西洋風異世界に『年賀状』なんて持ち込んだのは誰ですかっ!?
「おーわーらーなーいー!」
私は思わず文机に突伏する。うずと積まれた葉書の山が少し揺れた。
始まりはよくある話。ある日、突然異世界召喚。
私は幸せを運ぶ聖女として神殿で暮らすことになる。
ーーとはいえ、神官様達は親切だし、元いた世界とも手紙で連絡が取れるから不満はない。
ただ1点を除いては……
それが、聖女の主要業務が手紙書きだったことだ。
超筆まめ文化のこの国。
そんなこの国での聖女の仕事といえば、祝状やらなにやらとにかく手紙を書くことーー聖女の直筆は特に喜ばれるらしい。
それだけでも大変なのに、冬が来ると『年賀状』が仕事に加わる。
そう! 年賀状! 人も建物も明らかに近世西洋風なのになぜか年賀状!
なんでも、昔の聖女様が流行らせたらしいーーそら筆まめの国だもの、流行るよね〜
そんな訳で本日も、朝から年賀状を書き続けている私(休憩は挟んでる)。さすがに目が疲れてきたところで不意に部屋のドアが叩かれた。
「お疲れですね、聖女様?」
「局長さんっ!? どうして?」
部屋に入ってきたのは、王都中央郵便局の局長さん。
綺麗な銀髪を短く刈り揃え、濃い緑の制服を隙なく纏った彼は、30ちょっとで今の地位についたエリート。
私がこの国に来てすぐの頃、文字を教えてくれた先生でもある。
「集荷ですよ。あと頑張っている聖女様にご褒美を……」
「それは……チョコレート!? それも王都の有名店の!」
「聖女様はなかなか気軽に外出出来ませんからね」
「ありがとうございますっ! でも、いつも私もらってばっかりで……」
集荷と称しては、私の様子を見に来てくくれる局長さん。こうしてお菓子なんかをくれることもしばしばだ。
「ーーでしたら、今年は私宛てに年賀状をいただけますか?」
「私から? そんなものがお返しに?」
「手紙は最上級のプレゼントですよ」
ーー確かにそうだ。筆まめ王国において、心のこもった手紙は何よりものプレゼント……
「もちろん無理にとは……時間があればで結構です」
そう言って微笑むと、葉書の束を抱えて出ていく局長さん。
私は仕事を続けるべく、ペンを手に取った。
どんなことを書こう……いっそ絵を入れるのも……
思い浮かぶのはそっと葉書に触れる白手袋と、優しい笑顔。
年賀状文化……確かに悪くない。




