315.決戦邪神の尖兵クエスト
焦りが限界に達した時、足場の氷の花を一輪踏みつけ、弾ける氷片に自分から発する白い光が反射して煌く。
「キラ……キラ……?」
音にならない声を無意識に発して、鮮明に自分の師匠達の姿を幻視した。
壊剣術 天蓋
鋼鎧術 護土鎧
習うだけ習って中々使う機会のなかった術を思い出し、発動。
スライムが空間から排除され、黒い竜と自分だけフィールドが形成される。
邪神の尖兵の知能がどうなっているのかは相変わらず不明だが、小細工ができない事は理解しているのだろう。
持ち上げられた黒い竜の前足には、あらゆる種類の武器が生え、それでそのまま押し潰してきた。
しかし、刃物で斬りつけるわけでもなければ、突くわけでもない。
なんなら形状が武器なだけで、鋭いかどうかすら怪しい。
壊剣術 天崩
剣を巨大化して斬れば、やはりあっさりと切り落とせてしまう程度の強度だった。
そのまま前足の下を潜り、踏み込んで頭上に黒い竜の頭部を見る。
すると、黒い竜の腹部が割れ、丸い何かが転がり落ちてきたので、反射で剣で斬り割ると、
さっきのヒト型がぐちゃぐちゃに何体も絡まって、詰まっていたが、勝手に空間の外に排除された。
師匠達の術、何気に色々と凄いよな……。
壊剣術 天崩
割れた竜の腹に剣を突き込み、切り裂いてみるが、やはり黒い竜の核には当らない。
それでも、ひたすら斬りまくっているとサイズが縮んでいく黒い竜、どうやらさっきの回復は使えない?
もしくは、懐に入ってしまえば、こっちの攻撃速度の方が黒い竜の回復速度より早いのか?
どんどん小さくなっていく竜だが、一向に核が見つからない……。
『ふむ、そいつの倒し方は分ったようだな。それでは100匹程回すので、全部倒すのだヒトの子よ』
「えっと……?」
『我が力で浄化できる量まで瘴気を減らすのだ』
そうこうしている内に、結界内に次の黒い竜が入ってきた。
っていうか、白竜って自分の術にも干渉できるの?
『それはここが我が夢とうつし世の狭間だから出来る事だ』
しまいには聞いてないのに、応えてくるし……。
その後はひたすら作業、MPが切れればちゃんと休憩時間もくれる親切仕様の苦行の果て。
何体目を倒してるかも忘れ、黒い竜を切り裂いた所で、暗い空間も一緒に割れた。
相変わらず粘度の高い液体が真っ二つに分かれて、その場に撒き散らされ、そこから蒸発し、濃い瘴気の匂いが立ち込める。
目の前には巨大な白い竜が体を丸めるように眠り、周囲には苔生す岩が壁となっている空間。
岩の隙間から漏れ出る水が周囲に溜まり、異様に透き通った泉を作っているが、覗いてもその深さは判然としない。
自分が立っているのは、ちょっと小高くなった岩の上、まるで白竜と対面する為だけにそこにある様な岩だが、ここから一体どうしたものか?
「あの、白竜……様?」
「うぅむ、あと5分……Zzz」
とりあえず、自分の立っている岩から壁際に行く道があったので、そちらに進むと壁の窪みに古い焚き火跡がある。
もしかしたら、初代皇帝と宰相もここで白竜が起きるのを待ったのかもしれないと、火を起こし何を食べるか考える。
何しろ、サポート付きとは言え強敵と戦い続けて今日はもう限界だ。
ご飯食べて寝よう。セーフゾーンぽいし、多分ログアウトできるだろう。
手持ちの食材で食べれそうなものといえば……。
【帝国】の主食である芋があったな。
ジャガイモと玉ねぎと長ネギをこれでもかって言う程切って、水で炊く。
青い瓶で味付けして、終了。
正直な所、自分の鞄に入る量の食材と保存期間では今日の所はこれで一杯一杯だ。
もっと大量に買ってもいいのだが、鞄の中でも食材の消費期間は過ぎていく。
町や村に寄れるような【輸送】クエストならいいが、こういう途中で補給不可能なダンジョンは、ちょっと自分向きではないのかもしれない。
いっそ鞄に食材冷凍機能でも付けられたらな~。
そんな事を考えながら、芋葱鍋をつつこうとしたら、
「ふむ、ヒトの子の食べ物は久しぶりだな」
そう言って、白髪の古風な【帝国】軍服の男性が向かいに座り込む。
これは完全に食べる体勢だなと思い、食器をもう一つ出してご飯を注いで渡す。
「寝起きに優しい味だな。ヒトの子は少しいい物を食べるようになったらしい」
「舌にあったなら良かったです」
言いつつ、白竜が寝ていた場所を振り返ると、案の定何もいない。
つまり目の前にいる白髪の男性が白竜なのだろう。
まあ屋上の時に一回見てるから間違いなかろうけど、何の前触れも無しにヒト型になってご飯食べるって、唐突過ぎないか?
……【帝国】文化はこの竜の影響だな。唐突に昇進されたり、仕事任されたりとかさ。
「色々聞きたい事があるだろうが、食事は温かい内に食べるのがヒトの子の流儀だったろう。まあ座って食すといい」
何か平然と一緒に食べたらいいと促されたので、まずは食事にする。




