その3 クラスメイトのギャルに連絡先の交換を申し出ました
で、撮影が終わった。
プリクラは印刷したのを半分貰い、ついでにスマホにもデータで保存する。
「うわ、完全に目つぶってるじゃん。ユッキー、顔ウケる」
「……なんでわざわざ目を瞑ってるやつを選ぶんだよ」
そんな感じで一通り盛り上がり――。
「あー、楽しかった」
僕達は、店の外へと出た。
彼女が買った漫画は、いつの間にか僕が持っている。
「今度はカラオケとかにも来ようよ。カラオケ、好き? ボーリングは?」
「いや、別に嫌いじゃないけど……」
……なんだろう。
僕は、屈託のない笑みを湛えながら、何の気兼ねも無く話し掛けて来る彼女を見る。
こんなに人と話をしたのは久しぶりだ。
(……彼女も、嫌そうではないし)
というか、嫌ならそもそも放課後一緒になんて誘わないはずだし。
もしかしたら、僕達、思いの他、気が合うのかもしれない。
率直に、彼女と過ごす時間は楽しかったし……。
……というか、同じクラスとは言え今日初めて会話したばかりの僕と、こんなに仲良くなる?
こんなに楽しそうにする?
……もしかして。
……もしかして、彼女、僕の事が好きなんじゃないか?
(…………いやいやいやいや!)
流石にそれは自意識過剰過ぎる!
キモ過ぎる! キモ過ぎるぞ、僕!
「あ」
と、そんな風に頭の中で悶絶している内に、僕達は二手に分かれる道に差し掛かっていた。
僕は右に進もうとしており、新菜は左の道に向かおうとして、それに気付いてお互い立ち止まった。
ここが、彼女と僕の帰路の分かれ道ということのようだ。
「………」
どうしよう。
流石に家まで送ってくって言うのは、カッコつけ過ぎかな……。
「あたしんちの帰り道、こっちなんだよね」
新菜が、左側の道を指差して言う。
「ああ、じゃあ、僕、こっちだから」
「ふーん……」
それだけ言って、新菜は口を閉ざした。
言葉を途切れさせ、自身の髪をいじり始めている。
なんだろう。
何かを、待ってる?
僕から、何か言うのを……。
(……まさか)
これはもしや、その……付き合って的な?
マジで?
いや、そんなまさか! 流石にそれは早すぎる!
……でも、もし本当にそうなら……。
ぼ、僕から動くべきか?
何か、何か言わないと……。
……そうだ!
「あ、あの、さ」
長い逡巡(約五秒間)を終えて、僕は決心する。
ポケットからスマホを取り出し、高鳴る心臓の鼓動を押さえながら彼女へと問い掛ける。
「連絡先、こ、交換しない?」
「え?」
新菜は、ハトが豆鉄砲を食らったような顔になった。
「え? 連絡先?」
「う、うん」
「私が? ユッキーと?」
「……うん」
「なんで?」
な、なんで?
「いや、ほら、さっきの約束……とか……」
「別に、また適当な時に、学校の帰りとかでいいじゃん?」
「それは、そうだけ、ど……な、仲良くなったんだし……」
あれ? なんだ?
あまり、連絡先とか交換したくないのか?
この話題になった途端、何やら不穏な雰囲気を醸しだし始めた新菜に、僕は今更のように気後れする。
そこでだった。
「あれ? もしかして……」
新菜の顔に、笑みが浮かんだ。
ニィッと、三日月状に吊り上がった口元は――意地の悪い、悪魔のような笑みだった。
「もしかして、ユッキー、あたしがユッキーのこと好きだと思ってる?」
「……は! え!?」
いきなり言われて、僕は目に見えて動揺してしまった。
「な、ななななななな、なに」
まずい、落ち着け僕!
喝破されたのが丸バレだぞ!
しかし、時すでに遅く、そんな僕の様子を見た新菜は、声を上げて笑い出した。
「あはは、一回一緒に遊んだだけで、普通そんな思い込みする? 単純って言うか」
「あ、あ、あぐ」
た、単純……単純だったのか?
僕は、勘違いしてただけなのか?
「行けると思ったんだ? ここで押せば、簡単に落とせるって?」
「ち、ちが……」
違う、そんなんじゃない。
僕は、ただ純粋に、楽しくて。
「ユッキーって、ほんとチョロいよね~」
ちょ、チョロい?
僕が?
「じゃあね、バイバイ。このまま一緒に居たんじゃ襲われちゃうかもだから、退散しまーす」
「え!?」
言いたい放題に言われ、茫然自失状態になってしまった僕。
気付いた時には、新菜は既に目の前から立ち去った後で。
「………」
……後には、勘違い男が一人残されただけでしたとさ。




