後悔
まず、由良はチェーンメールで彼女の評判を徐々に落としていくことを話した。
私は彼の意見を参考にし、彼女に対して様々な噂をチェーンメールで流した。
彼女が援助交際をしている話、テストでカンニングをしている話、とにかくありとあらゆる噂を立てた。
時には写真を合成してそれとなく本人があたかもそこにいるようなものを作って彼女をおとしめた。
「由良先輩、本当にこれでいいんですか?」
「あぁ、彼女の表情を見ただろう。だいぶ反省をしているんじゃないかな」
確かに彼女は最近おとなしくなってきている。
彼女の噂がすごいせいか、最近私の噂はほとんどなくなっている。
そして、私は自分の友達と又以前のように話すようになっていた。
この時私は全てが上手くいっているように思った。
そして私はこの後多大なる後悔をすることとなる。
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくるね」
ある日の休み時間私はトイレに向かった。
単純に顔の化粧を直したくてトイレに行っただけだが、その時に遠野さんとすれ違った。
私は彼女の姿を見て驚いてしまった。
全身びしょぬれ状態で頭も濡れている。
ただ彼女は何も言わず唇をかみしめながらトイレから俯いて出てきていた。
さすがに驚いた私は由良に問い詰めた所、彼女はクラスでもいじめに遭っているらしかった。
「でも、それってさ、自業自得だと思わない? 安城さんを散々いじめていたのだからおあいこだよ」
私は納得してしまう。
確かに彼女はそれまで私の噂を流して私を孤立させていた。
そうだから、このようなことをされるのも彼女の自業自得ではないか。
私はそのように言う由良の言葉を信じてしまった。
そしてそれから日がたつにつれて彼女へのいじめはどんどんエスカレートしていった。
私が知るだけでも、彼女のかばんがゴミ箱に捨てられていたとか、机の上に菊の花が置いてあったりとか色々あったらしい。
私はそのことに関与していなかったが、どうやら隣のクラス一丸となって彼女をいじめていたようだ。
しかし、そんなことは私は気にしない。
全て彼女がやったことが原因なんだ。
自分は悪くない。
そう思いながら私は彼女へのいじめを見て見ぬふりをしていた。
学園祭が終わりしばらくして、私は由良と付き合い始めた。
彼は優しくて自分を見てくれるいい人だと思った。
だから彼の言うことを信じた。
そして、ある日私が屋上でお昼を食べようとしていた時のこと。
この日は由良の為にお弁当まで作ってきていて、屋上でご飯を食べようと相談までしていた。
「由良先輩、話が違うじゃないですか」
ドアの奥からそう聞こえ私はドアに耳を傾ける。
「何がだい? 俺は君には何もしていないけど」
ドアを少し開けて外の様子を見ると由良先輩と遠野さんがそこにはいた。
意外な組み合わせだった。
まさか由良が彼女と一緒にいるなんてことは私は想像していなかった。
「とぼけないでください。安城さんの噂を流して孤立させれば、私と付き合ってくれるって言ったじゃないですか。それが何で私がいじめられないといけないんですか? 助けて下さいよ」
私の頭には疑問符しか浮かばない。
だってあれは遠野さん本人が私に独断で仕掛けたのではないのか?
「助けてだって? 俺は君にはそんなことを言ってないよ。ただ、安城さんが好きなんだっていったら君が勝手にチェーンメールを作って流し始めたんじゃないか」
「言ってることが違います。それにチェーンメールの作戦だって由良先輩が私に言ってくれたことじゃないですか」
えっ?
てことは全ての元凶は由良先輩だったの?
私は混乱する頭で必死に考える。
「君は何を考えているんだい? 全ては君の自業自得じゃないか。それとも俺のことを教師にいうのかい? 君が流した証拠はあるが俺がやったって言う証拠はないじゃないか」
この時の遠野さんの表情はみえていなかったのだが、おそらく泣いていたのではないか?
「失せろよ屑が。自分で相手を陥れておいて自分だけ助かろうと思うな。もうお前は用済みなんだよ」」
そしてこちらの方へと走ってきていた。
慌てた私は急いで下の階に下り彼女が去ったのを見て、屋上へと向かった。
屋上にはしれっとしていた由良の姿があった。
「遅かったじゃないか、美雪。待ちくたびれたぞ」
「先輩、それよりも聞きたいことがあります」
私は由良に対して詰め寄った。
その理由は先ほど遠野さんと話していたことだ。
「さっきの遠野さんとの会話を聞かせてもらいました。あれは何なんですか?」
「遠野さん? あぁ彼女のことか。俺は何も知らなかったんだよ。あれは彼女が勝手に……」
「ふざけないでください。あなたが彼女に指示して色々やっていたんでしょ。」
「じゃあ君はその証拠はどこにあるっていうんだい?」
「それは……」
私はそれっきり口ごもってしまう。
確かに証拠はない。
だから由良を犯人だということを断定はできない。
「それよりも早くお昼ご飯を食べようよ。休み時間が終わってしまうから」
それから数日後、遠野さんは自主退学と言う形でこの学校を去った。
最後に私の机の中に入っていた彼女からの手紙が印象的だった。
その内容は由良のことが好きだったこと。
由良にそそのかされて私にしてしまった悪事の謝罪や、反省の言葉が並べられていた。
私はすぐさまそのことを由良に言いにいった。
「あなた、遠野さんをそそのかして私をだましていたのね」
「騙してなんかいないよ。それは彼女がやったことで俺は関係ない」
「あなたは最低ね。人の好意をもてあそぶようなことをして」
「おいおい、君だってそうだろう。君が遠野さんを退学まで追いやったんじゃないか」
「私は何もしていない」
私がそういうと由良はこちらを見てニタニタと笑っていた。
「でも、君がやっていたメールのせいでこうなった。それは事実だ」
「それは……」
「それにこちらはあのチェーンメールのデータや君の証言も全ても録音してある。果たしてこれを教師につきつけたらどうなるかな? 優等生の美雪はどうなるんだろうね」
私はこの時学園祭前の自分の状況を思い出していた。
もう2度とあんな風にはなりたくない。
それに私の今まで築いてきたことを壊されたくない。
そうすると由良は私に近づいてきて小声で何かを言った。
「昔の生活に戻りたくなければ素直に俺の言うことを聞け」
この時、私は弱かったので由良の言葉にうなづくことしかできなかった。
そしてその後は由良の言うことを聞いているしかなかった。
由良の彼女として振る舞い、彼の命令は何でも聞いた。
時には自分の体を求められることもあったが、当時学校の体裁や地位を気にしていた私は由良に素直に自分の体を差し出していた。 あの時の私はひたすらに怖かった。
自分が今まで築いてきたものが壊れるのが怖かった。
一種の恐怖観念にとらわれていたのだろう。
今考えただけでもぞっとする。
私は何故こんなことをしていたのだろうと。
そんな日が半年続き、私が高校2年生に慣れてきた5月12日。
その悪夢は唐突に起こったのだった。
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次話ではついに感染者達がでてきます。
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