一月九日 一つの区切りと始まり
「そろそろかな?」
「秋奈からメールあったけど、たぶん次の電車だと思うよ」
改札前で、要と沙織は秋奈の帰りを待っていた。新学期の開始を二日後に控えたこの日、ようやく秋奈が帰ってくるのである。
「秋奈さんと会うのも久しぶりだね」
「向こうでの思い出話、いっぱいあるんだろうなあ」
「これで沙織も寂しくなくなるかな?」
「……そうかも」
なんとか微笑んではみたものの、上手くできたかどうかはわからなかった。沙織の心にあるのは、それが別れの言葉なのではないかという不安だけ。
「やあやあ二人とも、出迎えありがとう」
そんな暗い気持ちを吹き飛ばすかのような明るい声。今しがた改札を通過したばかりの秋奈が手を振っている。
「遅くなったけど、あけおめ。今年もよろしくね」
そんな秋奈に合わせ、二人も遅い新年の挨拶を交わした。
寮までの道を歩きながら、互いの思い出話をし合う。
「沙織、寂しくて泣いたりしてなかった?」
「してないよ。だって、要がいてくれたもん」
「ほとんど毎日会ってたよね」
「おやおや、私がいない間にラブラブになっちゃって」
「むっ。そういう秋奈は? 向こうでどうだったのよ」
沙織の質問に秋奈は遠くの空に視線を投げる。
「私はね……色々あったよ」
「色々って何さー」
それに答えようと何かを言おうとしたが、一瞬だけ戸惑ったかのように秋奈は口ごもった。しかしそれも一瞬のこと。
「自分の気持ちに一区切りつけてきた、って言うのかな」
「んー、もうちょっと詳しく」
「だから、色々って言ってるじゃない」
はぐらかしながらも、秋奈の記憶は鮮明にその光景を覚えている。終業式の日に帰省してから、つい数時間前まで共に過ごしてきた衿香との一部始終。
そして──互いの想いが通じ合った、その瞬間は特に強く記憶に映し出されている。




