314.瘴気竜
ジワジワと左足を飲み込んでいく黒い粘液を斬りつけると、瘴気を発してどんどん消滅している筈なのだが、全く量が減っていかない。
地面を踏んでいる右足に力を込めて、何とか左足を引き抜こうとしているのだが、全くビクともしない。まるでコンクリートか何かで固められたかのようだ。
いや、徐々に引きづり込まれているという事は、コンクリートのような硬いものではないのか?
違う違う違う!そんな事を考えている場合じゃない。
そこにさっきのヒト型が今度は三体現れて、攻撃を仕掛けてくる。
しかも今度はさっきの二本線のような弱点はない。何しろ水溜りと直接繋がっているのだから……。
まともに動けない状態で、伸びてくる棘を盾で捌き、腹部が開いた所に剣を突き込む。
一発攻撃する度に、水溜りの中に引き込まれ既に左足が膝まで引き込まれ、右足も立っていられずに膝をついている。
ヒト型の剣が変形した所でまた鳥か?と思ったら今度はワニの様な大きな口とギザギザの牙が自分の左腕を捕える。
更に反対側も同様に捕らわれ、そのまま全身を水溜りの中に引き込まれた。
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真っ暗な空間、いつだか見た光景にそっくりだ。
これは死んだかな?と思ったものの、死に戻り間での時間カウントが出ていない。
宙に浮いているようなちょっと不安な感覚、上も下もない。
体は自由に動くが、向う先もない。
『ヒトの子よ。まだ戦うか?』
途方にくれていた所に声が聞こえる。それは夕焼けの屋上で聞いた声だ。
「戦えるなら」
自分では確かに喋った筈なのだが、声がどこかに溶けて消えていってしまう。
しかし、自分から白い光が漏れ出す。
白い氷の華が幾つも咲く足場が作られ、そこに立つと暗い闇が支配する空間に大きな気配を感じた。
徐々に近づいてくるそれは、飛ぶとも浮くとも泳ぐとも言えぬ、気持ち悪い軌道で自分の周囲を巡って、氷の足場に降り立つ。
黒いドラゴンが、自分をじっと見下ろしてくるが、それは赤竜の化身の時のような生命を感じさせるものではない。
多分また邪神の尖兵が、形だけを真似た何かなのだろう。
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 多富鎧
「腹直筋!錐体筋!外腹斜筋!内腹斜筋!腹横筋!腰方形筋!尾骨筋!」
更にそこに全身が凍りつくような寒風が吹きすさび、空間を満たし、自分の鎧が呼応するように白い光が増す。
黒い竜が前足を振り上げ、そのまま踏み潰してきた。
唐突にはじまる戦闘に、
壊剣術 天崩
強大化した剣で迎え撃ち、斬り払う。
バッサリと真っ二つに割れる黒い竜の前足の半分が瘴気に変わって消えていき、
断面から大きなヒトの手が生えてきて巨体を支える。
どうやら、この白く発光した状態は、さっきまでとは攻撃力が大違いのようだ。
壊剣術 天崩
今度は巨大化した剣で横薙ぎに斬り払う。
両前足と生えたばっかりの手を纏めて斬り消せば、あっという間に体勢を崩す黒い竜だが、
構わず頭部が長い首元まで裂けて割れる。
その裂け目には、見慣れた大きな目が既に赤い光の収束を終えていた。
打ち出される極太の赤い光線を盾で受け止めるも、氷の足場をどんどんと滑り、押し出されていく。
赤い光線の攻撃が終わった時には、随分と距離を作られてしまった。
再び攻撃する為に近づいていくと、その間に黒い竜は再生していく。
今までだとどんどんサイズが縮んでいったものだが、黒い竜は羽を広げてそこから何かを吸収している。
元の距離まで戻った時には、完全に再生した黒い竜を前に次の狙いどころを考える。
というか、結局この手の敵は核を潰す以外方法はないだろう。
問題は削った所で、距離を取られて回復されてしまう事、せめて核の場所が分れば一気にそこに突っ込むという方法も取れるが……。
黒い竜の前足の爪から黒い液体が溢れ始め、表面張力でギリギリ球体を保っている。
妙な緊張感があり、盾を構えて待っていると、プツンと爪から切り離され、フルフルと震えながら近づいてくるそれは、最初に戦った邪神の尖兵そのもの。
つまり大きな黒いスライム。
壊剣術 天崩
すぐさま巨大化した剣で斬り付け、真っ二つにして、そこから更にバラバラになるまで切り裂いていく。
どんどん収縮していくスライムだが、その後ろでは更に次のスライムが生産されている。
両足にある爪4本それぞれから、風船のように膨らんでいくそれを見るだけで、気が焦って仕方ない。
折角、竜の巨体なのにそれを全く生かさずに、部下生産してはめて来るとか!
邪神の尖兵は本当に何考えてるか分んない!
何か一対一で、吹っ飛ばされずに決戦する方法って、何かなかったっけ?




