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一月九日 秋奈と衿香の約束

 昨夜は衿香の部屋で共に眠り、朝を迎えた。今日が秋奈の帰る日だからと、衿香がそう望んだのだった。

 今日まで秋奈は、持てる時間のほとんどを衿香と過ごしてきた。遊ぶばかりではなく、勉強の手伝いもしてきた。今だけでなく、将来も共に過ごせるために必要なことだから。

 それでも一緒にいることには変わりがないので、二人にとっては楽しい時間となった。


「また春休みに帰ってくるからさ」

「きっとだよ?」


 そんな時間もあっという間に過ぎ去り、秋奈が葛上山市へ戻る日が訪れた。駅の改札前で、二人は別れを惜しんでいる。


「三年生になった衿香の制服姿、見せてね」

「制服なんて変わらないんだから、今だって見せてあげられるのに」

「だーめ。楽しみは後にした方がいいんだから」


 楽しみは後で。その言葉は二人にとって深い意味を持っている。衿香が決めた期限まで一年ほど。受験の結果は試験日の翌日──二月後半に発表される予定だ。


「じゃあ、またね」


 秋奈は荷物を持ち直して改札の向こうへと歩き出す。


「またねー!」


 元気な声と共に大きく振られた手には、やはりあの手袋が付けられていた。

 ホームで線路の向こう側を眺めながら、数分前まで衿香に掴まれていた腕を撫でる。そこに温もりが残っているかのような錯覚を確かめながら電車を待つ。


「間もなく、一番線に電車がまいります──」


 響くアナウンス。見れば、銀色に輝く電車に姿を確認できた。秋奈が鞄を持ち直すと、ホームに電車が滑り込んでくる。

 乗客を飲み込んだ電車は走り出し、秋奈を衿香の元から連れ去った。

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