306.竜士
式典が終わった後、夜間まで【旧都】で時間を潰していると国務尚書から再び呼び出しがあり、再び霊廟に向う。
珍しく月の出ている夜、雪に月の光が反射して妙に明るいのが、いつもの【帝国】に慣れた自分には逆に不気味だ。
こんなに明るかったら、誰かにつけられでもしたらでもしたら一発だなと思う反面、自分はどうせ逃げも隠れも出来ないのだから、逆に追っ手を見つけやすいかもなとも思う。
夜というのはどうしてこうも背中が気になるのだろうか?別に誰に狙われるような事もしていないのだが、これから行うのが秘密裏の白竜復活という事業なのがいけないか。
霊廟前には国務尚書一人だけ佇み、霊廟越しの月を見上げている。
「やぁ、来たね。ここからが正念場だ」
「長い年月を経て浄化するって昼には聞いた気がするんですけど、強引に突破するんですね?」
「ああ、ソタローなら濃い瘴気の中も進めるからね。それに長い時間瘴気をどこかに流した場合、別にどんな悪影響がるとも知れないだろう?」
やっぱり、皆そう考えるんだ?そりゃそうだよね環境汚染もいいところだもん。
「まあそういう事なら、出来る限り力を振るってきます」
「そうか、では簡単な内部の説明だ。あくまで先祖から受け継がれてきた物に過ぎないが、内部には多くの魔物が住み、いくつもの仕掛けがあるらしい。そして仕掛けを外す鍵となるのが、試練の間にあった竜の一部を加工した破片だ」
「話には聞いてましたけど、その影響で装備が対邪神兵器化するとか?」
「そうらしい。話に聞いているとは思うが白竜様復活の折には……」
「返却すればいいんですよね?別にそれは聞いてるので問題ありません。じゃあ行ってきますね」
「まあ待て、説明は終わっていない。中は大層深いらしい。それ故途中休憩できる部屋がいくつか設置されているらしいので、使うといい。寝具と食料の用意は十分か?」
「まあ一応、いつでも食事の準備だけは十分に整えていますけど」
「そうか、じゃあ最後に昼に授かった称号の効果に付いてだが……」
「勲章貰ったと思ったら、これ称号だったんですね!なんかお金かからない体のいい表彰状的なものかと思ってました」
「そんな訳ないだろう。何度も言うが白竜様復活は【帝国】国民全ての悲願と言って差し支えないのだよ。それに称号と勲章は切っても切れない関係にあるのだから……」
「脳筋の称号に勲章はついてこなかったですけど?」
「脳筋は特殊だ。筋肉が勲章のような物だから、少しでも筋肉に造詣のある者なら誰もがソタローに敬意を払う事だろう。だが称号としては特例だと思っておくといい」
「そうでしたか、それでこの勲章と称号にはどんな効果が?」
「うむ、それは古い勲章で現存するものは殆どない貴重な物なのだが〔竜士の称号〕となっている。竜の眷属と認められた異種族が付けられるとされる特殊な称号なのだが、白竜様や赤竜様の様な超越的な存在は別として、リザードマンどころか完全に種も言語も違う竜の眷属達とも意思疎通が取れるようになり、場合には小型の竜に騎乗して戦う事も出来るようになるとか」
「そんな貴重なものをさらっと渡されましても、どう扱ったらいいのやら……」
「元々、楔の封印を解いた者は竜縁があるとして授ける規定になっていたのだ。寧ろ現存する勲章全てを渡す予定だったのが、ソタロー一人で済んでしまって国としては儲けているが、逆に一人に集中する恩賞をどう処理するか悩みどころではある」
「まあ今でも渋滞中ですからね。これ以上何かくれると言われても困っちゃいますよ」
「そう言うな。例の鍛冶屋には聞いただろ?ソタローの装備を新調しようとしていると言う事。【帝国】の伝説に残る素材をふんだんに使用した最高傑作を用意するから安心して白竜様を復活させてくれ」
「何にも安心できる要素無いですよね?今の装備だってこれですよ?クラーヴンさんに任せたら、何処へ向かって行くのか、全く想像できないんですけど?」
「いやその装備の意匠、中々にいいと思うぞ。新たな時代の風を感じる!重量がありすぎて雪深い【帝国】向きでないことは認めるが、ソタローのような筋力と重量で戦う者には、この上ない出来だろう」
「その沈むのが問題なんじゃないですか。ジェットでも付けて浮きますか?」
「ジェットとは?分らぬが、浮くのは一つの案かもしれんな。重精様の力を使えれば反重力で浮く……?それには大きなエネルギーが必要になるから……重量変化効果で、地形に応じた重量調整が可能になるか」
「えっと、本気で浮かそうとしてるんですか?今後浮遊移動するんですか?自分は?」
「いや流石にそれは現実的ではないが、重量操作には思い当たる事があるので、例の鍛冶屋とも計画を詰めておこう。そんな事より、そろそろ霊廟に向うか?一応進行方向としては下だ。地下深きに白竜様は眠っている」
「そんな事って……。まあいいです。じゃあ内部に向いますね」
「うむ、ではこちらだ」
霊廟から少し離れた場所にある目立たない祠、その中には何もないと思いきや地下へと続く梯子が壁に埋っており、そこを伝って下へと向う。




