319.足場固め
国務尚書に渡された装備を一通り装着すると、何ともしっくりした感覚。
完全かつ確信的にクラーヴンさんが作ったものだと分かる。
前にクラーヴンさんから説明を聞いた霊亀の甲羅の粉を混ぜた金属がふんだんに使われている。
しかし相変わらず黒い部分の厚みを出すとクラーブンさんが扱いきれないのか、その内側を普通の金属と白い何かの魔物素材で複層になっている。
黒地の隙間から反射する金属と真っ白い魔物素材が、あらゆる攻撃に対して耐性があると見せつけてくるようだ。
指先から足先まで隙の無いのに、複層ゆえか関節部は軽く動き、コレまでの最高傑作と言っても過言ではない!と思う。
自分の全身鎧を作りすぎた所為でクラーヴンさんの全身鎧製作技術も高まってしまったと言う事なのだろうか?
サーコートは最早鎧の一部と化しているが、何とも重厚感と言うか重々しい将軍感をかもし出す黒い布。表現が見つからない。
盾は楕円寄りの複層で、やっぱり煌びやかかつ重厚で、何か実用でコイツで殴り合ってもいいのかな?って言うくらい高級感が漂っている。
腰にはちゃんと黒い治療鞄も備えられ、鎧に合わせた黒い鞄の中はかなり整理しやすく作られている。
「うむ、よく似合うな。さて、まずは状況確認といこうか。元皇帝は【帝都】から追ったものの、ほぼ確実に自勢力を率いて反抗作戦に出るだろう。現状周囲は今回の異変に気がついていないか、気がついていてもついていけない状態で、中立を守る事が予測される。そこで、ソタローの仕事は……」
「元皇帝を追ってSATUGAIする?」
「いや、将軍職に就けたソタローがそんな物騒な事をしたら、政情不安定が続いてしまうだろう?あくまで我々の目的はこの国を改革だ。つまり白竜様を皇帝に仰ぐ我々に正義があると、喧伝しつつこの国の主導権を握る事だ。ゆくゆくは元皇帝と決着をつけるが、まずは足場固めを頼みたい」
「つまり日和見勢力を攻めて、こちらにつくか滅ぶか選ばせればいいと?」
「なんか、随分と過激な事を言うようになったな。だが概ねその通りだ。絡め手に付いてはこちらで用意している。ソタローは武力でもってまず周辺地域の平定を頼む」
やっぱり、国を割る内乱になるのかと、聞かされていた事ながらも血の温度が下がるのを感じる。
取り敢えずの命令は周辺地域の平定だが、戦争するなら大事な事があると思う。
「あの……自分の戦力は如何程使わせてもらえるんですかね?」
「やはり、それを聞いてきたか……。現状ソタロー直属の戦力は【古都】所属、私の手勢は【帝都】及び【旧都】にいるが、数はわずかばかり……一応白竜様復活に沸き立ってはいるが、まだ内乱という状況は理解できていない者ばかり……」
「え?つまり一人で、何とかしろって事ですか?!いくらなんでも将軍になったからってそれは……」
「いやいや、待て!落ち着くんだソタロー!いいか?ヒトは地位と言うものについていってしまう傾向がある。しかもソタローはこの国の民全ての悲願である白竜様復活を成し遂げているのだ。ついて行くには十分な実績を積んでると言える。あとは核となる集団さえあれば、きっとどんどん帰参する者は増えるはずだ」
「はずだ!じゃないですよ!まずその核となる集団って何ですか!」
「ソタロー、落ち着くのだ。何のために今迄【帝国】内の有力者達と、誼を通じてきたのだ?時に闘技場で戦い、時に中隊級ボスを倒してきたな?何だかんだソタローはこの国の軍事有力者達と顔見知りなのだ。そのつながりを今使わないでどうする?」
「……自分に何の力もなければ、いくらなんでも反乱に力を貸してもらえるとは思わないんですけど?」
「うむ、それはそうだ。つまり一番最初の仕事はソタローの手勢を集めることになるな。当たり前だが【帝都】にも軍はいる。そして一定数の元皇帝派はそのまま元皇帝に付いていった。残っているのは日和見か私の派閥かだ。ここを説得してソタローの手勢にするといい」
「するといいって事は、自分が説得しなくちゃいけないって事ですか……」
「それはそうだな。私の意向である程度の人数をつけることは出来るが、心底信服してついてきてくれる者でなければ、この後の戦いを戦い抜けるものではなかろう。何しろ常に背中から刺される事に怯えながら戦わねばならなくなるのだから」
「それにしてもですね。まさか兵力を集める所から始めさせられるとは思ってなかったですよ」
「私も思ってなかった。元皇帝を排斥した時点でもっと大事になって、国全体が殺気立つのかと思いきや、何かちょっと派手な喧嘩くらいに受け止めてるらしくてな……」
「【帝国】のヒトって戦うの大好きですもんね。皆勝ち馬に乗る気なのか、それとも不利でも面白そうな方につく気なのか?」
「そう遠くない内にこの内乱がもっと深刻なものだと気がつくはずだ。お祭り騒ぎの内にこちらの規模を膨らませよう。費用及び物資に関してはこちらの方が有利だし、権威としても白竜様を担ぐ我々が非難される事はない。あとはソタローの力を見せて、こちらの陣営になびかせればいい」
「理解しました。近隣の街の勢力を吸収する最初の段階として、まずはこの【帝都】の【兵士】を味方につけるという事ですね。それも【帝国】式で」
「そうだ。白竜様はヒトが強くなることを望んでいる。将軍の実力を示してくるといい」
「分りました。多分【兵士】は【兵舎】ですよね?行ってきます」
「一応説明しておくが、この【帝都】には軍の中枢がある。東側の大きな黒い建物だからすぐに分るだろう。あとは目に付くものすべて殴りつけるなり、何なり好きにすればいい」
「いや、そんな乱暴者みたいな事はしませんけど、黒い建物ですね?行ってきます」
元皇帝陛下が使っていたであろう宮殿を後にしようと、一歩踏み出したところで、
「そうだ。一つ言い忘れていたが、私は先祖にちなんで宰相と言う役職を名乗ることにしたから、これからはそちらで呼んでくれ。じゃあ健闘を祈る」
すっごく軽く、肩書きが変わったことを教えられたが、本当にこの国のこの肩書きに対する軽さはよくわかんない。




