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第三話 0

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 ――当機は着陸体勢に入ります。お席に戻り、シートベルトをお締めください。

 複数の言語で繰り返される注意を聞きながら、少女は不機嫌そうに窓の外を見ていた。

 角が丸い四角に切り取られた異国の風景。

 ずっと青い海か白い雲が続いていたが、ようやく陸地が見えはじめている。

 はるか上空からでも湾を中心に町が広がっているのが見えたが、町の外は山で、町が緑を駆逐しようとしているのか、緑が町を飲み込もうとしているのかはわからなかった。

 ――忌まわしき国、日本。

 飛行機はゆっくりと、その島国へ降り立とうとしている。



  *



 すべての元凶は日本だ、とあたしは思う。

 この国さえなければ。

 いや、別に国はあってもいいけど、この国に、あんな学校さえなければ。

 そもそも――。

 何百年も前から、音楽の中心はヨーロッパだと決まっている。

 イタリア、オーストリア、ドイツ、そのあたりが音楽が生まれ、進化し、いまなお生き続ける地のはずだ。

 なのに、よりによってこのアジアの極東にある島国に、ヨーロッパから飛行機でも十時間以上かかるこんな世界の果てに音楽の中心があるとは信じられない。

 ――皐月町音楽学校。

 百年ほど前に日本の金持ちが作ったらしい音楽学校だ。

 それから時代を経て、金にものを言わせて優秀な講師や生徒を募った結果、ウィーンやバークリーを差し置いて、なぜか世界最高峰の音楽学校という称号を得てしまっている。

 ヨーロッパの音楽家を目指す若者は、みんなそのちいさな町の音楽学校へ行きたがる。

 やっぱりそれは、おかしな話だ。

 だって、日本には世界的に知られた音楽家なんてほとんどいない。

 現代音楽はともかく、それ以前のいわゆる古典的な音楽家では、日本人の名前は聞いたことがない。

 その点、イタリア、オーストリア、ドイツ、チェコあたりはよく聞くし、実際音楽文化が根付いているのに、そういう土地に生まれた幸運な学生でさえ日本を目指している。

 しかも、資料によれば、皐月町音楽学校は平日のあいだは封鎖され、学生も自由に出入りできないのだという。

 そんなの、監獄と同じだ。

 甘い餌で釣っておいて、誘われて入ってきた若者たちを捕まえておく――そういう卑怯な手段なのだ。

 ――出した手紙に返事がないのも、そのせいにちがいない。

 きっと学生が外と連絡できないように、手紙なんかは学校のほうで管理しているのだ。

 まさに牢獄、監獄で、生徒たちは外に助けを求めることもできず、苦しんでいるにちがいない。

 あたしはそんな状況から生徒たちを救うため、この国へやってきた。

 やけに湿度が高く、いやな暑さのこの国へ――アルを救うために。


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