表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

その6 クラスメイトのギャルとイカガワシイ本の話です


 クラスメイトの美人で有名なギャル――大久保新菜と、ひょんな事から一緒に漫画を買いに行ったのが昨日の事だ。

 その後ゲーセンで遊んで、帰り掛けに連絡先を交換しようとしたら、滅茶苦茶イジられて。

 そして今日、何だかんだで仲直り……したのかな?

 ともかく、一緒に昼ご飯も食べて――。

 で、今は放課後。


「よし……」


 僕は昨日と同じ、駅前の行き付けの本屋に来ていた。

 購入した本の入った紙袋を手にし、意気揚々と店の自動ドアを潜る。


「ユッキ~」


 ドアの外に、ジト目で悪そうな笑みを浮かべた新菜が待ち構えていた。


「うわっ!」


 ビックリして、思わず大声を上げてしまった。


「なんで勝手に先に帰ってんの~?」

「い、いや、それは……」


 帰り際、いつも一緒の友達――つまりは陽キャラグループと仲良さそうに喋っていたので、声を掛けるのも憚られ、そのまま普通に帰ったのだが……。

 もしかして、また追い掛けて来た?

 と、昼休みの事を思い出していると、新菜は何やら、僕の持っている本の入った紙袋を注視していた。


「本買ったんだ、何買ったの?」


 まずい!

 僕は慌てて、紙袋を背中に隠す。


「あ、いや、べ、別に、大したことない本だよ」


 って、こんな反応したら大したことありそうだよ!

 という僕の懸念は、当然彼女にバレてしまった。


「ふーん……怪しいなぁ。何で隠してんの~?」

「そ、それは……」


 あの意地悪顔で追及してくる彼女の一方、僕は心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じる。

 今日買った本に関しては……彼女に知られるわけにはいかない。


「んー……あ、わかった!」


 新菜が手を叩き、僕にビシッと装飾の施された爪先を向けて来た。


「エロ本だ!」

「……はっ!?」

「いやぁ、この隠し方は完全にエロい奴っしょ。わーい、ユッキーのエロー」

「ち、違う! 至って健全な本だよ!」


 からかって来る新菜に、僕は慌てて否定する。


「じゃあ見してよ。何で隠すの~」

「そ、それは……」

「怪しー、こりゃ絶対エロだな」


 そう言ってケラケラと大笑すると、新菜は「ふぅっ」と呼吸を落ち着かせるように溜息を吐いた。


「はいはい、ウソウソ、大丈夫だよ。無理矢理、見るようなことしないから」

「そ、そう……」


 あー、ドキドキした。

 とりあえず、中を見られなくてよかった……。


「あ、そうだ、昨日取ってもらったフィギアさー、部屋に飾ってみたんだけど、やっぱめっちゃ格好良くてさ」


 ……なんだか、自然な感じで一緒に帰る形になってしまった。

 昨日と同じ道順を辿る形で、僕達は何気ない会話を交えながら、帰路を歩き進む。


「ねーねー、ユッキーはどういうのが好みなの?」

「……え?」


 不意打ち気味に放たれた質問に、僕は呆けた声を返してしまった。


「好み? え、何の?」

「だから、そういうの」


 新菜は、僕の持つブックストアの紙袋を指差す。


「エッチな本」

「……な!?」


 その話題はもう終わったと思ったのに!?


「ほら、色々とジャンルあるじゃん。年上とか年下とか? 可愛い系とか綺麗系とか、胸とかお尻とか、どんなのが興奮するのかなーって」

「……な、何てこと聞いて来るんだよ」


 しまった、何を動揺してるんだ、僕は。

 そんな反応したら――。


「あれ~?」


 案の定、僕の女慣れしてない感丸出しの態度に、クスクスと笑う新菜。


「えー、別に普通に話さない? クラスの男子とか、普通に話すけど。ユッキーには刺激が強過ぎたかな?」


 くっ、バカにされてるぞ、僕……。


「あ、もしかして、ギャルとか? 小悪魔系が好き?」

「う、うるさいな! 別に何でもいいだろ、そんな……」


 そう、彼女の言葉にあたふたと返していると。


「隙あり!」

「あ!」


 しまった!

 紙袋を取られた!


「ふっふっふっ、さーてと、果たしてユッキーの好みは~?」


 まずい。

 しかし、止める間も無く、新菜は素早い動きで紙袋から中身を取り出していた。


「きゃーー……あれ?」


 現れた本の表紙を見て、新菜は言葉を失う。

 それもそうだろう。

 中から現れたのは、イカガワシイ本などではない。

 料理の本だ。


「あ……」


 それも、お弁当のレシピ本。

 ……見られてしまった。

 僕は、バツが悪そうに視線を逸らす。


「………」

「……いや、なんて言うか……」


 黙ったまま見詰めて来る新菜に、僕は視線を合わせないまま言い訳がましく喋る。

 ああ、恥ずかしい。


「あんなに褒められたの初めてだったから、もうちょっと勉強しようかと思って」


『あたしの分も作ってよ』

 そんな彼女の言葉も手伝ってたりするのだが。


「………あはは、なにそれ、チョロっ!」


 僕の言葉を聞いていた新菜は、少し間を開けた後、声を上げて笑った。

 けど、彼女の顔は、どこか頬が赤みがかっているようにも見える。


「わ、はっず、マジヤバい、じゃあね、ユッキー!」

「え? あ……」


 言うや否や、新菜は僕に持っていた本を押し付けると、その場から駆け出していた。

 逃げるように走って消えた彼女を見送り、その場には僕一人だけが残される。


「………危なかった」


 彼女に押し付けられた紙袋の中には、実はもう一冊本が入っていたのだ。

 ……白状する。

 実はお弁当のレシピ本と一緒に、ちょっと際どい内容の、青年誌の漫画も買っていた。

 今時流行りの、単一ヒロインの魅力を盛り込んだタイプのラブコメもの。

 そっちが一緒に袋に入っていたのは、幸運な事に新菜にはバレなかったようだ。

 しかも、そのヒロインの属性というのが――。


『あ、もしかして、ギャルとか? 小悪魔系が好き?』


「……本当に、危なかった」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ