313.瘴気水溜り
空から降ってくる粘液が何なのか臭いですぐに分る。
攻撃意思がハッキリするまでに、まずは自分の装備確認、剣を軽く振った感触は良好。
盾の重量はまあまあといった所だが、殴りつけるには申し分ない。
白くなった金属グリープは、滑ることなくがっちりと地面を噛んで、十分に力が入る。
アーマーも隙間のない機密性の高そうな見た目の割りに、稼動域がかなり広く取られていて、フル金属装備とは思えないほど楽に動く。
そして最後、フルフェイスのヘルムだが、何がどうなっているのかこれも可視範囲がかなり広い?
多分この装備も真っ白になっているのだろうが、現状自分の姿を見る方法がないので何ともいえない。
しかし他の部位の原型はあまり変わっていないので、多分問題なかろう。
暗闇の屋上に粘液の水溜りが作られ、ボコボコと沸き立ち始める。
そこからまるで亡者の腕のような弱々しいヒトの腕が無数に生えて、伸びてきた。
殴盾術 獅子打
盾で近寄る手を振り払えば、盾が触れた傍から消滅していく無数の手。
壊剣術 天荒
更に隙を埋めるように剣を振れば、切れた傍から匂いだけを残して煙へと換わっていく。
それでも地面スレスレを通り抜けて自分の足に触れた手があったものの、結局触れただけで消えてしまう?
装備が対邪神兵器になったとは自覚してたけど、攻撃がそもそも効かないじゃん?
そこで、ワラワラと生えていた手が全て引っ込み、粘液の水溜りが再びボコボコと再び沸きはじめる。
中から重力逆らうように生えてくるのは、剣と盾を持ったヒト。
全身黒く、継ぎ目もない影のようなヒト型は、左頭からだけ牛の様な角を一本はやし、右目が合った場所だけ大きく丸く貫通している。
まるで何もない虚空が自分を見つめているようだ。
剣は長めのロングソード、盾は小さめなラウンドシールド、足は体重を支えられるとは思えないほど細い。
『キキキキキキキキキキキキキ……』
どうやって声を出しているのか、妙に神経に障る声で笑うヒト型が、池の上を滑るように近づいてきた。
不器用な動きで剣を振り上げ、斬りかかってくると思った所で盾を構えるが、
しかし、邪神の尖兵にそんな人体構造的な動きはなかった。
剣を構えた腕の肘先から棘の様なモノが伸びてきて、脇腹を掠める。
とっさに避けたものの鎧を掠めた棘が消滅しないと言う事は、さっきの無数の手よりはよっぽど手強い?
振り上げた盾でぶん殴ると、形状が崩れるものの、消滅量は少ない。
身長は自分とそう変わらないが、邪神の尖兵なりに強度の高い何かを作り出したのだろう。
追撃に剣でぶん殴ると盾部で受け止められるが、こっちは腕や体がしなるものの、盾自体は全く変わらない。
『キキ!』
ヒト型の盾の縁から放射状に棘が伸びてきた。
すかさず自分も盾で受け止めたが、何本かは足にぶつかり、つんのめってその場に膝をつく。
形状は不安定、攻撃方法もおよそヒトとは違うが、パワーも強度も高い。
一旦距離を取って、盾と剣を仕舞う。
鋼鎧術 天衣迅鎧
鋼鎧術 多富鎧
「腹直筋!錐体筋!外腹斜筋!内腹斜筋!腹横筋!腰方形筋!尾骨筋!」
腰周りが締まって、全身が熱を帯びてきた。
再び剣と盾を構えなおすと、ヒト型が滑るように近づいてくる。
どうやら関節と言うモノがないのか、足を上げるような動きがそもそもない。
真っ直ぐこちらに向ってきたヒト型の腹が開くとそこには大きな目がこちらを覗いている?
その目が赤くエネルギーを収束した所に、一歩踏み込んで剣を突き込んだ。
明らかに何か射出しようと言う敵に、先手をとらせてやる必要はない。何なら弱点かもしれないし。
更に楯でフック気味に殴り飛ばし、細い足を蹴り払う。
ヒト型が持っている剣から鳥のような頭が生えて、嘴でこちらの頭を狙って突いてきたので、
武技 鐘突
寧ろヘルムで迎え撃って、弾き飛ばす。
普通なら体勢を崩すような攻撃なのだが、グニャッてばかりで、どれだけ変形しても崩れ落ちるという事がないヒト型。
ふとヒト型の足元を見やると、粘液の水溜りからずっと二本線が延びている?
再びヒト型が盾から放射状に棘を伸ばしてきたのを回避しつつ、ヒト型の後ろへと強引に回り込む。
二本線は、粘液の延長のようだ。
コイツをぶった切ればと思った瞬間、赤い収束光が眼の端に移りそちらを振り向くと、
ヒト型の背中にも大きな目があり、それを目と認識すると同時に、赤い光線が放たれた。
殆ど反射で盾を持ち上げ赤い光線を受け止めるが、その射出力は不完全な体勢で受け止められるものではなく、吹っ飛ばされた。
すぐに起き上がり、まずは二本線を剣でぶった切ると、ヒト型が蒸発して消えていく。
またボコボコ沸き立つ音が聞こえたので、粘液の水溜りを振り返ると……。
自分の左足が粘液に浸かり、引きづり込まれている?
下は屋根が有り、そこに足をつけているはずなのに、まるで異次元に吸い込まれるように、既に足首まで吸い込まれてしまった。




