第21話 宣言通りに
ここまでお読みいただいている方は何名いらっしゃるのでしょうか。よくわかってないのですが、本当にありがとうございます。
さて、先に申し上げますと、今回から続く一連の流れが終わるまで、約15000文字になります。
ただ、どうしても3分割ができなかったため、1500~3000文字程度を目安に5分割しております。
※短い場合は連投です。
――それでは、どうぞ。
四回目のパーティプレイの後。
屋上手前の階段踊り場で。
16時の別れの時に。
『……なんてね。あはは、驚いた? ごめんごめん』
それが藤堂の最後の言葉だった。
その表情は、仮面を付け替えたかのように瞬時に、明るいモノへと変わっていた。
俺の失言によって事故を起こした――はずの言葉は、あたかも無かったかのように処理された。まるでゲームで失敗しても、残機があったがためにステージの最初から始められるシステムのように、失言は無かったかのように時間は進み、なんてこともなく俺達は別れた。
こちらからは、何の言葉もかけることはできなかった。
現実世界で追突事故を起こしたって、突っ込んだ側に主導権があるわけがない。
俺はただただ『お、おう』と繰り返すだけしかできない。
藤堂は軽く手を挙げると、言葉を発することなく、階段をおりていった。
藤堂の去った階段踊り場――またの名を『秘密の場所』は、元からそうだったかのように、俺という誇大妄想ばかりを繰り返すボッチをひそかに内包するだけの空間に成り下がった。
遠くから聞こえる運動部の声。
吹奏楽部の調律の音。
明り取りから差し込む光。
それまでは当たり前だった光景なのに。
どこか、広く感じてしまうのはなぜだろうか。
俺はしばらくそこから動くことができなかった。
事故を起こしたって、ここには救急車はやってこないのだ。どうしたって自分の足で帰らねばならないのだ。
◇
あくる日曜日。
俺は早い段階から、今日という日は、茜から頼まれていた動画の編集に一日を費やそうと決めていた。
何かを忘れたいときは、別の何かに集中すればいいと思うのだ――理論上は。
残念なことに、他人のゲームプレイ動画をみたからといって、自分の技術が劇的に上がるわけがない。もちろんそれが大事な局面というものは必ず存在するが、今の俺に当てはめるのならば、目だけが肥えたプレイヤーのように、出来そうで出来ない技術を前に、理想と現実のギャップに苦しむだけだった。
午後三時。
朝から手を付けている動画はまだ完成していない。
「……はぁ。効率、わりい」
仰向けにベッドにダイブ。
何年も見上げてきた天上が目に映る。
白い壁紙に、昨日の光景が投影された――気がした。
作業が進まない理由は分かっている。というか、分からない奴なんているのだろうか。いるんであれば、その鈍感力を分けてほしい。そうすれば壊れたジョイスティックみたいに感度が変になっている人間は、ちょうどいい位置に立てるのだと思うのだ。
『――それに、有名人なんかじゃ、ない』
昨日の藤堂の言葉。
文字数にすれば、たいしたことなんてない。
喧嘩だってしていないし、意見の相違だってみられない。
だが、確実に何かを間違えていた――いや、間違えていた、は少し違うのかもしれない。俺は、何かのイベントに進むべきスイッチを押してしまったのだろう。
事故。
簡単に言えば、意図せぬルート分岐。
攻略サイトでもあれば、目を皿のようにしてこの先の展開を探るだろう。バッドエンドなのか、グッドエンドなのか、トゥルーエンドなのか、エンディングの数はいくつなのか――だが、現実に攻略サイトは存在せず、エンディングさえ用意されているかの確証もないのだ。
「有名人じゃない、か……」
心の片隅に巣くっている『ひねくれた自分』が、唾を吐き捨てる。
「十分、有名人だろ……」
だが、そういうことではないのだろう。
そんな簡単な問題を解いているだけで人生が終わるのであれば、俺は今頃億万長者にでもなっている。
結局、その日の作業は夜まで続いた。
藤堂からの連絡はなかった。宣言通りに。




