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一月一日 悠希と彩の未来

「あんな感じでよかったか?」

「もちろんです。お手数をおかけしました」

「いいってことよ。それが泉沢の答えなんだろ?」

「はい……」

「さてと、それじゃあ確認だ。初詣の予定は固まった。あとは現地に着き次第、早めに四十崎と麻生を二人きりにする。そこまでは確定だな?」

「はい。おそらく麻生さんは四十崎さんとの時間を過ごせば過ごすほど、離れるのが辛くなるはずです。もしかすると、もう親友以上の感情を持っているかもしれません」

「でもさ、さおりんって意外と引っ込み思案なところあるから、ちゃんとアイちゃんに気持ち伝えられるかなあ?」

「そこは様子を見るしかないだろう。あたしらがどうにかしていい問題じゃない。あくまで麻生自身が立ち向かわなけりゃならんからな」

「そうですね。けれど、陰ながら応援することはできます。私の見立てでは、そろそろ相談を持ち掛けてくると思うのです」

「陰ながらって、ぶっちゃけ根回しみたいなもんか? まあ、それで丸く収まるならいいけどな。相談されるにしても、受け答えはもう決まってるんだろ」

「ある程度は。悪いようにはしませんよ」

「そうかい。そしたら話はこの辺で終わっとくか。あたしもそろそろ寝たいしな」

「はい。ありがとうございました」

「おやすみ。寝坊しないようにな」







 雲は少なく十分な日差しが降り注いでいる。それなのに、時折吹く風が温もりをすべて持ち去ってしまう。

 そんな寒空の下でも、この周辺だけは参拝客で賑わっていた。


「──彩、寮監さんに連絡ついたわよ」

「んー」


 携帯電話を閉じたのは悠希、ベビーカステラを頬張っているのは彩である。

 要と沙織から離れ、二人きりにさせるのも、自分たちが二人きりになるのも簡単だった。彩が適当な屋台に夢中になり、悠希はそれに付き添うという名目を立てる。あとは軽く背中を押してやるだけで目的は達成できた。


「悠希も食べる?」

「そうね。いただこうかしら」


 演技のはずだったのだが、どうも彩は本気でベビーカステラが食べたかったらしい。車内での空腹感を訴える姿も、本心から来るものだったということか。

 十数分ほど待っていると、ようやく寮監がやって来た。


「まったく……あの渋滞は予想以上だったな」

「お疲れ様です」

「ベビーカステラ食べる?」

「ああ、一つ貰おうか。疲れた時には甘いものが一番だな」


 寮監を加え、三人で歩き出す。


「ところで、これからどうするよ? 素直にお参りするのかい?」

「別に、そんなのしなくてもいいんじゃない?」


 彩の意見だった。本当にそういったものが無意味であると信じているような声に、悠希も頷いている。


「私も彩に賛成です。初詣という行事の時だけ信心深くなっても無意味だと思いますので」

「おやおや、現実的で冷めたこという女子高生だねえ」

「じょうがないじゃん。あたしたちはそういう考えなんだから。そうでもしないと、やってけないよ」

「確かに、考え方や思想は以前と変わりました。やはり、この力を持ってしまったことが原因なのでしょう」

「まあな。普通でいる方が難しいってか、むしろバカバカしくなるかもしれんな」


 寮監はそこで一度視線を逸らした。遠くを見つめるような目になったかと思うと、今までの空気を消し去るかの様に深く息をつく。


「そしたら、あの二人の様子を覗き見でもしてみるかい?」

「いえ、それもしません。二人だけの時間を邪魔しては興醒めというものです」

「そうだよー。もうそんなことしないって決めたんだから」

「なら、あたしもしばらく好きにさせてもらうけど、いいかい?」

「いいんじゃない? ねっ、悠希」

「もちろんです。あの二人が参拝を終えるまで、たっぷりと時間はあるはずですから」

「よっしゃ、そしたらあたしは先に行かせてもらうよ。新年最初の景気付けをしてくる」


 そう言い残して、寮監は去っていった。それを見送って、悠希は彩の手を取る。


「あたしたちはどうしようか?」

「そうねえ……特にすることもないし、屋台でも見て回ろうかしら」

「やった! 実はたこ焼きも食べたかったんだ」

「いいわよ。買ってあげる」

「わーい、悠希大好き! あっ、ここの屋台がおいしそうだなあ」


 悠希の手を引く彩は、心からこの雰囲気を楽しんでいるようだった。


「そんなに焦らなくても、何も逃げたりしないわよ」


 逃げたりしない。それは悠希自身にも言えることだった。

 今までの考えを改め、これからのことを決めた以上は、もう迷うことなど許されない。今では心から皆の幸せを願っている。


 彩がたこ焼きを頬張る横で、悠希はふと空を見上げた。要と沙織は今どの辺りにいるのだろうか。長い行列はここからでも視認できる。その長い人波の中で、二人の距離も縮まっているのだろうか。

 その気になればこの目で確かめることもできるのだが、悠希はそっと目を逸らした。そして、隣で満悦の表情を見せる恋人へと視線を移す。


「ん、悠希も食べたい?」

「いいのよ。私は残った分を食べるから」


 秋奈のことも気にかかっているが、こちらは既に悠希たちができることはほとんどないように考えていた。秋奈と衿香、時が満ちれば確実に二人の想いは通じ合うだろうと予測している。

 問題点を挙げるとすれば、距離と時間だろう。遠過ぎず、近過ぎず。そんな微妙な距離では決意が揺らいでも不思議ではない。長い時間を待つことに、秋奈が疲れてしまうかもしれない。

 もしも秋奈が悩むようなことがあれば、可能な限り助けたいと思っている。それに、秋奈は沙織に対しての影響力も強い。その点からしても、秋奈を外して考えることはできなかった。


「ごちそうさま」

「食べ終わった? なら次に行きましょうか」


 手を差し出せば、無条件で繋いでくれる。そんな存在がすぐ隣にいる幸せを、悠希は改めて確認する。

 この手は何があっても離さない。そんな決意を秘めて、彩の手と指を絡め合った。


「彩」

「なあに?」

「これからも、私についてきてくれる?」

「悠希のいるところが、あたしの居場所だよ」

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