305.式典
クラーヴンさんから装備を受け取った日【兵舎】に戻ると、白竜様復活の最終段階に関しては負って連絡があるからそれまで待機と言い渡された。
まあそりゃ国家の一大事だし、勝手にどこやらの水路に潜り込んで復活させましたじゃ、怒られるのも当然の事だ。
一応許可を取って薬草を集めに行ったり、薬を作成しに行ったりはしたが、余り大きな動きはせずに数日。
例の対邪神兵器になる用の装備一式身につけて【旧都】に来るように言われたので向かう。
ポータルから出ると何故か正面の道にいたヒト達が道の端に寄り、何故か期待の目で自分の方を見てくる?
取り合えず、真っ直ぐ【旧都】中心の大通りを真っ直ぐ北に向って歩く。
奥の方に大きな建物が見えるし、多分国務尚書がいるとしたらあそこだろうという、安易な考えなのだが、まあ役人に国務尚書の場所を聞けば大体分るだろう。
ひたすら真っ直ぐ進み、大きな建物の前に着けば案の定と言うか、国務尚書が待っていてくれた。
というか、一国の内政のトップが自分みたいなただの【兵士】を待ってていいものなのか?まあいいか。
「一応言われた通り、対邪神兵器用装備で来ましたけど、これから攻略開始って事でいいんですよね?」
「ふふ、いや今日は式典だ。済まんが少し茶番に付き合ってくれ」
「茶番ですか?」
「ああ、詳しくはあとで説明するが、この式典はとても重要なものだ。これまで封印されていた白竜様の霊廟を復活させる物になっている。だがまだ向こうは知らん。このまま白竜様を復活させる気でいるという事をな」
「え?向こうって……皇帝陛下ですよね?白竜復活を知らないってどういう?」
「いいから、君は黙って恩賞を受け取るといい」
言われるがまま国務尚書の後を着いていくと、建物には入らず寧ろ迂回して裏手の森の中にはいっていく。
自分の超重量ロボットにしか見えない装備でも、一応歩ける程度の雪の量ではあるが、一体森の中に何があるというのか?白竜の霊廟か、そう言ってたし。
森の奥にはぽっかりと開いた空間、そこには男女数名が並んでいるが、いずれも油断できない雰囲気を漂わせている。
中心にいるのは軍服だがよく見れば装飾が豪華な国務尚書と同年代と見られるヒト。
もう少し若く見える男性は柔和な印象だ。
女性の方は使い手ではなさそうだが、それでも隙は感じさせない如何にも有能そうな雰囲気を感じさせる。
気配の薄い男性はしなやかと言うのが一番しっくり来る体型と動きと呼吸で、無理のない姿勢と一瞬で行動に移れる警戒心を保っているように見える。
更に気配がまったく無いのにその場に確実に立っている老齢の男性、このヒトは絶対に油断しちゃいけない。自分の筋肉がそう伝えてくる。
他にも数名、国の中枢の人物と見られる人々がいるものの、目立つのはこの辺かな?
服装が豪華とか、体型が立派とかはいくらでもいるが、どのヒトも頭から地面に叩きつければ勝負が決まる程度と見ていいだろう。
「うん!いい!いいぞ!戦力分析は済んだか?ソタロー!噂はかねがね聞いていたし会いたいとは思っていたんだが、国務尚書がどうしても会わせてくれなくてな!うん、見るからに英雄と言うに相応しい人物のようじゃないか!」
「陛下」
近くにいた女性から声を掛けられて話すのをやめる豪華な軍服のヒト、このヒトが陛下か。はっきり言って油断できる相手じゃない。
国務尚書も多分使い手だが、このヒトも相当に鍛えこんでいる。
「さて、参列者も集まった所で、白竜様の霊廟を復活させよう」
皇帝陛下がそう言うと、国務尚書が前に出て、
「では僭越ながら私が白竜様の歴史について話をさせていただきます。かつて【帝国】統一の途中強敵が現れ遠くへと去っていった白竜様……」
長ーーーい歴史の話を雪の中、微動だにせず聞いてる国家の中枢の人達って普段一体どんな鍛錬を組んでるんだろうか?
自分とならぶ身体能力のヒトは一握りって聞いたんだけど、実はいくらでもいるんじゃないの?
まあ取り合えず、白竜様は怪我をして霊廟に閉じこもったと。しかしその後その霊廟から瘴気で変質した強力な魔物が現れる事から、霊廟すらも封印せざるを得なくなって今に至ると。
【帝都】が【帝国】西部にあるのもいざ霊廟から魔物が溢れた時に備えるためだし、他の楔が辺鄙な場所にあるのも、危険な地域からヒトの住む地を離した結果だそうな。
じゃあカトラビ街はどうなるの?と思ったが、あそこは山に囲まれた場所に元々都市国家があったので、避けようがなく、溢れたらその時はその時だって思ってたらしい。根性半端ない。
そして、今回楔の邪神の尖兵が払われた事で、全ての水路から水が流れ込む装置を動かせるようになったと。
今後は清浄な水が霊廟に流れ無込む事で、長い時をかけて白竜様の怪我が癒え、瘴気が払われるのを待つらしい。
大河の水は大霊峰から流れ込む霊水らしい、他の川や湖の水も基本は【帝国】の雪解け水で【帝国】の病毒に効果のある冷気に触れた水なので浄化効果が見込まれるとか。
そもそも水精は何か状態異常を直す効果があったし、氷精は耐性があったから、確かに穢れ的な瘴気を洗い流すのにはいいのかもしれないけど、洗った瘴気は何処に流すんだか?
まぁ、自分が考えた事じゃないしいいか。
そして、話が終わり皇帝陛下と国務尚書が並んで何かを何もない広場に向って唱えると、地面が揺れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……と、重苦しい地揺れの音と共にせり出してくるのは小型のピラミッド。
ぴたっと、止まると皇帝陛下は満足そうにこちらに振り返る。
そして皆が拍手するのに合わせて自分も拍手していると、皇帝陛下の前に来るように促される。
「では、今回の復活の立役者であるソタローに恩賞を授ける」
片膝をついて、しゃがむと勲章を鎧の胸にくっつけられた。
「謹んでお受けします」
でいいのかな?何か大変な依頼を受けるときの言葉みたいだけど、まあいいか。自分は田舎の【兵士】だしそんな事で怒られたりしないだろう!




