憂鬱な休み時間
「はぁ~」
朝のホームルーム前の教室で俺はどことなくため息をついてしまう。
ため息の原因は決まっている。
友梨亜の説得のことである。
あの後、真奈と美雪と話た時、真奈が『善は急げじゃ』などと言い、本日2人が岬家に来ることが決定した。
幸い俺のお宝本やお宝DVDは隠したからいいが、あいつら果たして説得なんてできるのか?
友梨亜はお調子者だし、あざとい割には超慎重なんだぞ。
そんな奴が果たして説得に応じるのか。
それに何故か最近友梨亜の様子が妙におかしい。
何かこちらを探っているような感じがする。
「雄二。なにしけた顔をしてるんだよ」
「うるさい」
眼鏡をかけた見た目だけは理知的な少年が俺の席の側にいつの間にか寄ってきていた。
葛城尚道、一応俺の親友と言うことになっている。
「そんなんだから、安城さんにも逃げられるんだよ」
「何の話だよ」
逃げられるどころか最近美雪といる時間が増えている気がする。
何とか他の人に見られないようにしているが正直いつばれるか不安でしょうがない。
特に由良にばれた日には何が起こるかわからないので絶対にばれたくない。
「なんだ? お前あの噂知らないのか? もう校内中で噂になってるぞ」
「何の噂だよ?」
噂ってなんだよ?俺はそんなの知らないぞ。
「お前知らないのかよ。由良先輩と安城さんが付き合ってるの」
そんなこと知るわけないだろ。
第一に美雪はあいつのこと嫌っている。
あいつと美雪が付き合うことなんて万が一にもあり得ないだろうが。
「そんなことデマだろ。お前は何を信じてるんだ?」
「でも一昨日の夜、2人でホテル街にいたのを目撃したって話もあったみたいだし」
んな所に美雪がいる訳がないだろう。
一昨日は真奈の家で、夕食をごちそうになった後3人で夜間の感染者対策とかいって朝までSPと戦っていたのだから。
今考えてもあの時のことは鮮明に覚えてるぜ。
美雪も真奈も俺のことを散々盾にしやがって。
おかげで2人分のペイント弾が俺に当たって大変だったんだからな。
これ中々落ちないんだぞ。
ちなみに今着てるワイシャツの下にもまだペイント弾の後残っている。
こんなことをやっているのに、美雪がホテル街に行くってのは無理があるってもんだ。
「み……安城さんに確認したのか?」
「いや、してないけど……みんな言ってるし確実かなって」
なんだよ噂か。
そうやって人に流されるのはどうかしてると思うぞ。
こうやって流されるとろくなことないしな。
実際に噂に惑わされて、ろくなことにならなかった人間を俺は知っている。
だから親友である尚道にはあまりそういうことを言ってほしくない。
「お前な、人の噂とかはあまり信じない方がいいぞ。それが本当の話ならともかく確証がないのにそんなこと言っちゃ駄目だ」
俺は尚道にそう注意をする。
人の噂を当てにしてもいいことはないしな。
本当のものもあるが基本的には脚色されたものが多いし、噂など頭の片隅に置いておけばいい。
「雄二って変わったよな」
「変わった?」
俺は尚道の言葉に怪訝そうな顔をして返す。
「あぁ。2か月前のお前ならこんなこと言わないで、興味なさそうに相槌をしているだけだったからな」
昔の俺はそんな感じだったのか。
自分でもあまり気付かなかったな。
これもあのアウトブレークを何度も経験してるからだろうな。
「もしかしてこれは、安城さんと何かあったからか? 一昨日2人でお楽しみなことをしていたとか」
「そんなことあるわけないだろうが。バカかー」
「あれ~? 今最後声裏返ってたよ。もしかして……本当に……」
いきなり言われたからつい声が裏返ってしまった。
バカか俺は。
尚道の目をよく見ろ。
こちらの方をいやらしい目つきで見ているぞ
こういうときは……。
「俺ちょっとトイレ行ってくる」
戦略的撤退だ。
そう言い席を立つと尚道が、「ちょっと」とか「逃げるな!」とか言ってくるがそんなことはお構いなしに俺は席を立つ
何とか尚道の追及を逃れると、俺は廊下に向かって歩き出した。
しくじった。
こちらに対しても何かいい言い訳を考えておかないと。
そう思いながら俺はトイレの方へ向かった。
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