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俺とアイツは友達じゃない。  作者: 斎藤ニコ
Chapter Ⅴ

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第87話 誰も教えてくれない

「――はっ!?」


 気がつけば自室だった――というレベルまではさすがにいってはいないが、ベッドに寝転んでいると現実逃避の果てに眠くなってきて、うつらうつらとしていると無意識のうちにいろんなことが自動で再生されはじめて――はっとなるということをもう数回繰り返していた。


 いろんなこと――それはもう、いろんなことなのだが、じゃあ実際それってなんなの?、ときかれると、正直なところいろんなことというよりも、たった一つのことでしかなかった。


「……原宿って、なんか有名なところあったっけか……、えーっと……げ!? 表参道!? あの!?」


 本当に原宿にあるのか?

 表参道……本物か?

 アメリカ村みたいなノリの話はないよな――あるわけないよな。


 俺は正直なところ焦っていた。


 なぜって、藤堂が俺に『五時間、買い物に付き合え』と宣戦布告をしてきたから。それも人の視線であふれている都心――若者の街、原宿。

 いや、宣戦布告なんていったら怒られる。宣戦布告ではありません。


「とにかく今は原宿だ……ま、まずはMAPを調べよう……」


 俺はベッドにうつ伏せになりながら、オンラインゲームの情報を集めるかのようにして、原宿の情報を集めていく。

 そもそも何のために原宿に行くのかが不明なので、おおざっぱに調べるしかない。


「原宿という名前の理由……なになに……『原宿という地名はありません』……え? どういうこと?」


 なんだか、いきなりあやふやだった。

 調べ始めた初手から、あやふやだった。

 こうなると何としても原宿の地名の由来の確定情報を手にいれなくてはと考えて――はっとなって、ブラウザのタブを全て消す。

 

 落ち着け、俺。

 そんなことを調べても何の意味もないじゃないか。

 まさか、藤堂と原宿を歩いている最中に『原宿の由来はな……』とか話し始めるというのだろうか。

 キモい。

 さすがの俺でも、俺がキモい。


「茜に知られたら、ぜってーになんか言われるぞ……」


 最近、反抗期のようなものが来ているような来ていないような、そんなビミョーな立ち位置の妹に、『原宿って、そもそもなにが起こる街なんだ……?』なんておびえた目で相談してみろ。

 それは最後の日だ。何が最後なのかは不明だが、とにかくそれは最後だと思う。


「そもそもなんで原宿なんだよ……」


 俺は何度もその言葉を藤堂にぶつけた。

 階段踊り場から、下駄箱に行くまで、とにかくその思いをぶつけた。

 そしたら藤堂は『原宿ぐらいで、慌てないで。地球っていう意味じゃどこも同じなんだから』なんて返してきた。

 さすがにワールドワイドすぎて、同調できなかった。


 俺の頭は似たような箇所ばかりを、おかしいくらいに繰り返す。

 藤堂の言葉を何度も繰り返す。

 別れ際に誘われた言葉を思い出す。


「話したいこと、か」


 俺が話すべきことは話したと思うが、藤堂にも何かがあるということなのだろうか。

 俺が漆原と出会ったように。

 藤堂も何かと出会ったのだろうか。


 そしてそれを話すために俺を原宿に連れ出して――いや、それは少しおかしいか……?

 それだけが理由なら、五時間の買い物なんていう話が宙に浮いてしまうようだった。

 多分、だけど。


「……意味がわからねえ、まじで、一体何なんだ」


 この数ヶ月。

 たった一つのシューティングゲームで俺の人生は変わってしまった気がする。


 やっていることは、同じなのに。

 進んでいる道が違う。

 そんなことってあるのだろうか?


 わからない。

 全くわからないし、そもそも藤堂なんていう雲の上の存在が関わっている現象を、俺ごときが理解しようとすることが間違っているのかもしれない。


「……だよな。きにするだけ無駄だ。当日になればわかるんだし!」


 うんうん、などとあからさまに俺は頷く。


 約束の日は週末の日曜日。

 待ち合わせ場所は、姫八駅ではなく、原宿の改札の前。

 同じ駅の同じ路線を使って原宿に向かうのだから、姫八で待ち合わせしてもいいものだけど。

 

 でも、藤堂は『原宿で待ち合わせだから』といって譲らなかった。『姫八で待ち合わせしてたら、日常と変わらないでしょ』と。


 いつも通りの何が悪いのだろうか。

 いや、多分、悪いのだろう。

 俺が気がつかないだけで、それは藤堂にとってはとっても悪いことなのだろう。


「っく……茜に聞いてみたい……理由がわからないことが多すぎてシぬ……」


 相談相手が妹しかいない事実に絶望しながらも、俺は頭の片隅でくるくるとターンを決めている一文を、必死に奥へと押し込んだ。

 

 茜に聞けるものなら、聞いておきたい――でも、聞くとややこしくなるにきまってるために質問することのできない言葉が、約束当日まで頭の中で、地面を掘る勢いでスピンし続けるに違いない。


 動体視力を総動員させて、目を凝らせば、そこにはこう書いてある。


『男女で原宿に行くって、どういう意味があるんですかね……?』


 なんて女々しい質問だろうか。

 絶対に口にしちゃ、ならねー気配がする。


 クエスト受注者。急募。

 報酬、俺の感謝。

 誰か答えを教えてくれ――なんて願っても、叶うことがないことぐらい俺にだってわかるさ。


 とりあえずどっかで新品の服を買っておこうか。

 これぐらいは茜におすすめを聞いても大丈夫だよな……なんてビクビクしながら俺はメッセージアプリを開いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 葛藤してこそ黒木でしょう。 「ふーん原宿ね。ふーん」と言うようならそれは黒木じゃない。 そして「新しい服を買うんだけど」と妹に漏らそうものなら すべてを聞き出されることになると思うんだけど…
[一言] ファッションに気を遣う感じの人って、ユニ〇ロとかあんま着ないよね... とても良いのに...
[一言] にゃー
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