309.ヒトは争い続けるもの
ログインして、そのままセーフゾーンと思われる小部屋から出る。
特に異常はないので、やはりこの障子の部屋が休憩所で間違いなかろう。
そのまま壁沿いの通路を歩き、また壁内部へと続く道を見つけたので、中に入っていく。
待ち構えていたのは、骨の腕が10本生えたカンガルー?
何しろデフォルメが効きすぎている為、元の動物がよく分からないのがネックだ。
一足飛びに間合いを詰めてきて、そのまま左側から5本の腕が殴りかかってきたので、盾の広い面積を使い、
殴盾術 獅子殴
ぶん殴り返す。
流石に10本同時の打撃に仰け反ってしまったが、相手は相手で転がっていって反撃される事はない。つまり隙は作ってないから、セーフ!
一歩踏み込み、
壊剣術 天荒
パワーアップしたての重剣で頭をカチ割りに行くと、カンガルー?が5本の腕を折り重ねるように防御姿勢をとってきたので、その腕を砕く。
だらんと垂れるカンガルーの腕は3本。まずまずと言った所か?出来うる事なら、5本全部圧し折ってやりたかったが、仕方ない。
どんどん詰めていくように、前蹴りでカンガルーの腹部を蹴ると、どうやら敵も同じ事を考えていたらしい。
尻尾で反動をつけて、こちらを蹴ってきた。
お互いに弾かれて、剣盾を一回仕舞い、両拳を打ち合わせて精神力を回す。
鋼鎧術 天衣迅鎧
武器を持たない自分を組みやすしと見たのか、カンガルーが一足飛びに飛んで殴りかかってくるが、
鋼鎧術 耐守鎧
正面から受け止め、跳ね返す。
折角、手が10本あってもただ殴りかかるだけ、確かに受け止めようと思えば10本同時は大変だろう。
だが、自分のように前に前に出る相手にはどうだろうか?
問うまでもない。蹂躪あるのみだ。
再び剣と盾を構えて、真っ直ぐカンガルーの前まで進み、剣で縦切りに斬り割る。
ガードの為に持ち上げた10本の腕を次から次へとぶち折って、頭も潰す。
まだ息はある様なので、更に盾でぶん殴れば、そのまま木の通路にガンガンとぶつかって、止まると同時に消えていく。
もう一体くらい魔物がいるものかと思ったが、あっさり次の階へ降りていけた。
なんて言うかウォーミングアップ的な敵なのかな?
下の階はやはり広間、そして細身で背筋のピシッとした男性が立っている。
近寄ってみるとやっぱり半透明だ。
「ふむ、君はどうやったらヒトは強くなれると思う?」
「……たくさん戦うしかないんじゃないですか?」
「その通りだ。ヒトは戦うほどに強くなる。強者を食うだけでなく、同程度の相手であろうと、自分より格下の相手であろうと、そこから学び強くなる。それがヒトだ。神より選ばれし尖兵の力を見せる事が出来るのなら、その祭壇に鍵を嵌めよ」
「さっきは武器を捧げるように言われたんですけど?」
「それによって全ての祭壇は開放されている。あとは鍵を嵌め、白竜様の夢を見よ」
うながされた先にはやはり石壇があり、その窪みを見るに〔竜の燐片〕だろう。
まぁ、嵌め込まねば先には進めないのだろうからと、取り出して石壇に押し込む。
そのまま石壇の中に燐片が取り込まれ、代わりに雪の結晶……。
辺り一体吹雪に包まれ視界が滅茶苦茶悪いんだが?
『指揮官!ご指示を!間もなく接敵します!』
自分の後ろにはいつの間にか、見知らぬ【兵士】達が指示を待っている。
敵って何よと聞くまでも無く、吹雪の向こうに敵の集団が見えてきた。
敵は敵でヒトの集団、どうやら100対100の雪原戦闘のようだ。
もしこれが白竜の夢、遠い昔の小国家軍の戦争の記憶だとしたら、言ってみるなれば自分の先人達との戦闘になる。
これは、面白そうだ!
八陣術 衡軛陣
【歩兵】を前線に配して、敵とぶつかる。
敵は戦列も陣形もなくただ突っ込んでくるのみ、それに対してこちらは敵の集団を抱き込むように引き込んでいく。
そして、流れてきた敵を【重装兵】達が絡め取るように時間を稼ぎ、その後ろから【弓兵】達が雨のような矢を降らす。
敵が自分の目の前まで迫ってきた所で、
八陣術 彎月陣
陣形を変更しつつ、こちらの包囲の内側に敵を抱きこみ、殲滅を開始する。
目の前の敵達はその状況を理解せず、指揮官の自分を目の前に舌なめずりだ。
確かに集団戦は指揮官を倒せば、状況をひっくり返す事は容易い。だが、そんじょそこらの有象無象に倒される気はない。
願わくば強敵がいますように……。
やや古風と言うか、防寒重視の装備の敵達は顔をマフラーのような長い布で隠し、モコモコとした上着を着て、打撃には強そうにも見える。
まずは左から攻撃を仕掛けてきた槍使い、鋭く気迫の篭った突きを盾で受け流しつつ、一歩踏み込み、
武技 撃突
体重差で思い切り跳ね飛ばした所に、今度は右側から大型の鉈を振り下ろしてきたので、剣のリーチで突き飛ばす。
両手が塞がったと見たのか、正面の敵が丸太?を振りまわしてきた所を踏み込み、蹴り返した。
よろめく丸太使いを剣で一刀両断にし、更に手近にいた敵を盾で殴る。
剣を大きく振り回し、周囲の敵を一歩引かせたところに、
殴盾術 獅子揺
盾で地面をぶん殴って揺らす。
周囲の敵がバランスを取れずに動けなくなっている所をバッサリと剣で斬りたおし、偶々引っ掛けて倒れこんだ者に
武技 踏殺
トドメを刺した。
そうこうしている内に、完全に戦場をこちらが掌握し、あとは消化戦かと周囲を見ていたら、いつの間にか吹雪が晴れて、対岸に立っていた。
そして、左手に持っている妙に未来的な盾が、真っ白に変わり剣と意匠が揃った。




