311.試練と思いきやお話
ログインして先に進むと、スケルトンが現れた。
ここに来てただの骨格標本なわけもなく、宙に浮き両手を腰の下に低く広げる意味ありげなポーズの骨格標本だ。
まるで周囲の青火をその身に宿すように、青い燐光をうっすらと散らせながら浮くその姿は、ただのホラーじゃない。
宗教的な深い意味があるのではないかと疑わせるものだが、自分は宗教に興味ないので剣を抜く。
骨格標本の心臓の辺から黒く脈動するエフェクトが漏れたかと思うと、全身に痛みが走り、
思わず剣を取り落として、その場に右膝をついて、しまう。
エフェクトが走ったという事は、何かの術なのだろうが、見当もつかない。ただ全身に痛みが走るだけの術って!嫌がらせか!
剣を拾い、杖にして立ち上がると再び同じエフェクトを発し、そして自分も全く同じように膝をついてしまった。
何だこりゃ……。剣を抜いた瞬間に発動した変な術が、剣を持って立ち上がる度に再発動して、動きを止めてくる。
剣が駄目なのか?
物は試しと膝をついたまま剣を仕舞って、立ち上がると特にも何もしてこない。
そのまま近づいていくと、低く広げていた手をそのまま肩の横まで広げ、また黒いエフェクトを発するが、今度はそれが骨格標本の中に吸い込まれる。
すると、まるで羽のように背中に骨の腕が折り重なるように生えてきて、次から次へと増えていく。
骨天使が出来上がり、更に右腕が強大な骨ランスへと変形した。
そのまま真っ直ぐ空中を加速しながらこちらへと向ってくるが、ランスを小脇に抱えるように受け止める。
そして、膝蹴りで骨製のランスを蹴り折り、頭蓋骨を
武技 鐘突
武技 鉄頭
で粉砕。
まだ実態があるので、
武技 撃突
吹っ飛び、仰向けに地面に倒れた所に、
武技 飛身潰
体重で完全に踏み潰し、粉々にした所で、スゥッと消えていった。
意味ありげな敵だったが、もし自分を改宗させたければ、まずその骨に筋肉をつけてからにするんだな。
次の階へと進むと半透明のがっしりとした体つきのヒトが待っていた。
「白竜様とヒトが接した時間は短い。白竜様はヒトの事を知りたいと願っている」
「えっと……白竜からすると短いかもしれませんが、ヒトはずっと白竜様復活を願っていますし、ヒト基準ならそんな事無いのでは?」
「遠い遠い昔、ヒトはそれはもう、ひ弱で、魔素で変質した動物達、魔物相手にも逃げ惑うばかりだったと言う。白竜様が魔物を倒せばそれを仰ぎ見るだけの生き物を守り、それ以外はこの地で眠っていた白竜様。両者が交わるには余りにも存在として隔絶していた」
「なる程、つまりヒトからすれば長い事信仰していたとしても、白竜からすれば、一瞬の事だったと?」
「いや、そもそも白竜様を訪ねたヒトがたった二人しかいないのだ。ある時現れたひ弱な生き物の言葉に耳を傾け、ヒトを強くする為に力を貸すつもりだったのだ。折悪しく強敵さえ現れなければ」
「【帝国】統一の時に現れた強敵の話ですかね?それ以降眠っているという事ですけど、よっぽど傷が深いんですかね?」
「いや、傷はとうに癒えている。ただ大量の瘴気を受けてしまい、それを払わずして外に出れば、生態系に悪影響を及ぼす事必定、故に眠ってその時を待っているのだ」
「その時というと……」
「ヒトの子が強くなり、瘴気に負けず、寧ろ払えるようになる時さ」
「なる程、それで白竜が知りたい事と言うのは?」
「では改めて問おう。ヒトは今でも白竜様を必要としているか?必要としているのならそれは何故か?」
「勿論必要としています。皆が白竜復活を願っているから自分が代表して、ここまで来ました。でも理由はヒトそれぞれだと思います」
「ならば代表してここに来たヒトの子の願いは何だ?」
「……皇帝になって貰うため?」
「違うな。それは他者の願いを背負っているに過ぎない。ヒトの子よ何故危険を冒してまで、白竜様に会おうとするのだ?」
何でって、言われても頼まれたからとしか言いようがない。
何しろ最初はガンモに誘わからだし、それはただ他の人がやった事のないクエストを見つけようぜって、それだけの事だ。
そのあと試練を抜けて、邪神の尖兵を倒し、そのままクエストが進行して、ひたすら邪神の尖兵を倒していただけ……。
「自分は頼まれただけで、よく分りません」
「ふむ、それならこのあと無事に白竜様に会う事が出来たなら、何を望む?皇帝になる事は古き約束故、きっと果たされる事だろう。しかし、かつて初めて白竜様に会いに来た二人のヒト同様に、この霊廟を抜けたその方にはきっと望む物を与えるだろう」
「…………戦う相手ですかね?」
「ヒトの子よ闘争を望むか。確かにヒトとヒトは相争う。白竜様はあらゆる者の本能を否定しない。いいだろう進め」
「戦いたいって言う望みでも、進んでいいんですか?」
「無論、闘争本能は多くの生き物にとって力の根源。戦う理由は様々だが、しかしそれは本能に戦うという行為が刻まれているからこそ、行われる事だ。理由というのは本能を開放する鍵に過ぎず、戦う本能の無い者はそもそも戦わない。何より神は邪神と我等が戦う事を望んでいる」
その言葉が終わると、半透明のヒトが道を開けてくれたので、祭壇に〔竜の骨片〕を押し込むと、
中央の深淵にまた氷の道が出来た。
以前はやたら怖かった氷の道なんだが、今は妙にフワフワするというか、妙に高揚する気分のまま渡り切った。




