275.金の力と筋の力
各国筋肉代表が拠点としている宿営所近辺に商店を手配して数日、結構上手く回っているようで、安心していた所に、再び会議への参加要請が来た。
ほんの数日前より、更に堅牢かつ色んな施設がくっ付いた会議所に、何やら豪華な馬車が何台も停まっている。
何となく嫌な予感がして、念のためフォーマル?な黒装備に変更して、建物に入っていく。
すると、そこには如何にも見るからにお金持ちです!と主張した服装の人達と安心安定の筋肉達が集まっていた。
「すみません。今回の呼び出しはどういったご用件で?」
尋ねると、ヒョロッとした片眼鏡の男性と小太りのおじさんが代表で話してくれるらしい。
「ふむ、君がニューター代表のソタローだね?それではすぐさま各国宿営所周りのニューター商店を撤去して頂きたい」
急に理不尽な事を言われた。
思わず全身の筋肉が反応して熱を持つが、まだ焦る時間じゃない。一旦冷静に話を聞こう。
「何か不都合か、トラブルでもありましたか?」
「うむ、君も分かる通り、今この死者の平原は世界的に見ても平和な地域となった。この機に大きな輸送ルート及び、宿場街を作ろうという計画が持ち上がったのだよ」
「そうですか?でも邪神の化身分体がうろついてるかもしれない場所が平和とは、剛毅ですね」
「ふむ、それに付いては各国【兵士】諸君を信用しているとしか言い様がない。それで今回の戦に出資している我等が輸送ルート及び宿場街の建設を行う事になったので、ニューターの個人商店は撤去していただきたいのだ」
何かおかしい気がするんだけど?
「一応、これまで危険の中、営業してきたニューター達にいきなりそこをどけと言われても無理ですよね?」
「ふむ、だから君に話を通しているのだ。何しろこの戦い我等の資金なくしては継続できないだろう?なれば素直に従っておいたほうがいい」
あれ?またイライラしたぞ?やっぱり何かおかしな事を言われてる。
何やらニヤつく豪華な服を着たヒト達に不快感を覚えて、筋肉の方を見やると【帝国】の【兵士】達を任せているロデリックさんの顔が見えた。
「すみません、自分は戦争のお金の状況は分りませんが、この戦いって本当にこのヒト達のお金で賄われているんですか?」
「とうぜ……」
「自分はロデリックに聞いています」
「一部はそうだな。しかし【兵士】を運用する金は各国が出しているし、元々の元金は隊長の物だ」
「そうなると、あなた方は何にお金を出すんですか?」
「それは我等は商人だからな利になることに金を出す。邪神の化身討伐後の世界の為に、死者の平原開発に資金を出そうと言っているのだ」
「それが悪い事だとは思いませんが、さっきから決まった事だから従えとばかりに、自分に要求するのはどういう権利があっての事ですか?」
「金だよ。金を出していると言う事はそれだけ発言に重みが出る物なのだ。既に【王国】国王にはこの話が通っている。死者の平原が【王国】の土地である以上、国王の裁可が優先される当然だな?」
「そうですか、じゃあ自分の直属の上司は国務尚書になりますので、ぜひ国務尚書からの命令書も一緒に提出してください。同時に自分も国務尚書に陳情しますので」
「……どういった内容かな?」
「金の力で自分に頭ごなしに命令してくる者を筋肉で捻り潰してハンバーグにしてから海に住む魔物の餌にしていいか?」
「貴様!暴力で解決するつもりか!」
「あなたこそ、金で何でも解決できると思わないで下さい。誰が邪神の化身と戦ってると思ってるんですか?しかも、対邪天使の資金は出さずに自分の利益になる事だけに金を出す。そんな事がまかり通ると思っているのですか?」
「こっちは国王の許可を得ているのだ!貴様のような小僧が何を言おうが、この裁定がひっくり返る事はない!」
「そうですね、ひっくり返るのは【王国】の国王の住む城か何かでしょう。金や権利の事は知りませんが、自分の動かせる全筋力を使ってひっくり返せる物は全部ひっくり返します」
「何を世迷いごとを!貴様一人で何ができる!」
「自分一人とは言っていません。自分に賛同する筋肉全てを使ってです。少なくともこの理不尽にニューター達は力を貸してくれるでしょう。何度でも生き返るニューターがあなた方の財産全てを筋力でねじ伏せますよ。どうぞお金の力で対抗してください」
「はい、そこまで」
急に女性の声がすると思ったら、何となく聞き覚えのある様な?
「レディ……我々がまだ交渉中なので」
「そうですとも、こんな物の分らない若造など……」
「黙ってて頂戴。相手はかの脳筋なのよ?筋肉で納得できない事は筋肉で解決する。そんな理不尽生物にあなた達程度では、ぽっきり折られてそれこそ魚の餌になるくらいしか未来はないわ」
何やら褒められているようだが、レディと言えばガイヤさんのスポンサーだ。流石に丁重に接した方がいいだろう。
「すみません。少し頭に血が上ったようです。自分も別に誰彼構わず傷つけようと言う訳ではないんです」
「勿論分っているわ。今迄営業していたニューター達は区画整理の為に一度店を空けて欲しいんだけど、宿場街が出来た暁にはちゃんと一等地に営業できる場所を用意するわ。当然不利にならない様な相応サイズの土地も用意するし、商売の権利も平等になる様に手配する。これでどうかしら?」
「分りました。ニューターにはそのまま伝えます。明らかに不利になる様な事がなければ自分が言う事はありません。ただ一点気になるんですけど、各国が力を合わせているのに【王国】国王の裁可だけで、死者の平原の商業利権が決まる。この不満については当然ながら上を通して申し入れてもいいんですよね?」
「ふふふ、そうね。どう思うのあなた達?」
「い、いやあの……」
「確かに国王の裁可は頂いているけど、利権については今回の邪神の化身討伐の功績に応じて分配されるのよ。死者の平原は各国に繋がる大陸の中央に位置するから、皆で平和を維持しましょうって訳。私達はあくまで今後、利を生むための土壌作りを依頼されたに過ぎないわ」
「じゃあ、なんでこの人達はあんな高圧的に?」
「小心なのよ。何しろ相手は裏社会で暴れてたあの脳筋を倒して、かの剣聖にすら認められた脳筋。表社会で上に行けば行くほど化け物揃いと言われる【帝国】の大隊長。噂では赤竜の化身からも認められたとか?ヒトの遠く及ばない存在の中でも竜と言えば、戦う存在と言われてるのに、それに認められているとしたらどれ程の戦闘者か、常人の想像をはるかに越えてしまってるのよ。ソタローの存在はね」
いつの間にやら、自分の噂話が出回っている?




