320.【帝都】【兵士】を挑発する
【帝都】東部に向うと確かに長城の様な黒い壁がずっと続いている。
何でまたこんな高くて厳重な壁を作ったのか?
偶々そこらを【巡回】していた【兵士】に声を掛けてみる。
「すみません、軍の中枢ってここであってますか?」
「はい!こちらがイグラントであります!ご案内しますか?」
「それじゃ、お願いします」
妙に堅苦しい【兵士】に連れられ、壁沿いを歩きイグラント入り口へと向う。
「ところで、何でこの施設だけこんな厳重かつ、高く聳え立ってるの?」
「はい!歴史によりますと、帝国統一戦争時代に戦争を始めたのはここより東の現在の【旧都】勢力だったそうで、そこに対応すべく壁を厚くし、戦力を集中させた事が始まりのようです」
なるほどね~。一応の理由や設定もありきの、軍事施設なのか~。
そんな事を思いつつ、入り口に辿り着く。
「こちらであります!自分はソタロー将軍について行きますので、いつでもご命令ください!」
【巡回】の【兵士】はどうやら宰相派だったらしい。
とは言え、一人一人集めていたのでは多分時間が足りないだろう。あの【兵士】の事は覚えておくとして、まずはここの【兵士】を手勢にしなくては!
やたらといかつい外観の建物に、きっと厳重なセキュリティが布かれてるんだろうな~と思いつつ中に入ると、
「ようこそソタロー将軍!【帝都】軍の主だった者は集めてありますので、こちらへどうぞ!」
あっさりと、受け入れてもらい、尚且つどこかへ連れて行かれる。
割と扁平な建物だと思ったのだが、意外と奥行きがあり、階段を登ったり降りたり、道を北へ南へとグネグネと折り返しながら目的地へと向う。
まるで迷路さながらの施設だが、迷子になったらどうしよう?さすがに壁壊したら怒られるよな?
通路つき当たりの大きな両開きの扉も真っ黒で、重厚さを感じさせる。
近づいて扉の素材を見るとどうやら分厚い金属のようで、凶悪な囚人でも封じ込めているのかと思う重々しさ。
しかしここに踏み込まなければ、先は開けない。
重そうな扉だと思って思い切り力をかけて押すと、
ボコン!
嫌な音がして、そのまま扉が向こう側に倒れてしまった。
「申し訳ございません将軍!この扉は外開きとなっております!」
遅くないですか?
扉の向こうで待ち構えていたらしき制服軍人達が一様にぽかんと口を開けて、椅子に座っている。
何人かは微妙に腰を浮かしているが、何とも気まずい。
何か言わないと~~~。
「指先で触れただけで壊れるなんて、よっぽどガタがきてたんですね?【帝国】の経済状況がここまで酷いことになっているとは……」
「いえ、その扉は前年メンテナンスをしたばかりで、しかも開けるだけで複数人必要なものですが?」
うん、滑っちゃったな~。どうするか~。
「よく見ると蝶番の部分がひしゃげてる。扉そのものは分厚く重くても、それを組む部品が弱ければ、そこから壊れるって事だろう。それで将軍は我々に何の御用か?」
一人の気が鋭々とした男性が近寄ってきて扉を検分しながら声をかけてきた。
「単刀直入に言おう。元皇帝がこれから戦力を集めて、攻めてくることになるだろう。その時あなた方はどちらにつく?」
「どちらにもつかない。我々の力は民の為に振るわれる物だ。魔物や外国勢力ならいざ知らず、仲間同士で戦うのは断る」
如何にも怖いもの知らず風のさっきの男性が代表して答え、後ろの席についている者は同意するように首を縦に振るのみ。
「なる程【兵士】としては正しい選択ですね。じゃあ、その魔物や諸外国と戦う命令は誰が出すんですか?宰相と元皇帝が戦っている間は、ここで何もしないで過ごすとそういう事ですか?」
「ぐっ……しかし【兵士】が一個人の感情で動いては、統制が取れないだろう?上が争うのが悪い。我らは内乱でどちらの勢力にも与しない!それが総意だ!」
「そうですか。総意ですか?自分は雪深いこの国を方々歩き回りましたが、どの土地も独立不羈を国民性として、あくまで自己責任で己の足で立っているのに、軍のあなた方は他人の所為ですか?そりゃ弱い筈だ」
「どういう事か説明してもらおう!」
「説明は不要でしょう。己の意志で何も決められない。綺麗事を言うか飯を食うかしか出来ない無能だから、国が傾きかけても上の所為、上が国をどうするか真剣に考えて意見が割れても上の所為、白竜様復活と言う悲願があっても、それに向かって動き出さない。挙句今度は人数頼みで何もしないことを総意だと?そうですか、何もしない【兵士】に対して自分が何もしないと思いましたか?」
「ど、どうする気だ?」
「宰相は自分に言いました。殴るなり何なり好きにしろと。そりゃそうです元皇帝と宰相は命を張って国の行く末を決める喧嘩をするんですから、日和見で綺麗事を言って何もしない者は、殴られて当然です。と、言うわけで全員ボコボコにします」
「待ちたまえ!」
急に席の奥の方から初老の白髪をぴっちりとオールバックにした男性が声を掛けてくる。
「何か?」
「将軍は若いですな。そんな挑発をしなくともこう言えばいい。『闘え、それで従わぬのなら去れ』結局我ら【帝国】【兵士】は殴りあわねば通じ合えぬ生き物ですよ。練武場へと移動しましょう。ソタロー将軍と闘いたい者は完全兵装で練武場集合だ。この際だし、身分を問わずという事でよろしいか?」
「分りました。それで納得するなら思う存分やりあいましょう」




