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俺とアイツは友達じゃない。  作者: 斎藤ニコ
Chapter Ⅳ

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第71話 決意

 教室。

 昼休み。


 日常がやってきて、俺は当たり前のように登校する。

 テストの終わった学校が、すぐさま期末考査への道を進む生徒ばかりを内包しているわけもなく、前述の通り『日常』というものを堪能しているやつらがほとんどだと思われた。


 だが、ほとんど――ということは、少数派もいるわけで、それはようするに俺のことなのだった。

 

 目の前には教科書。

 座る自席。

 飯は最低限のコッペパン。

 眠くなることもなく、教科書を読み込んでいく。


 ゲームのおかげかは知らないが、集中力には少し自信がある。

 騒音の中でも読書に集中できる自信もある。

 人の目は気になるが、会話だけなら問題はない。


 だから俺の背後でいつものように、当たり前のように話をしているギャル集団も、意に介すことは全くない。


「え、うける、あいつ勉強してんだけど」

「まじだ。マシロがなんかしたらしいよ」

「わたしは別に何もしてないし、黒木は黒木の理由から頑張ってるんでしょ」

「なんで呼び捨て? なんで呼び捨て?」


 いや、だから、俺は集中力に自信がある。

 視線を感じるのは苦痛だが、会話などの雑音ならシャットダウンすることも可能だ。

 だから勉強をして、勉強をするので、勉強を……。


「呼び捨ては、黒木がそうしろっていったから」

「そもそもなんで仲いいんだよ、うける。どんな話なのこれ」

「5周くらいまわって、頭おかしくなってんじゃないの」

「なんで……、なんでこんな意味のわからないキモオタに……」


 だから最後!? いい加減、発言しているやつの顔を確かめたいぞ!?

 だが俺は、頑なに振り返ることはせず、だから声と顔もいまいち一致せず、でも、確実に一致する一名の会話に心を乱されるのだった。


 藤堂の。

 声が聞こえるたびに。

 脳裏に別に誰かの声がよぎる――付き合って。


 それはもはや疑いようもなく、付き合うことに対する要望だった。

 告白というやつを、俺は人生で初めて耳にした。それは思っていたよりも、地味に、しかしぐっさりと心に刺さるような経験だった。


 ただの言葉なのに、意味が加わるだけで、それは言葉以上の意味を持つ。

 そんなことを俺は、漆原から教わった。

 一方的に助けているだけのつもりだった相手から、返しのカウンターを俺はくらっていた。

 藤堂に見られていたわけはないのに、なぜか全てが見透かされているような気になるが……、いやそれは俺の妄想だろう。


「……、……」


 なんか背後からめちゃくちゃ圧を感じるんだが。

 これって俺を刺してきてもおかしくない藤堂のファンだろうか。

 それともこれは、なんでもないようにギャル軍団の中心に立つ藤堂が、俺の異変に気がついたと言うことだろうか。


「……、……」


 ちくしょう。

 俺は集中力が……集中力が……くっ、続かない……。


 時計を見ればまだ半分以上、昼休みは残っている。

 ここでこんな気持ちになっていては、勉強だってうまくいかないだろう。

 約束した以上、期末テストまでは気をぬくことは許されないだろう。


 いや、俺が言っても説得力ねーだろうけど。


 よし。

 俺は立つぞ。

 さりげなく立って、久しぶりに死角の多いぼっちポイントへ移ろう。


 そうと決まれば、さりげなく、さりげなーく立とう。


「と、トイレいくかな……」


 少し声が裏返ってしまった。 


「え、なんか言ってるけど」

「トイレいきたいらしいけど」

「なんなのよ……っ」

「いや、黒木だってトイレぐらい行くでしょ……」


 ちくしょう……っ。

 

 俺はみじめな気持ちになりながら教室を後にした。


「……、……」


 教室を出て行くとき、ちらりと見ると――こちらをじいっと、なんだか胡散臭そうなものを見るような目つきで観察する、金髪美少女がいた。


 その名は藤堂マシロ。


 どうやら俺は何もごまかせてはいなかったらしい。


   ◇


 それにしても、このままでは普通の生活すらままならない。

 ままならないほどに、俺はテンパっている。


 だから、俺は一つの決意を胸に抱いた。

 抱くことにした。

 この状況を打破する。

 そのために漆原に連絡をとることにした。


 まさかそれが――予想外の結末にたどり着くことになるなんて思いもせず。


 そして漆原の本当の意図に気がつくことになるなんて、予想もしない中、俺はメッセージアプリを開いたのだった。

 

 話は終わりにさしかかってきた。

 だが、話はまだ、これっぽっちも始まってなんかいなかった。

 これが本ならば、随分とバランスの悪い構成だが――これは創作ではなく人生なのだ。

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