その6 クラスメイトのギャルとイカガワシイ本の話です
クラスメイトの美人で有名なギャル――大久保新菜と、ひょんな事から一緒に漫画を買いに行ったのが昨日の事だ。
その後ゲーセンで遊んで、帰り掛けに連絡先を交換しようとしたら、滅茶苦茶イジられて。
そして今日、何だかんだで仲直り……したのかな?
ともかく、一緒に昼ご飯も食べて――。
で、今は放課後。
「よし……」
僕は昨日と同じ、駅前の行き付けの本屋に来ていた。
購入した本の入った紙袋を手にし、意気揚々と店の自動ドアを潜る。
「ユッキ~」
ドアの外に、ジト目で悪そうな笑みを浮かべた新菜が待ち構えていた。
「うわっ!」
ビックリして、思わず大声を上げてしまった。
「なんで勝手に先に帰ってんの~?」
「い、いや、それは……」
帰り際、いつも一緒の友達――つまりは陽キャラグループと仲良さそうに喋っていたので、声を掛けるのも憚られ、そのまま普通に帰ったのだが……。
もしかして、また追い掛けて来た?
と、昼休みの事を思い出していると、新菜は何やら、僕の持っている本の入った紙袋を注視していた。
「本買ったんだ、何買ったの?」
まずい!
僕は慌てて、紙袋を背中に隠す。
「あ、いや、べ、別に、大したことない本だよ」
って、こんな反応したら大したことありそうだよ!
という僕の懸念は、当然彼女にバレてしまった。
「ふーん……怪しいなぁ。何で隠してんの~?」
「そ、それは……」
あの意地悪顔で追及してくる彼女の一方、僕は心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じる。
今日買った本に関しては……彼女に知られるわけにはいかない。
「んー……あ、わかった!」
新菜が手を叩き、僕にビシッと装飾の施された爪先を向けて来た。
「エロ本だ!」
「……はっ!?」
「いやぁ、この隠し方は完全にエロい奴っしょ。わーい、ユッキーのエロー」
「ち、違う! 至って健全な本だよ!」
からかって来る新菜に、僕は慌てて否定する。
「じゃあ見してよ。何で隠すの~」
「そ、それは……」
「怪しー、こりゃ絶対エロだな」
そう言ってケラケラと大笑すると、新菜は「ふぅっ」と呼吸を落ち着かせるように溜息を吐いた。
「はいはい、ウソウソ、大丈夫だよ。無理矢理、見るようなことしないから」
「そ、そう……」
あー、ドキドキした。
とりあえず、中を見られなくてよかった……。
「あ、そうだ、昨日取ってもらったフィギアさー、部屋に飾ってみたんだけど、やっぱめっちゃ格好良くてさ」
……なんだか、自然な感じで一緒に帰る形になってしまった。
昨日と同じ道順を辿る形で、僕達は何気ない会話を交えながら、帰路を歩き進む。
「ねーねー、ユッキーはどういうのが好みなの?」
「……え?」
不意打ち気味に放たれた質問に、僕は呆けた声を返してしまった。
「好み? え、何の?」
「だから、そういうの」
新菜は、僕の持つブックストアの紙袋を指差す。
「エッチな本」
「……な!?」
その話題はもう終わったと思ったのに!?
「ほら、色々とジャンルあるじゃん。年上とか年下とか? 可愛い系とか綺麗系とか、胸とかお尻とか、どんなのが興奮するのかなーって」
「……な、何てこと聞いて来るんだよ」
しまった、何を動揺してるんだ、僕は。
そんな反応したら――。
「あれ~?」
案の定、僕の女慣れしてない感丸出しの態度に、クスクスと笑う新菜。
「えー、別に普通に話さない? クラスの男子とか、普通に話すけど。ユッキーには刺激が強過ぎたかな?」
くっ、バカにされてるぞ、僕……。
「あ、もしかして、ギャルとか? 小悪魔系が好き?」
「う、うるさいな! 別に何でもいいだろ、そんな……」
そう、彼女の言葉にあたふたと返していると。
「隙あり!」
「あ!」
しまった!
紙袋を取られた!
「ふっふっふっ、さーてと、果たしてユッキーの好みは~?」
まずい。
しかし、止める間も無く、新菜は素早い動きで紙袋から中身を取り出していた。
「きゃーー……あれ?」
現れた本の表紙を見て、新菜は言葉を失う。
それもそうだろう。
中から現れたのは、イカガワシイ本などではない。
料理の本だ。
「あ……」
それも、お弁当のレシピ本。
……見られてしまった。
僕は、バツが悪そうに視線を逸らす。
「………」
「……いや、なんて言うか……」
黙ったまま見詰めて来る新菜に、僕は視線を合わせないまま言い訳がましく喋る。
ああ、恥ずかしい。
「あんなに褒められたの初めてだったから、もうちょっと勉強しようかと思って」
『あたしの分も作ってよ』
そんな彼女の言葉も手伝ってたりするのだが。
「………あはは、なにそれ、チョロっ!」
僕の言葉を聞いていた新菜は、少し間を開けた後、声を上げて笑った。
けど、彼女の顔は、どこか頬が赤みがかっているようにも見える。
「わ、はっず、マジヤバい、じゃあね、ユッキー!」
「え? あ……」
言うや否や、新菜は僕に持っていた本を押し付けると、その場から駆け出していた。
逃げるように走って消えた彼女を見送り、その場には僕一人だけが残される。
「………危なかった」
彼女に押し付けられた紙袋の中には、実はもう一冊本が入っていたのだ。
……白状する。
実はお弁当のレシピ本と一緒に、ちょっと際どい内容の、青年誌の漫画も買っていた。
今時流行りの、単一ヒロインの魅力を盛り込んだタイプのラブコメもの。
そっちが一緒に袋に入っていたのは、幸運な事に新菜にはバレなかったようだ。
しかも、そのヒロインの属性というのが――。
『あ、もしかして、ギャルとか? 小悪魔系が好き?』
「……本当に、危なかった」




