
帝城には警備の【兵士】がいて速やかに宰相の所に連れて行ってくれるのが、とても仕事の出来る風で素晴らしい。
「ソタローか、どうやら手勢をまとめるのには成功したようだな。それではこれからの作戦と行こう」
「その前に、自分の白装備を【古都】に取りに行きたいんですけど?」
「ふむ……【古都】は元皇帝派が多くいて、ソタローには少々危険かもしれないな。なんでまた白装備が必要なのだ?」
「いや、外に出た瞬間沈むからですけど?」
「……言ってなかったな。その装備の胸部に重精様の力の宿る石が嵌っているだろう?」
「ああ、この玉って石だったんですか?金属だと思いました」
「うむ、見た目はそう見えるかもしれないが、れっきとした宝石だ。その石には普段からソタローの余剰精神力が溜まるようになっている。左に回してみるといい」
言われるままに玉を左に回転させると何か体が軽い?
「うむ、分った様だな。逆に右に回すと重くなるから、埋らないように上手く調整するといい」
「へ~コレは助かる……何でこんな弱点みたいに体の真ん中に付いてるんですか?」
「それはそれを作った例の鍛冶師がそこにつけるのが最もバランスが取れるとか、そういった理由だの筈だ」
「ちなみにコレの連続稼働時間は?」
「かなり節約仕様になっているようだが、それでも足りない場合はその石に直接精神力を流し込めばいい」
つまり急速充電も可能という事か。精神力ってのは便利だな~。
「じゃあ、行ってきます!」
「何処にだね?まずはしっかり作戦を立ててから足場固めをした方がいいと思うぞ?今はこの【帝都】しか我々の支配地域はないと思うといい、ここから支配地域や協力地域を増やす事で、従う兵力を増やし、元皇帝との決戦準備をする。お互い時間はないが同時に急いては事を仕損じる。こちらが先制しているのだから、この状況を最大限利用しようじゃないか」
「なるほど、そうなるとまずは何処を支配するのが合理的なんでしょうか?」
「うむ、分ってくれたようだな。まずは西海岸地域だ。理由は分るかね?」
「……船が必要なんですか?」
「違うな」
「…………ここから近いから?」
「それは一つの理由ではあるし、何故海岸と近い地域に【帝都】があると思う?」
「海外からの輸入品を運びやすくする為ですね?」
「そうだ。我が国は食料を初めとして輸入に頼る品目がいくつかある。それらを元皇帝派に流さぬようにするだけで、十分な有利を作ることができる」
「流さぬようにって【輸送】任務を妨害できるかもしれませんけど、商人はどうしようもないんじゃ?」
「そうれはそうだが、我々が海岸地域を支配地域にした場合、輸入品を扱う商人は必然こちらと誼を通じなければ、その分商売が不利になる。全て止める事は出来ずとも、十分な締め付けにはなる」
「なるほど!じゃあ海岸地域の街を片っ端から攻め潰す!」
「潰すな。多分隊を率いていけば、それぞれに反応があることだろう。従うなら良し、抗うなら戦え。どうしても中立を保ちたいというなら、相手次第だな。ソタローが上手く丸め込むも良し、分からなければこちらの手に渡せばいい。武装解除せず旗色も明らかにしないような輩は……」
「勿論潰す?」
「その通りだ。そんなに都合のいいように世の中は回っていない。とは言え多分従う者が多いと思うがな」
「何ででしょう?元皇帝派だっているでしょうし、そうでなくとも中立の処理に苦悩しそうなんですけど?」
「そりゃ、白竜様という後ろ盾はそれだけこの国ではとても大きな物だからだよ。当然ながら早々人目に触れさせるような真似は出来ぬが、しかし白竜様復活は事実だし、それを成したのがソタローであるという事も事実だ。政治や体制云々より、そっちの方が余程ヒトを惹き付け従わせるだろう」
「そういうものですか?確かにいきなり手勢で300人ついて来てくれるのには驚きましたけど……。まあ何にしてもまずは海岸地域を落とさなきゃいけないんですよね。分りました!行ってきます」
「うむ、健闘を祈る」
そうして、帝城から出たところで、声をかけられた。
「おっ!ソタロー!ここだろうと思ったら案の定だったな!何か大変なことになっちまったな!」
「アンデルセンさん!何でこんな所に?」
「ああ、一応ソタローに声をかけておこうと思ってよ。何か将軍になっちまったらしいじゃないか?」
「相変わらず耳が早いって言うかなんて言うか、そうなんです。何か内乱みたいでこれから元皇帝派と戦う為にまずは足場固めだって言われまして」
「そうなのか~、何か国内あちこちで【帝国】軍の動きが活発らしいな?まあ俺としては昨日まで仲間だった奴らが戦うの見たくないし、一旦【海国】に引き篭もろうかと思ってよ。まだ海底の攻略も始めたばかりだしさ」
「そうだったんですか?まあ自分も抵抗がないと言えば嘘になりますけど、やるしかないのかなって感じですね」
「その割にはちょっと気合が入ってそうだが?アレか何かやりたいことでもあるのか?」
「いや、でも何か自分が戦う相手が欲しいって言ったら白竜が受け入れてくれたんで、もしかしたら強い相手がいるのかもしれません」
「はーん、なるほどな~。じゃあ『嵐の岬』の連中にも声掛けておくぜ。お祭り騒ぎが好きな奴も多いし、ソタローとも知らない仲じゃないんだから、手伝うって言う奴もいるかもしれないし」
「すみません、わざわざ」
「いや、いいさ!思う存分戦えよ。じゃあまたな!」
それだけ言ってアンデルセンさんはポータルの方へ向かって歩き去ってしまった。




