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琥珀の太陽、黒曜の月  作者: 結城暁


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05

「王陛下がお渡りになります」


 最初に王が来た日のように下女がそう告げた。

 ディナトはあの日と同じく廊下で王を待っていた。今回はあらかじめ絨毯を敷いて、王と自分の分の座椅子とクッションを用意して。


「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。今宵はどのような勝負をいたしましょうか」

双六(すごろく)だ」


 王は下女に持たせていた双六盤と賽を置いた。


「では始めましょう」

「おう」


 カラコロと賽をふる音が響く。


「あがりです。ではお引き取りを」

「もう一回!」

「承りました」


 カラコロ。カラコロ。


「あがりです」

「なぜ勝てぬ……」


 仮面の下でわずかに微笑みながら、ディナトは廊下から見える空を見上げた。

 暗い夜だ。小さな星の輝きがよく見える。


「夜が更けてしまいましたね」

「ぐぬぬぬ………」


 かすかに鳥の声が聞こえる。朝告げの鳥だ。


朝告鳥(あさつげどり)が鳴いてしまいましたね。今宵はここまでといたしましょう。またのお越しを」

「ああ! また来るからな!」

「お待ちしております」


 少しばかり荒い歩調で帰っていく王の背中に深く礼をして、ディナトは飛んできた小鳥に指を貸してやった。


「ありがとう。良い鳴き声だった。夜更かしさせてすまないな。おまえの好きな木の実も用意した。朝が明けても好きなだけ眠っていくといい」


 チィ、とかわいらしい声で朝告鳥(ことり)は鳴いた。


***


 ディナトとルルディーアが市場で子どもたちに誘われ、大人たちに誘われ双六に興じていると遅れてシンがやってきた。

 ディナトが大人たちを負かし、子どもたちに負けるさまをじっと観察する。


「あがりだ。掛け金をもらっていくぞ」

「そんな! 殺生な!」

「クソ! なんでこんな強いんだよ!」

「兄チャン、さっきガキ共に巻き上げられてたじゃねえか!」

「ははは、その子どもたちから巻き上げてた大人(やつ)がなに言ってる」


 そうしてたんまりと稼いだ金を再び子どもたちに巻き上げられ、財布の軽くなったディナトにシンがこっそりと話しかけてきた。


「強いんだな」

「まあそれなりに」


 ここだけの話、と仮面でくぐもる声をさらにひそめて、シンの耳元でディナトが囁く。


「賽の目をいじれるんでな」

「……そりゃ強いわけだ」


 カラコロ。

 ルルディーアが賽をふる。


「はいっ! 私も上がりです!」


 喜ぶルルディーアのあとに賽をふったディナトの目は三で、あがりにはいち足りなかった。


「ふふ、私の勝ちね! よかったあ、ビリにならなくて」

「お見事。さすがだ」


 おどけたように両手を上げるディナトにシンは苦り切った顔で独り言ちた。


「接待もお手の物か……」

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