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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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フラハー国の布陣、完成

「質が悪いとはいえ、弓兵が四倍かぁ。援軍だから後方待機か側面警戒だと思ったら、前面に展開してきたね」


のぞみが呟くと、スパツェロも同意する。


「そうですね。最初から戦争に参加しないなら、森からの伏兵に向けて形上配置させてくるかと思ったんですけどね」


「夜襲で先頭部隊をまるごと失ったのと、理由はわからんが軽装歩兵がおらん。主力となる部隊が不在なのじゃ。ああやって前面に出すしかなかろうて」


アス老人も感想を述べる。


「そもそもブーツの紋章が示すように、プルミエ国の主力は軽装歩兵ですからね。それがいないというのも何とも解せないですね」


テラガルドも相手の陣容に違和感しか持っていないのであろう。


「で? どうすんだ。明らかに膠着状態になっちまうぜ。相手もこっちの反応待ちで、時間稼ぎが狙いだとすると相手の思うつぼだぜ?」


朝美は結論を急ぐが、正論だ。


「確かに。相手の狙いは時間稼ぎか、トータル兵数による消耗戦。何らかの事情で遅れているアインハイツ将軍、アドランデ将軍の到着を待つ、あるいは別同部隊の作戦が進行するまで時間稼ぎ、陽動をするのが狙いだと思う」


そういって、少し考え込むのぞみに皆が視線を集中させている。


「仕方ないね。膠着する可能性はあるけど、ちょっと、揺さぶりをかけてみよう。相手の弓兵の練度も低そうだし」


そういって、のぞみは兵の配置を指示する。


元々両翼に、正面を向けていた弓兵の前に、軽装騎馬をそれぞれ百五十ずつ配置する。


中央にはスパツェロの軽装歩兵を配置。


軽装歩兵にはメイン武器の槍とは別に、投槍用の槍を三本ずつ持たせた。


朝美がそれに混じる。


両翼が厚い陣形だ。


スパツェロは今までの教えから自分なりに分析する。


(騎馬が前列ということは守りよりも攻めに使うということ。両翼ということは、相手の左右の弓隊に突撃を行なうのが素直な考えかただよなぁ。もちろん、意表を突いて正面に行くのもないわけじゃないけど、無謀だ。相手としたら、両サイドの森からの伏兵を恐れて、ややそちらよりに弓矢隊を向かせているわけで・・・・・・だから半円状なんだよな。そこに正面に軽装騎兵がいたら、正面に警戒が向く、と)


そこまで考えると、部隊移動の準備をしながら、スパツェロはのぞみに答え合わせを願う。


「さっそく森の伏兵を使って、正面に意識集中したところを叩くってことですかね?」


のぞみは微笑むだけだが、かわりにアス老人が拍手を送る。


「ほうぅ。よく考えられるようになったもんじゃのぅ。恋の力は素晴らしいもんじゃて。こりゃあ、勝利した暁にはもっといいもんを売ってやらねばな」


といって笑っているが、スパツェロは逃げるようにして部隊移動を行なうのだった。


のぞみと朝美はわけがわからずキョトンとしており、テラガルドは顔を背けている。


朝美は、移動前にのぞみを見て、聞く。


「で、あいつの考えで正解なのか? 」


「基本的には正解だよ。でも、ボクには布陣で圧をかけたくらいで決定的な隙というほどのものができるとも思えないから、伏兵を使うにしてはちょっと弱い作戦だよね。まずは相手の反応を見たいから、ちょっかいだしてみるよ」


そういうが、教え子の成長が嬉しいのだろう、かすかに微笑む。


「あ、スパツェロさんが行っちゃったから、朝美ちゃんに伝令もかねて作戦を伝えておくね」


そういって、伝令を伝える前に行ってしまったスパツェロの代わりに朝美が指示を受ける。


「了解、と。でも、あたるかどうかはわからないぜ? さすがに距離もあるし、警戒もしてるだろうからな」


作戦を聞くと、朝美は成功は確約できないとばかりにのぞみに答え、やりを数本持つ。


「はは。あくまでも牽制が目的だから、あたったらラッキーくらいに考えてるよ」


そういってのぞみは言うが、そう言われると是が非でもあてたくなる朝美である。


手を挙げてヒラヒラと了解の意を示すと、部隊へと合流していく。


森で半日待機しているフラハー王とアンダールは暇を持て余し、櫓状の琴葉も同様だったが、一人ティラドールだけは緊張感にあふれているのだった。


こうして布陣と初動の作戦が決定。


奇しくも、第一次プルミエ侵攻と同じく、守勢のはずのフラハー国が先に動くことになる。

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