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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第二部 第二次プルミエ侵攻
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夜襲、撤退

 もちろん、七百の兵で数十人を囲んでいるのだ。


追撃すれば確実に討ち取られるが、奥から後続の兵が来ることを確認し、のぞみが撤退の指示を出す。


「くっ。しょうがない。敵指揮官は取り逃がしたけど、しょうがない。撤退だよ。ボクらが殿を務める。総員撤退を!」


そう大声を出すと、呼応したようにスパツェロが同様の指示を出す。


「総員撤退! 目標地点まで一時撤退だ。一度引いて立て直す。次の部隊の夜襲へ作戦を移行する。繰り返す。各自ばらけて散開。一時撤退だ!」


予め決められた台詞とともに撤退指示を出す。


次の部隊の夜襲などないし、目標地点もない。


最初から五人組で動いており、必ず固まって行動しているため、「各自散開」といっても、個別でもない。


この状況で相手が追撃してくるわけもないのだが、負傷兵がとらわれて拷問された挙げ句に情報が漏れるということもさけたい。


一兵たりとも敵に捕縛されることなく撤退することを目標にしている。


琴葉を除く四人は殿を務めながら、撤退していく。


元々七百人いた先頭の軽装歩兵部隊は、ここに来るまでの罠も含め、おそらく二、三十人にまで減ったであろう。


今回の襲撃でこちらも十数名は死傷者が出たと思うが、大成功と言って良い。


しかし、指揮官を取り逃がしたことは大きく悔やまれていた。


「くそっ。すまねぇ。やり損なった」


朝美が自分の責任とばかりに皆に謝る。


「いや、終始見取ったが、あれは敵を褒めるべきじゃろ。スパツェロの剣戟もはじき返して追ったし、赤い髪の嬢ちゃんの槍をはじいただけでなく、蹴りも防ぎよった。油断なく気を張り巡らし、隙らしいものは感じんかったわ。まぁ実力はそれほど高くないがな」


アス老人は慰めるように言う。


「悔しいけど、同意見だぜ、ジジイ。アイツはたいして強くねぇ。強くねぇけど、気迫というか、執念というか、なんか生き延びる何かを持ってやがる」


朝美は言葉で上手く表現できない何かをエーザスに感じたのだろう。


感じ取ったゆえに悔しさを滲ませる。


「ボクもちょっとムキになって追いすぎたよ。指揮官を討ち取れなかったのは残念だけど、成果は十分すぎるほどあったから良しとしようよ」


のぞみも悔しかったのであろう。


自分に言い聞かせるようにして、一度話を締めた。


軽く小走りで戦線から離脱すると、警戒しつつ歩いて平野へと戻る。


途中、数部隊と合流し、不完全ながら情報を集め、朝日が昇る頃には森の出口付近まで戻ることができた。


侵入するときと違って、ほぼ無警戒に戻れたので帰路は早かった。

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