321.【帝都】【兵士】を殴る
またもやグネグネと通路を歩き、辿り着いたのはやたらと立派な体育館?
地面は土が引いてあるが、妙にがっちり踏み固めてある。
自分の体重でも全く沈まないし、コレなら悪くない。床が抜けるんじゃないかと思ってそっと歩いてたんじゃ闘いにならないしな。
導かれるままに、白い枠線が引かれたリング奥に立ち、そこで対戦者を待つ。
そこに何やら大慌てで走ってきた【兵士】は標準的な胴当て冑グローブにブーツと槍が一本と貧相な装備だが、立ち姿は悪くない。
「あの!挑戦したいんですが!」
「身分を問わずと通達してるので、構いませんけど。何でそんなに大慌てで?」
「はい!自分は家伝の槍法を学んでいるんですけど、出世するきっかけが無かったので、コレを機に将軍の右腕になれたらと思いまして!」
「軍幹部とはそう簡単なものではない。腕っ節だけでなれるものではないのだから……」
自分を案内してくれた初老の男性が説教しかけたが、ここはこの若い【兵士】の意思を汲みたい。
何しろ今の自分は右腕どころか、一兵も率いてないのだから。
「まあそう言わず。いきなり右腕とはいかずとも、実力があるなら一番槍を任せられるかもしれませんし、興味があります。やりましょう」
言うなり、初老の男性は引き、若い【兵士】がリング中央に向うので、自分も対面するように立つ。
そこからは特に合図も無く、若い【兵士】の術の乗った鋭い突きが、間合いの外から伸びてきて自分の顔面を捉える。
しかし素直すぎる軌道に、首をかしげて最小限の動きで回避しつつ、一歩踏み込みながら剣を抜く。
そのまま振り切ると、若い【兵士】が槍を返して石突を使おうとした所に剣がぶつかり、そのまま跳ね返す。
若い【兵士】の首元に剣が触れた所で終了と相成った。
「一番槍は無理だけど、色々任せると思います。頑張ってください」
「はい!よろしくお願いします!」
と素直に引き下がる若い【兵士】やはりこの国は殴りあった方が話が早い。
しかし、剣を抜いてみて気がついたけど、この剣は以前支給された皇帝の剣のレプリカによく似てる。
違う所といえば、切っ先までちゃんとついている事。前は先端が扁平で突き刺せなかったからな~。
結局性能の分らないまま使ってる武器防具だけど、クラーヴンさんが作ってるなら間違いなくオーバースペックだし、まあ大丈夫だろう。
一個気がついたのはちゃんと百足ベルトが付いてることだ。つまり社交界装備は解体されたって事になる?
まぁ、別にそこはクラーヴンさんにお任せでいいか。
そんな事を考えている内に、ぞろぞろと【兵士】と言うにはそれなりの歴戦の風貌のヒト達が現れた。
まあ【帝国】軍の本部だしきっとそれなりの実力者達がひしめいているんだろうと思ったが、寧ろそうじゃなきゃ困る。
「じゃあ次は私でいいでしょうか?」
言うなり、リング中央に出てきたのは<片金属>装備のサーベル使いだ。
軽量スピードタイプ、しかもカヴァリーさんと同じサーベル使いと来ればこちらも警戒心を高めないわけには行かない。
最初から盾と剣を構えつつリング中央に向うと、
素早い踏み込みで地面を擦り上げる様に斬り上げてきたので、雑にローキックで剣といわず相手の体といわず、当る所を蹴り飛ばす。
ごろごろと三回転して、立ち上がった相手に追撃の
殴盾術 獅子打
盾で殴りかかったが、それはバックステップで避けられ、更に踏み込みながら今度は上段から斬りかかって来たのを肩当てで<防御>する。
軽いなと思いつつ盾を手放し、
武技 鐘突
武技 鉄頭
間合いの近い相手は頭突きで牽制と思いきや、それで完全に伸びてしまったので終了。
サーベル使いが運び出される内に<半金属>の両手剣使いがリングに上がってきたので、コレも相手する。
今度はスピードが自分に近いぶんパワー勝負だろうと、一旦剣と盾をしまい。
鋼鎧術 天衣迅鎧
向こうも向こうで、両手剣を地面に突き刺すと、何やらエフェクトが発生したので何かバフを掛けたのだろう。
力強い突進から両手で振るわれる分厚い剣を
殴盾術 獅子打
盾で迎撃すると、左腕が痺れて動かない?
冑の下でニヤリと笑う相手を見るに、盾で防御させる事が目的だったという訳か……。
やっと楽しくなってきたと、盾をその場に捨てて右手の剣もだらりと垂らして、相手を呼び込む。
思い切り遠心力をかけて、両手剣を振り回してきた所を
壊剣術 天荒
あえて正面から打ち合う。
相手は自分の剣の重量を見誤ったのだろう。思い切り跳ね飛ばされ体勢を崩した所に前蹴りで下腹を蹴りこむ。
そのまま剣を振り込むと、間合いが近すぎたので剣の柄で相手の顔面の真ん中を打つ。
冑の上からでも相当の衝撃だったらしく、そのまま頭をクラつかせる相手を唐竹割りに思い切りぶん殴ると、そのまま昏倒した。
左手の感覚が戻ったので、また盾を拾い構え直す。
その後も次から次へと色んな得物を持った【帝都】【兵士】達の挑戦を受けるものの、総評はまぁまぁという所。
もっとこう、自分を熱くさせる相手はいないものだろうか?




