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その5 クラスメイトのギャルとお昼です


 ――時は過ぎ去り、昼食の時間。

 僕は基本的に、昼食は自分のクラスでは食べない。

 理由は居心地が悪いから。

 友達のいない僕にとっては、親しい人同士和気藹々と過ごす事が当然の空間には、居たくないのだ。

 単純に、いたたまれない気分になるので。

 だから、昼食の弁当は一人で食べる。

 場所は定番のトイレ個室……とかではない。

 いや、単純に衛生的に嫌なので。

 メインで使われている第一校舎から、渡り廊下を使って第二校舎に向かう。

 ここで今日も、僕は空いている教室を探して入る。

 と言っても、教室は他の生徒達に勝手に使われていて、最終的には校庭に出て適当なベンチに座るんだけど……。


「お、珍しく空いてる」


 今日は幸運にも、美術の準備室が開いていた。

 美術の授業で使う彫刻とかそういう道具が仕舞ってある部屋だ。


「さて、お昼お昼っと……」


 適当な椅子を引っ張って来て、腰掛ける。

 誰にも邪魔されない静かな空間で、長閑にランチタイムを過ごそう――とした、その時だった。


「いたーーーーーーーーー!」


 美術準備室の扉がバーーーンと開き、大声を上げてやって来たのは大久保新菜だった。

 ビックリした僕は、思わず膝の上の弁当箱を落としてしまうところだった。


「お、大久保さん!? どうして……」

「さっき、後でって言ったじゃん」


 休憩時間の時の事か……。

 新菜は「気付いたらどっか行っちゃうんだもん、マジ走ったー」と言いながら、置いてある椅子を一つ引っ張って来ると、普通に僕の横に座った。


「一緒にご飯食べようぜ」

「え? あ、うん……」


 いつも一人のはずの僕の昼食時間が……ギャルに侵略されてしまった。

 ……けどまぁ、相手が彼女なら悪い気もしないけど。


「あ、そうだ、これこれ」


 コンビニのビニール袋からパンを幾つか引っ張り出している途中、新菜が紙袋を取り出した。

 さっき返した、昨日買った漫画だ。


「授業中に読んだんだけどさ」

「授業中に読んだのか……」

「マジで面白いよ。気付いたら三巻までアッと言う間だったし。続きくっそ気になる」


 取り出した単行本をパラパラと捲りながら、新菜は好意的な言葉を述べてくれる。

 まぁ、僕がおススメして買った本だし、乏しめるわけにもいかないから気を使って褒めてくれてるのかもしれないけど……。


「なんていうか、王道? あたし、あんまそういうの詳しくないけどさ、主人公の男の子が困ってる女の子を助けるために頑張るの? そういう基本的なところ、ちゃんと熱くて良かったし」


 ……おお!

 わかってくれるか! わかってくれるか、そこ!

 ちゃんと、僕と同じところを面白いと思ってくれている。


「でもさー、一つ言わせてもらいたいんだけどね」

「え?」


 なんだか感動的な気分になっていた僕に、新菜は腕組みしながら眉間に皺を寄せる。

 その表情は、どこか笑いを堪えているようにも見えた。


「主人公が結構鈍いっていうかさ、こんだけ女の子達から好き好きアピールされてたら普通惚れられてるって気付かない?」


 ………う。

 そ、それは……確かにそうだけど……。


「ほら、こことか!」


 とあるページを開き、新菜がニヤニヤしながら言う。


「流石にヒロインが好きなのアピってるのに対して、『ん? 何か言ったか?』って毎回聞こえてないの、マジ受けんだけど」


 まぁ、いわゆる鈍感系主人公って奴だな……難聴系か?

 で、でもいいじゃんか、なんて言うか、そういうのって――。


「男心的には好きなんだ、こういうの」

「うん、そうそう、それ……ハッ!」


 思わず反応してしまった!

 振り向くと、新菜がまたあのニィッとした笑みを湛えている。


「ユッキー、チョロ~」

「ちょ、チョロくはない! むしろそういうのは昔からよくあるベタな設定だし、長年愛されているからこそ今日まで色んな作品に使われてきたわけで、そもそも男向けの商業誌に掲載されてる漫画が男ウケするような内容にして何が悪いのか――」

「めっちゃ喋る~、クソ笑うんだけど」


 そう、からからと声を上げる新菜。


「あ、お弁当美味しそう」


 そして、今度は僕の弁当に食いついてきた。

 おい、その前にもう一度言っておくが(心の声だけど)僕は決してチョロくはないからな!


「卵焼きじゃん。焼きそばパンと交換しようぜ」

「あ!」

「あーん」


 返答を待たずして、卵焼きを一切れ取られてしまった。

 指で摘まんで、そのままパクッと頬張る新菜。


「……美味い!」


 そして目を見開いて、そう叫んだ。


「そ、そうかな?」

「マジマジ! あたし、こんなおいしい卵焼き始めて食べたし!」

「それは流石に大袈裟じゃ……」

「えー、なんでそんな謙遜するの? ユッキーのお母さんの料理でしょ? 凄い羨ましいんだけど」

「いや、これ、自分で作ったんだ」

「……へ?」


 僕の発言に、新菜はポカンとした顔をしている。


「ユッキー料理できんの!」

「ま、まぁ、それなりには」


 そんなに驚く事かな?


「弁当のおかずとか、そういう簡単なのくらいだけど」

「すっご! しかも美味いとか、ソンケイ! ねーねー、あたしの分も作ってよ! なーんて」


 本当に尊敬してるのかな?

 でもまあ、褒められたら悪い気分じゃない。

 その相手が、新菜なら尚更……。


「いやぁ、やっぱり誰でも一つくらいは特技を持ってるもんなんだね~」

「うるさいな……一言余計だよ」

「まぁ、ユッキーの場合は三つかな。料理とクレーンキャッチャーと、あとチョロい」

「……最後のは才能でも何でもないだろ」


 そんな感じで、僕はこの学校に入学してから初めて、昼食の時間を誰かと一緒に過ごした。

 思いがけず、楽しい時間だった。


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